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1章 アンジェラス1は転生する
45話 模擬戦当日
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ーー模擬戦当日
王城は全開放され、平民でも貴族でも誰もが見られるになっていて、観客席が凄いことになっていた。
「まるで蟻のようだね。」
『言ウナ。』
胸の中で話すフェンリルの声は、いつもより潜められている。
「私は三公格3人とトーナメント式で戦うんだよね。誰が勝ち上がるか大方見えるけど……まぁ、楽しみにしてるよ。」
大将軍に三公格を合わせて四チームあるから、クジで何処のチームで戦うかが決まる。
因みに、大将軍としての意地だからなのか、部下が負けようともフェリックスは誰にも負けたことはないらしい。
私が店で働いている時に魔物を倒した現場を目撃するまではこの国最強だと思っていたし思われていたそうだ。
「誰1人として負けないように仕込んだから、心配はいらないね。」
『勿論ダ。』
自信満々なのは、私だけじゃなく私の部隊全員自信に満ち溢れた、堂々とした姿で地に足をつけている。
顔つきだって、以前とは比べ物にならないほど逞しくなったと思う。
「作戦は立ててきたよね?」
「勿論です!!」
名前は知らないが副隊長に聞けば、元気のいい返事が返ってきた。
「じゃあ、頼んだよ。」
「はい!!」
大きな返事と共に、ラッパの音が場内に響く。
〈さぁさぁーー始まってまいりました!!今回実況を務めさせていただくケイジと申します!!クジを引いた結果は、赤と白、大と青です!!!〉
その放送に観客の声が、ワァッと大きくなる。
「ねぇ、副団長。色分けどう言う事?」
「俺の名前はカンスト・アーバーです。」
すかさず茶髪に黒目の屈強な男ことカンストが名前を主張してくる。
「赤はアードリア軍、白はリアストス軍、大は天使軍、青はカイエン軍です。」
天使と呼ぶのは屈辱的だから止めてと言ったけど、「恥ずかしがらなくても良いですよ!」と、聞いてくれなかった。本当に屈辱的だから、やめて欲しいだけなのに。
何を言っても褒め言葉で返されて、五月蝿かったから諦めた。
あと、大の男共が目をキラキラさせて胸の前で手を組んでお願いポーズをする姿が見ていられなかったのだ。
「じゃあ、私達はアードリア軍と戦うんだね。」
「はい。」
「色男が多いらしいから、気をつけるんだよ。実力もそうだけどイケメンオーラに負けちゃダメ。」
「大丈夫です。天使様を見ればアードリア様の美貌なんて虫以下ですから。」
流石にそこまではないと思うが、やる気があるので良しとする。
「じゃあ、任せたよ。みんな。」
「「「はい!!」」」
隊長同士の戦いまで、隊長は特別観客席から見下ろすルールがある。
しかも、喧嘩しないようにそれぞれの軍の真上にある。
因みに皇族は、中心だ。
王妃様と王様、王子様2人が見える。
でも、興味無いから直ぐに目を逸らす。
「フェル、今までの努力をちゃんと見るよ。」
『予想ニ反シテ、誰モサボラナカッタカラナ。』
「絶対に誰も負けないはず。」
どんな手を使っても、反則でなければ構わない。模擬戦も戦場も大して変わらないのだ。
それに、実力社会で負けたら負け犬の遠吠えに変わるだけ。
「頑張ってよ、皆。」
誰も負けないことを祈りながら、私は壇上に上がる兵士達を見下ろした。
***
〈先ず、戦うのはアードリア軍vsアンジュぐ〉
「天使軍だ!!」
〈おっと失礼しました!天使軍だそうです!!確かに恐ろしく美しいので頷けます!!〉
腹立ちながら、大声で私の兵士の1人が正させて、焦ったように実況者のケイジがただす。
個人的には、どうでも良いのだが兵士達は血眼になって訂正させていた。
〈では、定位置におつきください!!〉
魔法で、視力と聴力を強化する。
それはフェンリルもしている様で、集中している。
〈よーい……始め!!!〉
ラッパが響き渡った途端に、私の兵士とアードリアの兵士がぶつかり合った。
まだ、魔法を使う気は無いのかただの魔法剣で戦っていた。
見た目は、ただの真っ赤な石で作られたオモチャの様な剣だから、馬鹿にされるだろう。
現に、馬鹿にされていた。
「なんだ、そのオモチャは?」
「はっ!これがオモチャに見えるなら、見る目がねぇな!!」
「頭でもおかしくなったんじゃねぇの?あのアンジュってやつのせいでな!!」
「アンジュ様を侮辱するな!」
「あんなの美貌が優れているだけの小娘だろうが!!」
「あの人は、誰よりも強く美しい人だ!俺達の力量では計り知れないほどのな!!」
「はっ!何を言ってだか!!」
アードリア軍の男なだけあって、細身のマッチョで顔はイケメンだ。
声だって色っぽくて無駄に上品だ。
「もう、面倒だから魔法で終わらせてやるよ。」
イケメンが、魔術を展開した。
でも、無詠唱は無理なのか魔法陣のついた紙を破いていた。
「行くぜ!」
剣の刀が煌めき、綺麗な一線が私の兵士へ向けられる。
だが、兵士は堂々と手を翳した。
「こんなのに負けるわけねぇだろ。」
風の障壁が生み出され、意図も簡単に防ぎ切ったのだ。
「アンジュ様は、こんな面倒な戦い方しねぇよ。」
ニィ~と意地の悪い笑みを浮かべて、身体強化は教えていないため、兵士の持ち前の脚力でイケメンの首元に剣を当てた。
「ふっ、圧勝だな。」
そんな捨て台詞と共に、剣を鞘に納める者と地面に膝をつく者。
まさに敗者と勝者が別れた瞬間だった。
「お、おおおおおーーーーー!!!!!」
物凄い歓声が響き渡り、第一回戦は幕を閉じた。
次いで、第二回戦。
残念ながら、隊長同士の戦いを含めて4回戦しか無いため、兵士達だけの出場は後2回。
だから、より優れた者が排出されるのだ。
〈続いて第二回戦!!先ほどの圧倒的な勝利を見せた天使軍は、またアードリア軍を圧勝するのでしょうか!?それとも偶然!?今回の戦いで証明してくれるでしょう!!〉
両者とも闘技場に足を踏み入れ、睨み合っている。
〈では、位置について~よ~い……ドン!!〉
またラッパが大きく響く。
私の兵士も、アードリアの兵士も動かない。
まだ、互いを睨み合っているのだ。
副団長の名前以外知らないが、いつも受け答えを進んでしてくれる緑の髪を一房に括っている真面目くんだ。
彼は、魔法はイマイチだが剣技だけはずば抜けていたから、木刀の習得も早かった。
〈何故どちらも動かないのでしょうか!?睨み合っています!!〉
まだ、鞘から剣を抜いてさえいない。
ただ、柄に両者とも手を添えているだけ。抜く準備はいつでも出来ている様である。
相手の出方次第という事だろう。
互いに、慎重で実力があるからこそ出来る行為だ。
そして、先に動いたのは意外にも真面目くんだった。
特に何の魔法を使うこともなく、正々堂々向かっていく。
彼は真面目だから、私が言った方法など使いたく無いのかもしれない。
「今回は、余裕では無理かな……」
魔法を使わずに激しい攻防が繰り出され、魔術を使っている相手の方が押している。
このまま、ただの剣術で攻めると間違いなく負けるだろう。
「大丈夫、だよね……?」
だけど、真面目くんだって魔術を使っている相手に勝てると考えるほど、馬鹿でも無い筈だ。きっと、何か考えがあるはず。
フェンリルは真剣な顔で見てるから、私も信じて静かに観戦する。
ハラハラしながら、アードリア軍の一方的な攻めを見守る。
先ほどの試合と違って両者とも一言も喋っていないが、アードリア軍の背の高い男は上品な笑みを浮かべたまま剣を振るっている。
多分、今まで三公格が負けたり勝ったりしていたのは、魔術を使えないからだったのだろう。
こんなに一方的に休みなく攻められたら、頭が混乱して抵抗する暇もない筈だ。
でも、そろそろ動かないと闘技場の壁に背中が当たる。
私の軍隊は黙って見てるけど、何か作戦でもあるのだろうか?
そう思いながら、眉間に皺を寄せていると急に視界から真面目くんが消えた。
「!?」
ソレは背の高い男も見えなかった様で、見るからに動揺している。
「ど、どこに行ったんです!?」
消えたとしても、私には見える。
普通にスローモーションかと思うくらいゆっくり見えるが、普通は早すぎて肉眼では追いつけないのだろう。
ほんの数秒だが、男の前から消えたことで真面目くんはそのまま背後に回って頸動脈を膝蹴りした。
「ぐはっ!!」
見事にヒットして、闘技場の中心まで無様に吹っ飛ぶ男に、ゆっくりと近づいていく真面目くん。
今から、圧倒的な逆転劇が始まるのだろう。
全く、ハラハラさせてくれたものだと思いながらも、どうやって追い詰めていくのか気になってたまらない。
冷静で、戦いなんて嫌だと言いそうな心優しい顔をした青年が、余裕を見せるために油断させ、これからどんな表情で、声で、行動してくれるのかが楽しみだ。
「ふふっ……」
本当に、思わず笑い声が出てしまうくらいには、楽しみで仕方ない。私は人間が嫌いだけど、こういう風に、愚か故の何を考えているか予測がつかない行動をごく稀に取る。それだけは退屈しないから、完全には嫌いになれないのだ。
そしてそれは、獣人もまた然りである。
闘技場へ視線を向けたまま、真面目くんがやっと男の前まで辿り着いたのが見えた。
「早く立たないと、みっともないですよ。」
至って冷静に真面目くんは魔法剣を男に向ける。
一方的な暴力を振るう気は無いらしく、立つまで待ってあげている。
「ちょ、調子に乗るなよ三下が!!!」
「三下なのは、貴方ですよ。」
真っ赤になって、斬り掛かってくる男に真面目くんは淡々と足を絡めて転ばせる。
「これで終わりですか?」
失望でもしたかの様な目を向ける真面目くんの視線が逆鱗に触れたらしい。
男の額に青筋が浮かんだ。
「いい、良い……ぶっ殺してやる!!」
敬語も取れて、本気で容赦せず斬り掛かってくるのだろう。
構えを取り、無詠唱魔術で身体強化していた。
魔法と違い、魔術は同時に二つの属性を操ることができないから不便だと思うし、本物の魔法と偽物の魔法の違いだとも言えた。
「えぇ、出来る者ならやってみると良いですよ。僕も、そろそろアンジュ様からご教授いただいた"本物の魔法"を貴方で試したいので。」
「死ねぇぇぇーー!!!」
乱れた髪を揺らしながら、血眼になって男は斬り掛かる。
それに対して、真面目くんの方は余裕そうな顔をして目の前で剣を水平に構えた。
すると、真っ赤な剣が魔法剣としての本領を発揮し出す。
妖精の力を借り、刻んだのであろう竜巻の魔法が炸裂した。
大きな竜巻に男は巻き込まれ、視界が遮断されるだけではなく体がぶんぶん強制的に風に振り回されていると言う事実に頭が追いつかず、魔法が解ける頃には気絶していた。
折角のイケメンな顔も、白目を剥いて涎を垂らしていたため、カッコ悪いだけだ。
〈勝者、天使軍!!!〉
実況者の勝利宣言が行われると同時に、再度観客からの耳がはち切れんばかりの歓声が上がった。
王城は全開放され、平民でも貴族でも誰もが見られるになっていて、観客席が凄いことになっていた。
「まるで蟻のようだね。」
『言ウナ。』
胸の中で話すフェンリルの声は、いつもより潜められている。
「私は三公格3人とトーナメント式で戦うんだよね。誰が勝ち上がるか大方見えるけど……まぁ、楽しみにしてるよ。」
大将軍に三公格を合わせて四チームあるから、クジで何処のチームで戦うかが決まる。
因みに、大将軍としての意地だからなのか、部下が負けようともフェリックスは誰にも負けたことはないらしい。
私が店で働いている時に魔物を倒した現場を目撃するまではこの国最強だと思っていたし思われていたそうだ。
「誰1人として負けないように仕込んだから、心配はいらないね。」
『勿論ダ。』
自信満々なのは、私だけじゃなく私の部隊全員自信に満ち溢れた、堂々とした姿で地に足をつけている。
顔つきだって、以前とは比べ物にならないほど逞しくなったと思う。
「作戦は立ててきたよね?」
「勿論です!!」
名前は知らないが副隊長に聞けば、元気のいい返事が返ってきた。
「じゃあ、頼んだよ。」
「はい!!」
大きな返事と共に、ラッパの音が場内に響く。
〈さぁさぁーー始まってまいりました!!今回実況を務めさせていただくケイジと申します!!クジを引いた結果は、赤と白、大と青です!!!〉
その放送に観客の声が、ワァッと大きくなる。
「ねぇ、副団長。色分けどう言う事?」
「俺の名前はカンスト・アーバーです。」
すかさず茶髪に黒目の屈強な男ことカンストが名前を主張してくる。
「赤はアードリア軍、白はリアストス軍、大は天使軍、青はカイエン軍です。」
天使と呼ぶのは屈辱的だから止めてと言ったけど、「恥ずかしがらなくても良いですよ!」と、聞いてくれなかった。本当に屈辱的だから、やめて欲しいだけなのに。
何を言っても褒め言葉で返されて、五月蝿かったから諦めた。
あと、大の男共が目をキラキラさせて胸の前で手を組んでお願いポーズをする姿が見ていられなかったのだ。
「じゃあ、私達はアードリア軍と戦うんだね。」
「はい。」
「色男が多いらしいから、気をつけるんだよ。実力もそうだけどイケメンオーラに負けちゃダメ。」
「大丈夫です。天使様を見ればアードリア様の美貌なんて虫以下ですから。」
流石にそこまではないと思うが、やる気があるので良しとする。
「じゃあ、任せたよ。みんな。」
「「「はい!!」」」
隊長同士の戦いまで、隊長は特別観客席から見下ろすルールがある。
しかも、喧嘩しないようにそれぞれの軍の真上にある。
因みに皇族は、中心だ。
王妃様と王様、王子様2人が見える。
でも、興味無いから直ぐに目を逸らす。
「フェル、今までの努力をちゃんと見るよ。」
『予想ニ反シテ、誰モサボラナカッタカラナ。』
「絶対に誰も負けないはず。」
どんな手を使っても、反則でなければ構わない。模擬戦も戦場も大して変わらないのだ。
それに、実力社会で負けたら負け犬の遠吠えに変わるだけ。
「頑張ってよ、皆。」
誰も負けないことを祈りながら、私は壇上に上がる兵士達を見下ろした。
***
〈先ず、戦うのはアードリア軍vsアンジュぐ〉
「天使軍だ!!」
〈おっと失礼しました!天使軍だそうです!!確かに恐ろしく美しいので頷けます!!〉
腹立ちながら、大声で私の兵士の1人が正させて、焦ったように実況者のケイジがただす。
個人的には、どうでも良いのだが兵士達は血眼になって訂正させていた。
〈では、定位置におつきください!!〉
魔法で、視力と聴力を強化する。
それはフェンリルもしている様で、集中している。
〈よーい……始め!!!〉
ラッパが響き渡った途端に、私の兵士とアードリアの兵士がぶつかり合った。
まだ、魔法を使う気は無いのかただの魔法剣で戦っていた。
見た目は、ただの真っ赤な石で作られたオモチャの様な剣だから、馬鹿にされるだろう。
現に、馬鹿にされていた。
「なんだ、そのオモチャは?」
「はっ!これがオモチャに見えるなら、見る目がねぇな!!」
「頭でもおかしくなったんじゃねぇの?あのアンジュってやつのせいでな!!」
「アンジュ様を侮辱するな!」
「あんなの美貌が優れているだけの小娘だろうが!!」
「あの人は、誰よりも強く美しい人だ!俺達の力量では計り知れないほどのな!!」
「はっ!何を言ってだか!!」
アードリア軍の男なだけあって、細身のマッチョで顔はイケメンだ。
声だって色っぽくて無駄に上品だ。
「もう、面倒だから魔法で終わらせてやるよ。」
イケメンが、魔術を展開した。
でも、無詠唱は無理なのか魔法陣のついた紙を破いていた。
「行くぜ!」
剣の刀が煌めき、綺麗な一線が私の兵士へ向けられる。
だが、兵士は堂々と手を翳した。
「こんなのに負けるわけねぇだろ。」
風の障壁が生み出され、意図も簡単に防ぎ切ったのだ。
「アンジュ様は、こんな面倒な戦い方しねぇよ。」
ニィ~と意地の悪い笑みを浮かべて、身体強化は教えていないため、兵士の持ち前の脚力でイケメンの首元に剣を当てた。
「ふっ、圧勝だな。」
そんな捨て台詞と共に、剣を鞘に納める者と地面に膝をつく者。
まさに敗者と勝者が別れた瞬間だった。
「お、おおおおおーーーーー!!!!!」
物凄い歓声が響き渡り、第一回戦は幕を閉じた。
次いで、第二回戦。
残念ながら、隊長同士の戦いを含めて4回戦しか無いため、兵士達だけの出場は後2回。
だから、より優れた者が排出されるのだ。
〈続いて第二回戦!!先ほどの圧倒的な勝利を見せた天使軍は、またアードリア軍を圧勝するのでしょうか!?それとも偶然!?今回の戦いで証明してくれるでしょう!!〉
両者とも闘技場に足を踏み入れ、睨み合っている。
〈では、位置について~よ~い……ドン!!〉
またラッパが大きく響く。
私の兵士も、アードリアの兵士も動かない。
まだ、互いを睨み合っているのだ。
副団長の名前以外知らないが、いつも受け答えを進んでしてくれる緑の髪を一房に括っている真面目くんだ。
彼は、魔法はイマイチだが剣技だけはずば抜けていたから、木刀の習得も早かった。
〈何故どちらも動かないのでしょうか!?睨み合っています!!〉
まだ、鞘から剣を抜いてさえいない。
ただ、柄に両者とも手を添えているだけ。抜く準備はいつでも出来ている様である。
相手の出方次第という事だろう。
互いに、慎重で実力があるからこそ出来る行為だ。
そして、先に動いたのは意外にも真面目くんだった。
特に何の魔法を使うこともなく、正々堂々向かっていく。
彼は真面目だから、私が言った方法など使いたく無いのかもしれない。
「今回は、余裕では無理かな……」
魔法を使わずに激しい攻防が繰り出され、魔術を使っている相手の方が押している。
このまま、ただの剣術で攻めると間違いなく負けるだろう。
「大丈夫、だよね……?」
だけど、真面目くんだって魔術を使っている相手に勝てると考えるほど、馬鹿でも無い筈だ。きっと、何か考えがあるはず。
フェンリルは真剣な顔で見てるから、私も信じて静かに観戦する。
ハラハラしながら、アードリア軍の一方的な攻めを見守る。
先ほどの試合と違って両者とも一言も喋っていないが、アードリア軍の背の高い男は上品な笑みを浮かべたまま剣を振るっている。
多分、今まで三公格が負けたり勝ったりしていたのは、魔術を使えないからだったのだろう。
こんなに一方的に休みなく攻められたら、頭が混乱して抵抗する暇もない筈だ。
でも、そろそろ動かないと闘技場の壁に背中が当たる。
私の軍隊は黙って見てるけど、何か作戦でもあるのだろうか?
そう思いながら、眉間に皺を寄せていると急に視界から真面目くんが消えた。
「!?」
ソレは背の高い男も見えなかった様で、見るからに動揺している。
「ど、どこに行ったんです!?」
消えたとしても、私には見える。
普通にスローモーションかと思うくらいゆっくり見えるが、普通は早すぎて肉眼では追いつけないのだろう。
ほんの数秒だが、男の前から消えたことで真面目くんはそのまま背後に回って頸動脈を膝蹴りした。
「ぐはっ!!」
見事にヒットして、闘技場の中心まで無様に吹っ飛ぶ男に、ゆっくりと近づいていく真面目くん。
今から、圧倒的な逆転劇が始まるのだろう。
全く、ハラハラさせてくれたものだと思いながらも、どうやって追い詰めていくのか気になってたまらない。
冷静で、戦いなんて嫌だと言いそうな心優しい顔をした青年が、余裕を見せるために油断させ、これからどんな表情で、声で、行動してくれるのかが楽しみだ。
「ふふっ……」
本当に、思わず笑い声が出てしまうくらいには、楽しみで仕方ない。私は人間が嫌いだけど、こういう風に、愚か故の何を考えているか予測がつかない行動をごく稀に取る。それだけは退屈しないから、完全には嫌いになれないのだ。
そしてそれは、獣人もまた然りである。
闘技場へ視線を向けたまま、真面目くんがやっと男の前まで辿り着いたのが見えた。
「早く立たないと、みっともないですよ。」
至って冷静に真面目くんは魔法剣を男に向ける。
一方的な暴力を振るう気は無いらしく、立つまで待ってあげている。
「ちょ、調子に乗るなよ三下が!!!」
「三下なのは、貴方ですよ。」
真っ赤になって、斬り掛かってくる男に真面目くんは淡々と足を絡めて転ばせる。
「これで終わりですか?」
失望でもしたかの様な目を向ける真面目くんの視線が逆鱗に触れたらしい。
男の額に青筋が浮かんだ。
「いい、良い……ぶっ殺してやる!!」
敬語も取れて、本気で容赦せず斬り掛かってくるのだろう。
構えを取り、無詠唱魔術で身体強化していた。
魔法と違い、魔術は同時に二つの属性を操ることができないから不便だと思うし、本物の魔法と偽物の魔法の違いだとも言えた。
「えぇ、出来る者ならやってみると良いですよ。僕も、そろそろアンジュ様からご教授いただいた"本物の魔法"を貴方で試したいので。」
「死ねぇぇぇーー!!!」
乱れた髪を揺らしながら、血眼になって男は斬り掛かる。
それに対して、真面目くんの方は余裕そうな顔をして目の前で剣を水平に構えた。
すると、真っ赤な剣が魔法剣としての本領を発揮し出す。
妖精の力を借り、刻んだのであろう竜巻の魔法が炸裂した。
大きな竜巻に男は巻き込まれ、視界が遮断されるだけではなく体がぶんぶん強制的に風に振り回されていると言う事実に頭が追いつかず、魔法が解ける頃には気絶していた。
折角のイケメンな顔も、白目を剥いて涎を垂らしていたため、カッコ悪いだけだ。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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