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悪役令嬢に愛を語られました
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謎はすべて解けた……と言いますか。
確かに、ティアーナ様の推しが「リーリエ」なら、いままでの彼女の言動のすべてに説明がついてしまう。
つまり、最初からすべて彼女自身が意思表示していた通りなのだ。
『わたくし、皇女殿下には、原作の運命など気になさらず、貴女の最推しキャラと添い遂げていただきたいと思っているのですが』
ティアーナ様は前回お会いしたとき、そう仰っていた。
つまり、リーリエには、リーリエの思うように生きてほしい、というのが、彼女の心からの願いなのだろう。
ちなみにティアーナ様がさっき私を「リーリエさん」と呼んでいたのは、今日のお茶会で打ち解けたからだ。
「へえ、マジ!? じゃあ俺とティアーナって同担なんじゃん?」
私がリアクションらしいリアクションをする間もなく、まず田中さんが嬉しそうにティアーナ様に話しかけた。
そこは同担拒否とかじゃないんですね。
「え、ええ。ゲートルード様には、先日お話ししようかとも思ったのですが、貴方の原作愛に少し気後れしてしまいまして。実は前世のわたくしは、恥ずかしながらアニメ勢というものだったんですの。原作のゲームはプレイしたことがなくて……というのも、例の『設定』が、その、リーリエの意思を蔑ろにして弄ぶ創造主アルスにムカ……腹が立ってしまいまして」
一言で「推し」と言っても、ファンがキャラクターに向ける愛情の内訳は人それぞれ、十人十色、千差万別だ。
たとえば私……というか本間海南は、「雑食貴腐人」を自認していた。要は、推しに関するものならなんでもペロリしてしまうファンだ。公式から発信されるメディアミックスやグッズ、コミカライズにノベライズはもちろんのこと、二次創作も夢小説からBLに百合まで、結構いろんなものに手を出していた。世間では乙女ゲームの二次創作で男女間の恋愛以外を描くのはご法度のように言っている方々もいらっしゃるけれど、本間海南は「すべて公式ではない妄想である以上、二次創作に貴賤はない」というスタンスだった。ダイアルート陛下が最推しではあるけれど、ルプクルに関してはいわゆる「箱推し」気味というか、苦手なキャラもいなかったので、本当に色々楽しんでいたのでした。詳しい話はここでは割愛しますが。
田中さんはビジュアル至上主義。公式ではストーリーもそれなりに楽しんでいたけれど、二次創作はストーリーのあるようなものはよくわからなかったそうで、ネットサーフィンでファンアートばかり漁っていたんだとか。「リーリエたんが彼女だったら、っていう妄想は100万回した」という話は聞かなかったことにするとして。
そして前世のティアーナ様は、リーリエを実際の友人のように思っていらっしゃったらしい。リーリエが幸せそうに微笑めば同じように幸せを感じ、リーリエが悲しみに涙すればつられたように号泣する。ティアーナ様は「二次元のキャラに何をそこまで、と笑われてしまうでしょうけど、前世のわたくしにとってのリーリエは、身近な親友のような、憧れのアイドルのような、眩しくも愛しい存在だったんですの」と言って恥ずかしそうにしていたけど、それもまた素敵な愛し方だと私は思いました。
前世の記憶を取り戻したティアーナ様は、リーリエの想い人がソードアルト殿下だった場合に備えて、まず殿下との婚約を円満に解消した。ティアーナ様は当初、ソードアルト殿下に前世云々の話は秘密にしていたので、どうやって婚約を解消してもらえばいいのか思い悩んだらしいけれど、殿下はアルスの神託によって彼女が転生者であることを既にご存知だったので、話はスムーズに進んだという。
次にティアーナ様が面会を求めたのが、第二王子ゲートルードだった。もちろん、リーリエの想い人がゲートルード様だった場合に備えてのことだ。実際、ソードアルト殿下とティアーナ様が婚約を解消した時点で、現国王であるグランドール陛下や我が姉こと王妃オフィーリエからは「では、ゲートルードとの婚約はどうか」との打診があったそうだが、ティアーナ様は即答を避け、まずゲートルードの意思を確認することにしたのだった。
「もちろん、わたくしにとってはリーリエさんのお気持ちが最優先でしたが、『ティアーナ』にとっては、ゲートルード様も単なる『ゲームの攻略対象』ではなく、その意思を尊重すべきひとりの人間ですから、ゲートルード様が誰を慕っていらっしゃるのか、あるいはこの先どなたを愛するのかは、ゲートルード様の自由だと思いましたの」
だからこそ彼女は、「現時点でゲートルード様と婚約することは望まない」と彼に伝えた。
ゲートルード様が「田中さん」としての前世の記憶を取り戻したのは、まさにそのときだった。
彼の場合、ゲートルード様の人格と「田中さん」の人格があまりにかけはなれていたため、ティアーナ様もすぐには適応できず、周囲の人間もずいぶん混乱したらしい。
「危うく幽閉されるとこだったんだよな」
田中さん自身はこの通り、なんともライトなノリだけれど、ソードアルト殿下が場をおさめるまでは、「悪霊がついた」とか「心の病気が」とか散々な言われようだったそうだ。
「でも、記憶を取り戻す前のゲートルード様も、『わたしはずっと誰かを待ち焦がれているような気がする』と仰っていたんです。きっと魂がリーリエさんを求めていたのでしょうね」
──原作におけるゲートルード様とティアーナ様、そしてソードアルト殿下の三人はいわゆる幼馴染みの関係だ。ゲートルード様は幼い頃からなんでもお出来になるソードアルト殿下へのコンプレックスを拗らせていて、それが元で周囲から距離をおいているところがあった。そのゲートルード様が唯一心を許していたのがティアーナ様だ。ヒロインであるリーリエすら、はじめのうちは警戒され、あげく『貴様』呼ばわりされていた。
ちなみに原作のティアーナ様については──ゲーム中で明記されてはいないけれど、「ずっとゲートルードのことが好きだったのだろう」というのが、ファンの間での通説だった。
まあ、このティアーナ様はリーリエ一筋なわけですが。
とにかく、幼い頃からゲートルード様と親しくしていたティアーナ様は、田中さんと言葉を交わすうちに、彼とゲートルード様は紛れもなく同一人物なのだと納得したのだという。
そうかなぁ。
「でも、あの、やっぱり別人だと思いますよ? ゲートルード様と田中さんはもちろん、リーリエと本間海南だって、似ても似つかないというか、私がヒロインを名乗るなんておこがましいというか……」
思わずそんなことを口走ってしまった私に、ティアーナ様は傷ついたような顔で仰るのでした。
「そんなことはありませんわ!」
「へっ?」
「わたくしは先日、貴女に初めてお会いしたあのとき、本当に感動したのです。だって、貴女はわたくしが思い描いていた『リーリエ』そのものだったんですもの!」
「そんなばかな、だってティアーナ様、アニメ派だったんですよね? アニメのリーリエって、明るくて性格がよくて、なんというか天然の陽キャ……」
「いいえ、繊細で気遣いがあって優しくて、意外と行動力があって、でも、誰かのために一歩引いてしまうところがあって! 『リーリエ』は、貴女はそんな女の子ですわ!」
「……」
そういえばいまの私は十五歳なのでした。
いまだに本間海南としての自我が強い私は、自分を「女の子」と形容されることに激しい違和感と抵抗を覚えるのだけど、だからこそちょっと冷静にもなった。
私は前世の記憶を思い出してからいまに至るまで、自分の存在が大好きな『ルプクル』の世界観をぶち壊しているような気がしていた。
本間海南である自分と原作のリーリエはまったく別の人間で、本間海南はどんなにがんばってもリーリエにはなれない。だから、私はリーリエを演じよう、ヒロインをがんばろう、みたいな意識はまったくなかった。
むしろ徹底的に、『本間海南』であろうとしていた。
本間海南という異物がいるだけで、この世界は元の『ルプクル』とは異なる。だから、『本間海南』として『本間海南』なりの『ルプクル』を生きていこうと思っていたのだ。
でも、違う。そうじゃない。
私が『リーリエ』なのだ。『本間海南』としての前世の記憶があるからと言って、それまで生きてきた『リーリエ』としての私が消えてなくなってしまったわけじゃない。
本当は自覚していた。私は記憶を取り戻す前から『本間海南』だったし、記憶を取り戻した後も変わらず『リーリエ』だった。
そんなことを思うと、視界が滲んだ。ああ、やばい、本当に泣きそう。
と、横から趣味のいい刺繍入りのハンカチが差し出された。
目線だけ隣に向けると、居心地悪そうにしている田中さん……じゃなかった、ゲートルード様。
「えーと。よくわからんけどさ、俺もリーリエたんはリーリエたんだと思う。ほら、なんだ、その、ボケというよりツッコミなところとか、ゲームでもアニメでもよく見るやつじゃん!?」
「そこ!?」
あ。うっかりつっこんでしまった。
確かに、ティアーナ様の推しが「リーリエ」なら、いままでの彼女の言動のすべてに説明がついてしまう。
つまり、最初からすべて彼女自身が意思表示していた通りなのだ。
『わたくし、皇女殿下には、原作の運命など気になさらず、貴女の最推しキャラと添い遂げていただきたいと思っているのですが』
ティアーナ様は前回お会いしたとき、そう仰っていた。
つまり、リーリエには、リーリエの思うように生きてほしい、というのが、彼女の心からの願いなのだろう。
ちなみにティアーナ様がさっき私を「リーリエさん」と呼んでいたのは、今日のお茶会で打ち解けたからだ。
「へえ、マジ!? じゃあ俺とティアーナって同担なんじゃん?」
私がリアクションらしいリアクションをする間もなく、まず田中さんが嬉しそうにティアーナ様に話しかけた。
そこは同担拒否とかじゃないんですね。
「え、ええ。ゲートルード様には、先日お話ししようかとも思ったのですが、貴方の原作愛に少し気後れしてしまいまして。実は前世のわたくしは、恥ずかしながらアニメ勢というものだったんですの。原作のゲームはプレイしたことがなくて……というのも、例の『設定』が、その、リーリエの意思を蔑ろにして弄ぶ創造主アルスにムカ……腹が立ってしまいまして」
一言で「推し」と言っても、ファンがキャラクターに向ける愛情の内訳は人それぞれ、十人十色、千差万別だ。
たとえば私……というか本間海南は、「雑食貴腐人」を自認していた。要は、推しに関するものならなんでもペロリしてしまうファンだ。公式から発信されるメディアミックスやグッズ、コミカライズにノベライズはもちろんのこと、二次創作も夢小説からBLに百合まで、結構いろんなものに手を出していた。世間では乙女ゲームの二次創作で男女間の恋愛以外を描くのはご法度のように言っている方々もいらっしゃるけれど、本間海南は「すべて公式ではない妄想である以上、二次創作に貴賤はない」というスタンスだった。ダイアルート陛下が最推しではあるけれど、ルプクルに関してはいわゆる「箱推し」気味というか、苦手なキャラもいなかったので、本当に色々楽しんでいたのでした。詳しい話はここでは割愛しますが。
田中さんはビジュアル至上主義。公式ではストーリーもそれなりに楽しんでいたけれど、二次創作はストーリーのあるようなものはよくわからなかったそうで、ネットサーフィンでファンアートばかり漁っていたんだとか。「リーリエたんが彼女だったら、っていう妄想は100万回した」という話は聞かなかったことにするとして。
そして前世のティアーナ様は、リーリエを実際の友人のように思っていらっしゃったらしい。リーリエが幸せそうに微笑めば同じように幸せを感じ、リーリエが悲しみに涙すればつられたように号泣する。ティアーナ様は「二次元のキャラに何をそこまで、と笑われてしまうでしょうけど、前世のわたくしにとってのリーリエは、身近な親友のような、憧れのアイドルのような、眩しくも愛しい存在だったんですの」と言って恥ずかしそうにしていたけど、それもまた素敵な愛し方だと私は思いました。
前世の記憶を取り戻したティアーナ様は、リーリエの想い人がソードアルト殿下だった場合に備えて、まず殿下との婚約を円満に解消した。ティアーナ様は当初、ソードアルト殿下に前世云々の話は秘密にしていたので、どうやって婚約を解消してもらえばいいのか思い悩んだらしいけれど、殿下はアルスの神託によって彼女が転生者であることを既にご存知だったので、話はスムーズに進んだという。
次にティアーナ様が面会を求めたのが、第二王子ゲートルードだった。もちろん、リーリエの想い人がゲートルード様だった場合に備えてのことだ。実際、ソードアルト殿下とティアーナ様が婚約を解消した時点で、現国王であるグランドール陛下や我が姉こと王妃オフィーリエからは「では、ゲートルードとの婚約はどうか」との打診があったそうだが、ティアーナ様は即答を避け、まずゲートルードの意思を確認することにしたのだった。
「もちろん、わたくしにとってはリーリエさんのお気持ちが最優先でしたが、『ティアーナ』にとっては、ゲートルード様も単なる『ゲームの攻略対象』ではなく、その意思を尊重すべきひとりの人間ですから、ゲートルード様が誰を慕っていらっしゃるのか、あるいはこの先どなたを愛するのかは、ゲートルード様の自由だと思いましたの」
だからこそ彼女は、「現時点でゲートルード様と婚約することは望まない」と彼に伝えた。
ゲートルード様が「田中さん」としての前世の記憶を取り戻したのは、まさにそのときだった。
彼の場合、ゲートルード様の人格と「田中さん」の人格があまりにかけはなれていたため、ティアーナ様もすぐには適応できず、周囲の人間もずいぶん混乱したらしい。
「危うく幽閉されるとこだったんだよな」
田中さん自身はこの通り、なんともライトなノリだけれど、ソードアルト殿下が場をおさめるまでは、「悪霊がついた」とか「心の病気が」とか散々な言われようだったそうだ。
「でも、記憶を取り戻す前のゲートルード様も、『わたしはずっと誰かを待ち焦がれているような気がする』と仰っていたんです。きっと魂がリーリエさんを求めていたのでしょうね」
──原作におけるゲートルード様とティアーナ様、そしてソードアルト殿下の三人はいわゆる幼馴染みの関係だ。ゲートルード様は幼い頃からなんでもお出来になるソードアルト殿下へのコンプレックスを拗らせていて、それが元で周囲から距離をおいているところがあった。そのゲートルード様が唯一心を許していたのがティアーナ様だ。ヒロインであるリーリエすら、はじめのうちは警戒され、あげく『貴様』呼ばわりされていた。
ちなみに原作のティアーナ様については──ゲーム中で明記されてはいないけれど、「ずっとゲートルードのことが好きだったのだろう」というのが、ファンの間での通説だった。
まあ、このティアーナ様はリーリエ一筋なわけですが。
とにかく、幼い頃からゲートルード様と親しくしていたティアーナ様は、田中さんと言葉を交わすうちに、彼とゲートルード様は紛れもなく同一人物なのだと納得したのだという。
そうかなぁ。
「でも、あの、やっぱり別人だと思いますよ? ゲートルード様と田中さんはもちろん、リーリエと本間海南だって、似ても似つかないというか、私がヒロインを名乗るなんておこがましいというか……」
思わずそんなことを口走ってしまった私に、ティアーナ様は傷ついたような顔で仰るのでした。
「そんなことはありませんわ!」
「へっ?」
「わたくしは先日、貴女に初めてお会いしたあのとき、本当に感動したのです。だって、貴女はわたくしが思い描いていた『リーリエ』そのものだったんですもの!」
「そんなばかな、だってティアーナ様、アニメ派だったんですよね? アニメのリーリエって、明るくて性格がよくて、なんというか天然の陽キャ……」
「いいえ、繊細で気遣いがあって優しくて、意外と行動力があって、でも、誰かのために一歩引いてしまうところがあって! 『リーリエ』は、貴女はそんな女の子ですわ!」
「……」
そういえばいまの私は十五歳なのでした。
いまだに本間海南としての自我が強い私は、自分を「女の子」と形容されることに激しい違和感と抵抗を覚えるのだけど、だからこそちょっと冷静にもなった。
私は前世の記憶を思い出してからいまに至るまで、自分の存在が大好きな『ルプクル』の世界観をぶち壊しているような気がしていた。
本間海南である自分と原作のリーリエはまったく別の人間で、本間海南はどんなにがんばってもリーリエにはなれない。だから、私はリーリエを演じよう、ヒロインをがんばろう、みたいな意識はまったくなかった。
むしろ徹底的に、『本間海南』であろうとしていた。
本間海南という異物がいるだけで、この世界は元の『ルプクル』とは異なる。だから、『本間海南』として『本間海南』なりの『ルプクル』を生きていこうと思っていたのだ。
でも、違う。そうじゃない。
私が『リーリエ』なのだ。『本間海南』としての前世の記憶があるからと言って、それまで生きてきた『リーリエ』としての私が消えてなくなってしまったわけじゃない。
本当は自覚していた。私は記憶を取り戻す前から『本間海南』だったし、記憶を取り戻した後も変わらず『リーリエ』だった。
そんなことを思うと、視界が滲んだ。ああ、やばい、本当に泣きそう。
と、横から趣味のいい刺繍入りのハンカチが差し出された。
目線だけ隣に向けると、居心地悪そうにしている田中さん……じゃなかった、ゲートルード様。
「えーと。よくわからんけどさ、俺もリーリエたんはリーリエたんだと思う。ほら、なんだ、その、ボケというよりツッコミなところとか、ゲームでもアニメでもよく見るやつじゃん!?」
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