『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第二章 黄金の魔術師編

EP19 目的

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 冒険者としての資格を手に入れた清也と花は、各々の宿泊先に戻る事にした。

 コーヒーショップに戻った清也は浴場に行こうと思い、鎧を脱ぎ、剣と盾を机に置こうとした。
 この盾と鎧、そして剣のおかげでこれまでなんとか生き延びてこれたのだ。

 そう思うと、鍛冶屋の店主には、感謝しても仕切れないと思った。
 鎧と盾は装備し始めた当初より、今では格段に軽く感じる。

 しかし、何より不思議なのは剣だ。たしかに、慣れのおかげで以前より軽く、扱いやすくなった。
 ただ、それだけではない。清也が使い込むにつれて、刀身は長く伸び、剣先はより鋭利になり、刃の輝きと放たれる冷気は、少しずつ増している気がした。

「やはり、この剣はどこか普通じゃないな。」

 清也はそう呟くと、そんな素晴らしい剣を所有していることが、少し誇らしくなった。

 浴場に着くと、鏡を覗き込んだ。最近はあまり見ていなかったが、初めてこの鏡を見た時、自分の髪が白くなっているのを知った時を思い出した。

「そういえばあの時、自分が老化したと思ったんだっけ。」

 思わず笑ってしまう。鏡に映った清也は、あの頃より格段に逞しく見えた。

 清也は浴場から帰ると、身支度を整えた。早ければ明日には、ここを旅立つかもしれないからだ。
 そして、一通り片付けると深い眠りに落ちた。

 翌日、清也は花の宿泊先、ギルドの宿屋115号室に向かった。
 清也はこの場所を知っていたが実際に来るのは初めてだった。

「花、僕だ、入れてくれ。」
 そう言って静かにノックした。

「はぁーい。」

 中から気の抜けた声がして扉が開いた。

 花の髪はいつもの真っ直ぐで艶やかな緑のセミロングではなく、少しボサボサしていた。おそらく寝癖だろう。
 服はパジャマのままで、薄着なせいか胸が普段より二回りは大きく思える。目もいつもより垂れている。

「もしかして、今起きたばっかり?」

 清也は花の無防備な姿が、見てはいけない物な気がして、申し訳なくなった。
 ただ、既に時刻は12時を回っていたので、これを聞いても失礼ではないだろうと思った。

「ぅん。きのぅは楽しみで眠れなかったの。ついでに新型のまほぅも作ったぁ。」

 まだ少し寝ぼけているようだ。

「それはどんな魔法?」

「ヒ♪ミ♪ツ♪」

 花は今度も、寝ぼけた調子で言った。
 唇に人差し指を当てる様子は、非常に色っぽい。

 これでは埒があかない上に、花をこれ以上直視しているのが恥ずかしくなってきた。
 そこで清也は、先に1人で昼食を取ることにした。

「先に酒場にいるからね!」

 そう言って部屋を後にした。花はその背面に対して、楽しそうに手を振っていた。

 ~~~~~~~~~~~~~

 ハンバーグを食べながら清也は考え事をしていた。
 それは他でもない、今後の目的についてだった。

「ずっと試験のために頑張ってきたけど・・・この後はどうしよう。」

 そんなことを言っているうちに、朝食を食べ終わってしまった。



 立ち上がって花の部屋に行こうとすると、数歩先に小さな青い人形が浮かんでいる。
 周りの人は、それに気付いていない。人形は、静かに清也を手招きしている。不思議に思った清也は、それについて行くことにした。

 すると、酒場の廊下、その突き当たりを曲がったさらに奥。
 誰も来ない、窓以外に何もない場所で、人形は止まった。そしてーー。



「久しぶりだな、清也!どうやら、無事に試験に受かったようだな。
 うむ、一回り逞しくなったように見える。」

 突然、人形の背後からエレーナの声がした。

「エレーナ様ですか?お久しぶりです!」

 清也は答えた。

「さて早速、本題に入ろうと思う。其方はさっき、”この後はどうしよう”と言ったな?」

「はい、何をすれば良いか分からなくて・・・。」

「お前たち7人の転生者に、私が言ったことを覚えているか?
 其方が太平の世界、すなわちこの世界でやらねばならない事。
 それは魔王の討伐と、いるかは分からないが、破壊者の捜索。それが其方の冒険の目標だ。
 これを目指すために、共に召喚された2人と合流するのが良いであろう。」

 清也は、最初の目的を完全に忘れていた。
 試験に合格する事で手一杯で、魔王の事など考える余裕は無かったのだ。

「そうですね、二人の仲間を・・・。あっ!実はもう、一人の仲間を見つけたんです!
 同じ転生者の女性なのですが、とっても綺麗な・・・じゃなくて、頼もしい人なんです!」

 危うく、本音が出そうになった。花の事を、そういう目で見ているのをバレるのは、流石に恥ずかしい。

「一口に転生者と言っても、其方が知らないだけで、転生者には各々に重要な使命がある。
 同じ使命を持った仲間だけが、魔王の討伐に力を貸せる。そう思った方が良いであろう。
 では、今後の活躍も期待しているぞ!」

 そう言うと、人形は透き通っていく。
 しかし、その色は消える入る直前で、再び濃くなっていったーー。



「いやぁ、うっかりした。其方に2人の居場所を言うのを忘れていた!えぇと、1人目は・・・。」

 そこまで言われて、清也はエレーナの言葉を遮った。

「待ってください!確かに、大切な使命である事は心得ています・・・。
 しかし、私は自分の力を試してみたいのです!
 お願いします!もう一月待ってください!必ず2人とも自力で見つけて見せます!」

 清也は無理を承知で提案した。何だか、それが非常に大切な事に思えたのだ。

「アッハッハッハ!そうであったな!其方はそういう志を持っていたな。
 だが、大切な使命であることも事実。2人のうち1人だけお前に居場所を教え・・・ん?」

 そこまで言って、エレーナの言葉は途切れた。そして、女神に似合わない笑い声を上げる。

「やはり、其方は面白い!いやはや本当に面白い!
 こんなに面白い冒険者は、私が召喚した中では初めてだ!其方に伝える事は何も無い!健闘を祈るぞ!」

 そう言うと、今度こそ人形は消えた。

「一体、エレーナ様は何がそんなに面白かったのだろう?」

 清也はあの笑いに覚えがあった。
 たしか当時、社長だった祖父が、役職すらない社員の妙案を受けた時に、全く同じ笑いをしていた。

「あの案で、吹雪カンパニーはさらに大きな会社になって、今ではあの人も幹部役員だったな。」

 そんな事を思い出しても、清也にはエレーナの笑いの真意が分からない。

 しかし、一つだけ分かった事がある。
 それは、花も”何かの使命”を持って転生している、という事だ。



 そして、その使命の内容によっては、彼女とここで別れる事になるーー。
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