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第二章 黄金の魔術師編
EP29 人狼
しおりを挟む清也は、民間人たちに茶化されながらも進み始めた。
「おいおい~、結婚してないって嘘だろ~?」
「いや、本当にしてないんですって!」
「でも、この人って言ってたぞ~?」
「言葉の綾ですよ~!」
清也は笑って、必死に誤魔化そうとする。
「え?じゃあ俺がもらっちゃってもいいか?」
後ろからさっきまでとは違う声がした。
「それはダメです。」
清也は急に真顔になった。
振り返ると、あの金髪のチャラい男がいた。
「冗談だって!お前があの子の隣にいるのにはふさわしいよ!
流石に俺も、そこまで無粋じゃないさ!」
男は笑いながらではあるが、今回は真剣に言っているようだ。
「あれだけ付き纏っといて、一体どういう風の吹き回しなんだ?」
清也は慎重に聞いた。疑り深そうな表情で、男を睨み付ける。
「付き纏う・・・まぁそうなるか。だが釈明させてくれ、1回目にあの子・・・名前は何?」
「彼女に聞け。」
清也は、少しぶっきらぼうに言った。視界に男が移るだけで、怒りが込み上げて来る。
「まぁ、とりあえず、1回目は本当に彼氏がいないと思って話しかけたんだ。
そしたら襟を掴んでくる奴がいるから、てっきり正義感の強い奴だと思ったわけ。
そしたら殴ってくるからよ。その時にやっと、彼氏だって分かったって事。」
男は必死に釈明した。
「今日だって、お前がいないって事は、別れたのかと本気で思ったんだよ。
だけど、お前がまだいたから退散しようと思ったのに、お前からはパンチが飛んでくるわ、彼女からのはみぞおちにクリーンヒットするわで、今に至る。」
男は少し寂しそうだ。明らかに演技が入っているが、純粋に清也には気付かれない。
「あぁ・・・それが本当なら悪かったな・・・。
彼氏って訳でもないんだけど、なんだか放って置けないんだよね・・・。」
清也は少し申し訳なさそうに言った。嘘っぽい挙動に誤魔化されるぐらいには、純粋らしい。
「まぁ、俺たちは出会い方が最悪だったけど、あと2週間近く旅するんだ。
過去のことは水に流して、楽しんでこうぜ!」
男は急に明るくなった。巧みな話術で、清也との良好な関係性を築いていく。
「あぁ、そうだな!」
清也も元気よく答えた。
生来、争いが好きでない彼は内心で、初対面で暴力を振るった事を後悔していたからだ。
~~~~~~~~~~~~
「話は変わるんだが、今回の野犬の襲撃・・・。なんか妙だと思わないか?」
清也と打ち解けた後、数時間に渡って他愛も無い会話を続けた後に、男は急に真面目な話を振った。
「どこが?」
くだらない話の殆どを聞き流していた清也も、今度ばかりは異様な雰囲気を感じとる。
重要な話を聞き洩らさないために、真剣に耳を傾けた。
「44・・・だったよな?死んだ奴。」
「うん、本当に残念だ・・・」
神妙な表情で、清也は話を聞き入る。
「俺は専門家じゃないから、詳しくは分からないが・・・合わなくないか?」
「何が・・・?」
清也は寒気がしてくる。
昨夜から、少しだけ疑問に思っていた違和感が、男の口からも語られようとしている。
「遺体の数・・・。」
男も自分で言いながら、少しだけ怖がっているようだ。
しかし怯えるとは違い、楽しんでいるようにも見える。
「運んだんじゃないか?寝蔵に・・・。」
清也は震えが止まらなくなって来た。
「お前がぶっ倒した馬鹿でかい奴なら、俺も納得する。
だが野犬と言っても、人間を安易と運べるほどでかい奴は、他にいなかったぜ?
それに森獣とやらが吠えた時、全ての犬が逃げ出しただろう。
だが俺はあの時に、遺体を咥えてた野犬を見てない・・・。もちろん、野犬の他に動物はいなかった・・・。」
遂に、男の方も清也に釣られるように震え出した。しかし、口の端には薄ら笑いを浮かべている。
「想像したくないけど、キャンプ場内で食べられたとか・・・。」
「骨すら残ってないんだぜ・・・見かけた遺体もせいぜい6人ってとこだ。
どれも噛み付かれてはいるが、ほとんど食べられてない。
怪我人を差し引いても、血の量に対して遺体が少な過ぎないか?」
「な、何が言いたいんだい・・・?」
清也は震えで歯が鳴り始めた。
「何かが遺体を、どこかへ運び出してる・・・。それも、おそらく人間が・・・。」
男は恐ろしい仮説を、あっさりと言い切った。しかし、やはりどこか楽しそうである。
「二人とも!何話してるのっ?」
花が無邪気な顔で、話に割入って来た。
しかし清也と話している人物の顔を見ると、すぐに顔が曇る。
「うわっ・・・チャラ男・・・。」
花は驚きと不快感で声を失ったようだ。
「あぁ・・・えっと、チャラいのは否定しないけど・・・。
俺の名前は "トーシン・バンカー" 。シンでいいからさ、名前で呼んでくれないか?」
シンは遂に自分の名を名乗った。
「分かったわ。シン、あなた達は何の話をしてたの?」
「えぇと・・・実はな・・・。」
シンが話そうとしたとき、清也が遮った。
「これまで、悪い事をしてきたなぁって、お互い謝ったんだ!
これから2週間も一緒だし、楽しもうってね!」
清也はあえて、重要な部分を言わなかった。
「まぁ、たしかに、ちょっとは悪かったかもね・・・。
いや、でもあなたも悪いからね!私に近寄らないで!」
「お、おう・・・。」
「花、それは言いすぎなんじゃ・・・。」
シンに対して、割とキツい事を花は言い切った。かなり怒ってるかに見えたがーー。
「なーんてね!まぁ、清也が水に流そうって言うならいいわよ!
私の名前は花!これからよろしくねシン!ただ、二度と追いかけたりしないで。」
花は笑顔に戻ったが、最後にもう一度念を押した。
「ごめん花、ちょっと外してくれないか?シンと少し2人で話があるんだ。」
「ごめんね花ちゃん、どうしても話さなきゃいけないんだ。」
花が去っていくと、再びあの恐ろしい話題が始まった。
「花ちゃんには本当のことを言わないのか?」
シンは不思議そうに聞く。
「あぁ・・・彼女を、これ以上は怖がらせられない。」
清也は少し辛そうに言った。
「彼氏、じゃないんだったか。
保護者はお前だから任せるけど、その代わりちゃんと側に居てやれよ。」
言い方は変だが、顔は真剣そのものだった。
「あぁ、言われなくてもそのつもりだ。」
「安心させる為だけじゃない。この意味、分かってるな?」
「もちろんだ。野犬溢れるこの森の中・・・遺体を運び出してる異常者は・・・間違いなく、僕たちの中にいる!」
その時、花の叫び声が聞こえた。
「清也!シン!来たわよ!戦闘態勢に入って!」
話すのに夢中で気付かなかったが、進行方向は既に野犬に埋め尽くされている。
同時に、森の途切れ目も見え始めていた。
「ここが・・・正念場だ。シン、僕たちの代わりに、伝令を後方の班へ回してくれないか?」
「イェッサー!」
シンはそう言うと民間人とは思えない速度で走って行った。
(僕たちの中に異常者・・・人狼とでも呼ぶか。そいつが紛れ込んでる。)
清也はそれを肝に銘じ、こう言った。
「花、僕のそばから絶対に離れないでくれ。誰にもついて行かずに僕のそばにいて欲しい。」
「誰にも付いて行かずに・・・えぇ、分かったわ。」
花は跳び上がりたいほど嬉しい気持ちを抑え込んで、真剣な声を出した。
清也の裾を掴み、背中に隠れるようにして温もりを共有する。
清也が剣を抜くと、また少し刀身が伸びている気がした。
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