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悪役令嬢に告白されました
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そんなわけで、田中さんとは「お友達でよろしくお願いします」ということになった。
彼をゲートルード様だとは思わず、『ルプクル』ファン同士として接してみると、わりと意気投合してしまった、というのもある。
聞けば、田中さんは最初は乙女ゲームを愛好する男性というわけではなく、「リーリエたん」との出会いは数奇な運命によるものだったらしい。
簡単に言えば、SNSのタイムラインに神絵師の『ルプクル』ファンアートが流れてきたことがきっかけだったそう。
その神絵師さんはヒロイン至上主義でリーリエを熱愛しており、その気合いと愛のこもった超絶美麗アートを目にした田中さんは、それまで乙女ゲーなど一切触れてこなかった一般オタクだったにも関わらず、「ついうっかり」ルプクルに手を出してしまった、というわけだった。
さっき私は「リーリエとは別人だ」と言ったけど、そもそも原作ゲームにおけるリーリエは、あまり自我がない。プレイヤーが自己投影しやすいようにボイスもないし、ビジュアルもゲーム中では少しぼかされている。
それでもリーリエのファンアートは攻略対象達のファンアートと同じように投稿されていて人気も結構あった。というのも、ルプクルはアニメ化もされていて、アニメでのリーリエがそれはもうめちゃくちゃかわいかったからだ。ルプクルはストーリーが結構硬派で乙女ゲーム成分は比較的控えめなこともあり、アレで男性ファンも結構増えたようだった。
公式で行われた人気投票では攻略対象のみが候補だったので正確なところは誰にもわからないけれど、もし女性キャラやNPCを含んだとしたら、5位以内はいけたんじゃないかと思います。
とはいえ男性からの人気はダントツでティアーナ様だったのだけど。
ティアーナ様と言えば、彼女に過去に連れていってほしいと懇願されたのだった。
「あのさ、俺も過去に一緒に連れていってもらえたりしない? あ、もちろん君とダイアルートの恋路の邪魔はしないから」
そして田中さんも以下同文でした。
あなたさっき「ダイアルートとして転生したかったな」とか言ってませんでした?
「実際、そんなことができるものでしょうか?」
私はソードアルト殿下に訊ねる。
以前、殿下はティアーナ様を過去にお連れするのはおすすめしない、とおっしゃった。理由は、彼女がダイアルート陛下と結ばれたら歴史が変わってしまうからだ。
でも、その言い分はおかしい。
ティアーナ様がリーリエと同じように時間遡行し、ダイアルート陛下の時代に留まって二度と帰らなかったら、それだけでも歴史は変わってしまうはずだ。
ティアーナ様はゲートルード様と結ばれるのがルプクルにおける正史。現在までの歴史が変わらないとしても、これから先の未来が変わってしまうことになる。
実はルプクルには続編があって、その舞台はティアーナ様とゲートルード様が王と王妃になった時代の魔術学園だ。私は続編をプレイする前に転生してしまったので、詳しいストーリーはまったくわからないけど。それがアルスの思し召しなのだから、ソードアルト殿下はティアーナ様の時間遡行を「おすすめしない」どころか、「絶対に阻止」しなければならないのではないだろうか。
とはいえ、それは時間遡行が不可逆のものであれば、の話だった。そもそものそも、『ルプクル』はタイムループする物語だ。
何故タイムループするのか。何故時間遡行できるのか。それを考えると、なんとなく答は見えてくる。
「可能かどうかを言えば、もちろんできるとも。ティアーナもゲートルードも、『連れていく』だけなら何も問題ない。向こうに行ってしばらく過ごしてから、『私』かゲートルード……1世に頼んで元の時代に送ってもらえばいい」
ソードアルト殿下の答を聞いて、私は「やっぱり」と思う。
アルストリアは魔術が存在する世界だけれど、時間を操ることができるのはアルスの神官だけだ。
そしてアルスの神官は一時代にただひとりだけ、というのが基本なのだけれど、例外がある。それは、初代国王ダイアルートの時代だ。
ブリューヴァルト王国の最初の神官であるロヤルシールド様と、サーエールの息子であるゲートルード様。彼らはふたりともアルスの神官で、時間を操ることができる。
私はそういう設定を知っていたけど、ルプクル本編ではリーリエが元の時代に帰還しないので、戻ることができない可能性もあると思っていた。
でも、そうではない。原作のリーリエは、自分の意思で戻らなかった。ダイアルート陛下と共に彼の時代を生き、添い遂げることを選んだのだ。
「であれば、私はティアーナ様と田中さんも一緒に連れていって差し上げたいと思います」
正直な気持ちを告げると、ソードアルト殿下は息を飲んだ。
いつもは余裕を崩すことのない彼が、ちょっと驚いたような顔をしている。
「本当にそれでいいのかな。ゲ……彼はともかく、ティアーナは、『父上』、聖王ダイアルートと結ばれることを目論んでいる可能性があるわけだが」
「構いませんよ。もし本当にそうだったとしても、ゲートルード様……いえ、田中さんではなく、1世が時間を巻き戻してくださるはずです」
なにしろ、それがアルスの思し召しなのだから。
(でも、ティアーナ様はこのゲートルード様との結婚を承諾するだろうか。というか、田中さんが王さまになっちゃって本当にいいんでしょうか……?)
ちょっとどころではない一抹の不安が脳裏をよぎったけれど。
その後、ティアーナ様に過去にお連れしてもよいとお伝えすると、それはもうたいへんな喜びようだった。
「ありがとう、本当にありがとう!」
よく見ると、涙まで流している。
「ティアーナ様、あなたの推しは、やっぱり秘密ですか?」
「それは……」
ティアーナ様はやはり恥ずかしそうにうつむき、上目遣いに私を見つめた。その様子は「恋する乙女」そのものという感じで、こちらの方が恥ずかしくなってくる。
と。
「リーリエたん!」
なんか来た。
ちなみにここはティアーナ様のご自宅、公爵家邸の庭園だ。ガゼボでアフタヌーンティーをいただきながら、ゆったりとしたひとときを過ごしていたわけで。
何故ここに第二王子ゲートルードが?
「リーリエたんの家を訪ねたら、ここにいるって聞いたから、飛んできた」
なるほど?
ちなみに田中さんの言う「飛んできた」とは文字通りの意味だ。件の移動魔術、「転移」を使うとき、術者はそれを俗に「飛ぶ」と言い表す。なんとなく言葉のイメージとしては「跳躍」の方、つまり「跳ぶ」と言った方が適切な気がするのだけど、ルプクルでは「飛ぶ」という表記なのだった。というのも、昔の移動魔術が箒にまたがって飛ぶアレだったかららしい。
ティアーナ様は田中さんに初めて会った、というわけではないようで、彼の登場にもその口調にも驚いた様子はなかったけれど、田中さんが姿を見せた途端、彼をじっと眺めながら押し黙った。その表情は、先程のような恥じらいを含んだものではない。
「あの、リーリエさん。わたくしの推しのことですが……」
田中さんを見て、なにか思うところがあったのか。
ティアーナ様は意を決したように、私の手に手を添えてこう言った。
「実は、リーリエさん、なのですわ」
は?
彼をゲートルード様だとは思わず、『ルプクル』ファン同士として接してみると、わりと意気投合してしまった、というのもある。
聞けば、田中さんは最初は乙女ゲームを愛好する男性というわけではなく、「リーリエたん」との出会いは数奇な運命によるものだったらしい。
簡単に言えば、SNSのタイムラインに神絵師の『ルプクル』ファンアートが流れてきたことがきっかけだったそう。
その神絵師さんはヒロイン至上主義でリーリエを熱愛しており、その気合いと愛のこもった超絶美麗アートを目にした田中さんは、それまで乙女ゲーなど一切触れてこなかった一般オタクだったにも関わらず、「ついうっかり」ルプクルに手を出してしまった、というわけだった。
さっき私は「リーリエとは別人だ」と言ったけど、そもそも原作ゲームにおけるリーリエは、あまり自我がない。プレイヤーが自己投影しやすいようにボイスもないし、ビジュアルもゲーム中では少しぼかされている。
それでもリーリエのファンアートは攻略対象達のファンアートと同じように投稿されていて人気も結構あった。というのも、ルプクルはアニメ化もされていて、アニメでのリーリエがそれはもうめちゃくちゃかわいかったからだ。ルプクルはストーリーが結構硬派で乙女ゲーム成分は比較的控えめなこともあり、アレで男性ファンも結構増えたようだった。
公式で行われた人気投票では攻略対象のみが候補だったので正確なところは誰にもわからないけれど、もし女性キャラやNPCを含んだとしたら、5位以内はいけたんじゃないかと思います。
とはいえ男性からの人気はダントツでティアーナ様だったのだけど。
ティアーナ様と言えば、彼女に過去に連れていってほしいと懇願されたのだった。
「あのさ、俺も過去に一緒に連れていってもらえたりしない? あ、もちろん君とダイアルートの恋路の邪魔はしないから」
そして田中さんも以下同文でした。
あなたさっき「ダイアルートとして転生したかったな」とか言ってませんでした?
「実際、そんなことができるものでしょうか?」
私はソードアルト殿下に訊ねる。
以前、殿下はティアーナ様を過去にお連れするのはおすすめしない、とおっしゃった。理由は、彼女がダイアルート陛下と結ばれたら歴史が変わってしまうからだ。
でも、その言い分はおかしい。
ティアーナ様がリーリエと同じように時間遡行し、ダイアルート陛下の時代に留まって二度と帰らなかったら、それだけでも歴史は変わってしまうはずだ。
ティアーナ様はゲートルード様と結ばれるのがルプクルにおける正史。現在までの歴史が変わらないとしても、これから先の未来が変わってしまうことになる。
実はルプクルには続編があって、その舞台はティアーナ様とゲートルード様が王と王妃になった時代の魔術学園だ。私は続編をプレイする前に転生してしまったので、詳しいストーリーはまったくわからないけど。それがアルスの思し召しなのだから、ソードアルト殿下はティアーナ様の時間遡行を「おすすめしない」どころか、「絶対に阻止」しなければならないのではないだろうか。
とはいえ、それは時間遡行が不可逆のものであれば、の話だった。そもそものそも、『ルプクル』はタイムループする物語だ。
何故タイムループするのか。何故時間遡行できるのか。それを考えると、なんとなく答は見えてくる。
「可能かどうかを言えば、もちろんできるとも。ティアーナもゲートルードも、『連れていく』だけなら何も問題ない。向こうに行ってしばらく過ごしてから、『私』かゲートルード……1世に頼んで元の時代に送ってもらえばいい」
ソードアルト殿下の答を聞いて、私は「やっぱり」と思う。
アルストリアは魔術が存在する世界だけれど、時間を操ることができるのはアルスの神官だけだ。
そしてアルスの神官は一時代にただひとりだけ、というのが基本なのだけれど、例外がある。それは、初代国王ダイアルートの時代だ。
ブリューヴァルト王国の最初の神官であるロヤルシールド様と、サーエールの息子であるゲートルード様。彼らはふたりともアルスの神官で、時間を操ることができる。
私はそういう設定を知っていたけど、ルプクル本編ではリーリエが元の時代に帰還しないので、戻ることができない可能性もあると思っていた。
でも、そうではない。原作のリーリエは、自分の意思で戻らなかった。ダイアルート陛下と共に彼の時代を生き、添い遂げることを選んだのだ。
「であれば、私はティアーナ様と田中さんも一緒に連れていって差し上げたいと思います」
正直な気持ちを告げると、ソードアルト殿下は息を飲んだ。
いつもは余裕を崩すことのない彼が、ちょっと驚いたような顔をしている。
「本当にそれでいいのかな。ゲ……彼はともかく、ティアーナは、『父上』、聖王ダイアルートと結ばれることを目論んでいる可能性があるわけだが」
「構いませんよ。もし本当にそうだったとしても、ゲートルード様……いえ、田中さんではなく、1世が時間を巻き戻してくださるはずです」
なにしろ、それがアルスの思し召しなのだから。
(でも、ティアーナ様はこのゲートルード様との結婚を承諾するだろうか。というか、田中さんが王さまになっちゃって本当にいいんでしょうか……?)
ちょっとどころではない一抹の不安が脳裏をよぎったけれど。
その後、ティアーナ様に過去にお連れしてもよいとお伝えすると、それはもうたいへんな喜びようだった。
「ありがとう、本当にありがとう!」
よく見ると、涙まで流している。
「ティアーナ様、あなたの推しは、やっぱり秘密ですか?」
「それは……」
ティアーナ様はやはり恥ずかしそうにうつむき、上目遣いに私を見つめた。その様子は「恋する乙女」そのものという感じで、こちらの方が恥ずかしくなってくる。
と。
「リーリエたん!」
なんか来た。
ちなみにここはティアーナ様のご自宅、公爵家邸の庭園だ。ガゼボでアフタヌーンティーをいただきながら、ゆったりとしたひとときを過ごしていたわけで。
何故ここに第二王子ゲートルードが?
「リーリエたんの家を訪ねたら、ここにいるって聞いたから、飛んできた」
なるほど?
ちなみに田中さんの言う「飛んできた」とは文字通りの意味だ。件の移動魔術、「転移」を使うとき、術者はそれを俗に「飛ぶ」と言い表す。なんとなく言葉のイメージとしては「跳躍」の方、つまり「跳ぶ」と言った方が適切な気がするのだけど、ルプクルでは「飛ぶ」という表記なのだった。というのも、昔の移動魔術が箒にまたがって飛ぶアレだったかららしい。
ティアーナ様は田中さんに初めて会った、というわけではないようで、彼の登場にもその口調にも驚いた様子はなかったけれど、田中さんが姿を見せた途端、彼をじっと眺めながら押し黙った。その表情は、先程のような恥じらいを含んだものではない。
「あの、リーリエさん。わたくしの推しのことですが……」
田中さんを見て、なにか思うところがあったのか。
ティアーナ様は意を決したように、私の手に手を添えてこう言った。
「実は、リーリエさん、なのですわ」
は?
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