『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第二章 黄金の魔術師編

EP22 黄昏

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 清也は一通り"吹雪の剣豪の伝説"について語り終えると、少し笑いながらこう言った。

「まぁ、流石に先祖を美化するための脚色は入ってるだろうけどね。
 僕は"10人くらいで風上から奇襲して、僕の先祖って言われてる人だけが生き残った。"ぐらいの物だと思う。」

 清也は自分の知見を述べた。

「たとえ脚色されていたとしても、凄腕であることに違いないわね!剣術の腕はその人譲りかも!
 それにしても、霞の中に消えたって一体・・・?」

 花は不思議そうに聞く。

「一族の中では暗黙の了解で、結婚相手の父親、つまり義理の父親に土地を奪われて抹殺されたって言うのが通説になってるけど、僕はそうじゃないと思ってる。
 多対一の斬り合いで相手を圧倒するような人がそんな簡単に蒸発するとは思えないからね。
 まあ、事実としてその土地をバブル期に売ったり、スキー場を建てたりして、それを元手に吹雪カンパニーができたから、命を狙われるのに十分なぐらいの土地は持っていたんだと思う。」

「本当にそうだとしたら残酷ね・・・。」

 花の目は曇った。話題を変えようかとも思ったが、彼女の好奇心を刺激するこの話題を続けた方が、面白いと思った。

「非武装者は捕らえられたって言ったよね。
 その人たちの証言によると、1日目に砦のほとんどを制圧した剣豪は、彼らを傷つけないように捕らえた後、本陣に向かったらしい。
 その証言が本当なら、剣豪は敵将と3日間斬り合ってた事になるけど・・・そんなこと可能なのかな?」

 清也は、自分で話していて疑問に思えてきた。

「きっと、極められた精神力が、限界を超えた戦いを可能にしたのよ。名前はなんて言うの?」

「それが・・・妻子を残して消えた不孝者として、家系図から名前が消されてるんだ・・・。」

「そうなの・・・。じゃあ名前は分からないのね。」

 花は残念そうに目を背ける。

「でも、僕はその人が、今もどこかで生きている気がするんだ!
 戦えない者を傷付けなかったその人なら、として、転生してもおかしくないよね!」

「もう、300年前の人だしねぇ・・・まだ生きてる可能性は殆ど無いけど、晩年が幸せであった事を祈りましょうか。」

 花は少し元気がない。無理もないだろう、あんなに泣いた後なのだから。

「もう、黄昏時か・・・。知ってるかい?
 黄昏時に切なくなるのは、現世と冥界が最も近くなるからなんだって、吹雪の剣豪だって今すぐそこにいるかもよ。」

 清也は強引に話題を変える。

「ロマンチックだけどちょっと怖いわね・・・。」

 花は少し元気になった。

「そういえば、朝は勿体ぶって教えてくれなかったけど、新しい魔法を作ったんだよね?
 どんな魔法なんだい?」

 清也は純粋な好奇心で聞いた。

「ヒ ミ ツ ♡」

 花は、また同じ答えを言った。

「そんなこと言わずに教えてよ~!」

 清也はふざけて、花をくすぐり始めた。



「分かった!分かったってば!白状すると私も分からないの!
 材料は採石場で清也が使ったエレメンタルストーンのかけらよ!
 ほら!もう言ったから!くすぐらないで!アハハハハ!」

 清也は楽しくなっていたが、そろそろ潮時だと思った。

「危ない魔法でないなら、今使ってみようよ!」

「まぁ素材の性質上、最悪の場合だと体が七色に光出るけど、それで良いなら!」

 花はまだ笑っている。

「面白そうだね!ほら、やってやって!」

 清也は捲し立てた。すると、花は杖を振るいこう言った。

「七色の光を放つ魔法石よ!これから始まる冒険に祝福をもたらせ!」

 花が呪文を唱えると、杖の先からピンク色の煙が噴出し、部屋を瞬く間に満たして、甘い匂いがする。
 煙が晴れ、お互いの姿が見えるようになったが、どちらも七色に光ってはいなかった。

「煙幕の魔法?だったのかな?頑張って作ったんだけどな・・・。」

 花はがっかりしたような声で言った。

「まあまあ、仲直りの魔法だと思えばいいじゃないか!」

 清也は花を励ました。実際、清也は花との旅を続けられるだけで十分だった。

「まあそっか・・・あぁ、夕日が綺麗ね・・・。」

 花は窓の外に目をやると、沈みゆく夕日を眺めている。

「僕たちは、これからも一緒だ。」

 清也は花の手を軽く握ると、優しい口調で囁いた。

「そうね。明日からの予定、改めて立てなきゃ♪」
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