『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

文字の大きさ
52 / 251
第二章 黄金の魔術師編

EP47 天空の本棚

しおりを挟む
 
 清也は勇者についての本を読み終わると、ちょうど他の二人も読み終わったようだった。

「勇者について一応、調べ終わったんだけど、二人は何について調べたの?」

 清也は先に二人に質問した。

「私は回復魔法についての本を読んだわ。
 どうやら水晶の杖っていう杖が世界のどこかにあって、その杖があればかなり強力な回復魔法を生み出せるらしいわ。」

「俺はごく普通に昨今の経済について読んでた。なんだかんだで、見てて面白いからな。」

 シンが意外に博識で二人は少し驚いた。

「シンって、大学どこ出てる・・・?」

 清也は恐る恐る聞いた。

「自慢になるけど、慶田大学 けいだだいがくの経済学部出てるよ。」

 シンは顔色を変えずに言った。

「大学入学?」

 清也は興味深々だ。

「ああ、うん。高校は受けなかった。なかなか馴染めなくて大変だったよ。」

 少し悔し気に言った。

「大入生は優秀だからなぁ・・・。みんな妬んでるんだよ。幼稚園入学なんて・・・。」

 清也はこれ以上は言わないことにした。幼馴染の級友の成績は、よく知っている。
 しかしこれを、一番の馬鹿が言うべきではないと思ったからだ。

「あれ?清也って慶田大学なの?」

 花も不思議そうに聞いた。

「裏口だよ・・・。大学何て、休みすぎて学部さえ覚えてないもん。」

 清也は後ろめたそうに言った。二人に軽蔑されても仕方ないと思ったからだ。

「でも清也の良いところは学歴じゃないでしょ?
 学歴を鼻にかけてる訳でも無いんだし、そんなに気を落とさなくてもいいと思うわよ。」

 花は少しも気にしていないようだ。

「そうだぜ、この世界に大学自体存在しないしな!会社も無いし最高だぜ!」

 シンもあまりに気にしていない。
 むしろ、何処か晴れやかな顔をしている。

「そうだね、変な話してごめん!
 僕はエレーナ様と2人で話したい事があるから、2人はまだここに居ていいよ。」

 清也はそう言って、逃げるように空間から出て行った。

~~~~~~~~~~

 清也は玉座の間に戻るまでの廊下で、立ち止まって再びあの絵を見た。
 冷静に見れば落書き以外の何者でも無い。背景を見るに、画用紙に書かれてすらいない。ノートのような神に、殴り書かれているようだ。

「馬鹿らしい・・・。」

 清也は小さく呟くと歩き始めた。

 玉座の間に着き、扉を開けるとエレーナはまだ部屋の中に居た。
 疲れているのか、座ったまま眠っている。

「も、もう無理よ・・・あなた・・・。もう眠たいの・・・♡」

 エレーナは寝言を呟いている。

(食事の夢でも見てるのかなあ?起こしたら、天罰かもしれないな・・・。)

 清也は、自分に稲妻が落ちる様子を想像して身震いした。

(まぁ、近付くだけならいっか。)

 清也はそう思い、音を立てないようにゆっくりと歩いて行った。
 すると、エレーナは突然目を開けて大きく伸びをした。

「あれ?其方だけか?」

 エレーナは不思議そうにしている。

「2人はまだあの図書館にいます。部屋というには不思議な空間ですね。」

 清也はそれとなく聞いてみた。

「あの図書館は天空の本棚 そらのほんだなと言ってな、ありとあらゆる世界で起こった出来事が全て記録されている。
 私と其方がここで今、会話している内容もリアルタイムで記録されているぞ。凄いだろう?」

 エレーナは少し自慢げに言った。
 人間にそんな事を自慢したって仕方ない、というツッコミはしないことにした。

 清也はそれを聞いて、一つの質問をしてみることにした。

「天空の本棚には、廊下に飾ってある絵についても載っているのですか?」

 清也は遠慮がちに聞いた。

「最後の一枚を除いてはな・・・。其方が知りたいのはあの絵についてだろう?」

 エレーナはすべてを見透かしていた。
 どうやら、エレーナもあの絵に対して思うところがあるようだ。

「あの絵は、”お前が元の世界で死んだ日”、具体的には西暦2021年の5月21日に突然あの場所に現れたんだ。作者の名前にも心当たりはないし、描くことを頼んだ覚えもない。
 外そうと思ったのだが、呪いのような物が掛かっているせいで動かせなくてな・・・。」

 エレーナは不思議そうに首をかしげている。

「変なこと聞いてすみません!そういえば、僕が死んだ後の世界はどうなりましたか?」

 清也は女神と呼ばれるほどの存在に、”分からない”と言わせるのは失礼な気がして、話題を変えた。

「至って平和だ。悪の秘密結社のテロも、世界大戦も起こってはいない。
 ウイルスの蔓延もだいぶ収まり、オリンピックとやらも予定通り開催されるようだぞ。」

 エレーナは微笑みながら答えた。

「父さんは元気ですか・・・?」

 恐る恐る聞いた。
 妻を既に亡くしている清也の父、吹雪悠王ふぶきゆうおう にとって、一人息子は会社以上に大切な存在であった。
 清也もそのことを知っていたからこそ、余計に心配になった。

「かなり塞ぎ込んでいるよ。お前が死んだ日のうちに、孤児の少年を跡継ぎとして養子にとらされた。
 それでも、心の隙間を埋めるほどじゃないようだ・・・。」

「会いに行くことは・・・無理ですよね。」

 清也は回答を自己完結した。

「ああ、転生は与えられる使命の重みをエネルギーにして行われる。
 特に生まれた世界に戻るには、膨大なエネルギーが必要なのだ。残念だが・・・。」

「何回も質問して申し訳ないのですが、僕の弟は一体どんな子なんですか?」

 清也は純粋な好奇心で聞いた。

「そうだなあ・・・。其方とは別の意味で吹雪の姓が似合う少年だと思うぞ。
 其方がどちらかと言えば冷静な性格だとすれば、あの少年は”クール”な感じだな。ちょっと違うかもしれないが・・・。
 お前と同じ慶田大学初等部のカリキュラムの元、ぐんぐん能力を上げているようだ。吹雪カンパニーは安泰だな。」

 エレーナは満面の笑みを浮かべている。真っ白な八重歯が光を反射し輝いた。

「それは良かった・・・。後は、父さんさえ元気になれば・・・。」

 清也の心にエレーナの”どちらかと言えば”という、何気ない言葉が突き刺さった。
 それにより、自分よりも吹雪を継ぐのに相応しい人間が居たのだと思い込んだからだ。

「そろそろ他の2人が読み終わったようだが、其方はこれからどうするのだ?」

 エレーナは唐突に聞いた。

「修行をしようと思います。
 今の力では、これからの戦いに勝てないという事が、実感できたので・・・。」

 清也はラドックスの圧倒的な力を思い出して身震いした。

「それに、勇者の伝説にある"琥珀色の瞳"についても調べたいんです。」

 清也はこれまでの経験から、その事がラドックスを倒す鍵なのだと分かっていた。

「分かった、頑張るのだぞ。ちなみに当てはあるのか?」

「はい、1人だけ・・・。」

 清也の頭に1人の男が浮かんだ。

「2人にテレパシーで聞いたのだが、2人は今後の目的を見つけたようだ。
 3人とも地上に戻しても良いか?」

「はい、大丈夫です。場所はソントの町でお願いします。」

「了解した、では健闘を祈る。」

 エレーナがそう言うと足元に魔法陣が現れて、清也の意識は渦の中に吸い込まれて行った。

~~~~~~~~~~

 清也たちがいなくなり、一人玉座の間に残されたエレーナのもとに、豪華な服を着た若い男がやってきた。
 青い長髪を垂らしたその男は、一枚の長い紙を両手に抱えている。

「サフィード、一体どうしたの?
 まだ帰れないわ。仕事が終わったのなら、部屋で待っててちょうだい。」

 エレーナはいつもの男勝りな口調ではなく、女性的な口調に変わった。
 表情も清也たちを前にした時よりも明らかに緩んでいる。

 サフィードと呼ばれた男は重苦しい顔をしている。

「エレーナ、勘違いしないでくれ。
 そういうつもりで来たわけじゃないんだ。君に伝えたいことがあって来たんだ。」

「用件を聞こうか」

 エレーナは急に女神モードの顔に戻った。口調は固くなり、声も幾分か低くなった。

「昨晩とはまるで別人のようだな?あの、高くて可愛い鳴き声・・・♪」

 サフィードはそれとなくエレーナをからかった。顔は悪戯っぽく笑っている。

「もう!恥ずかしいこと言わないで・・・///忘れてよ!♡」

 エレーナもそのペースに流されている。

「じゃあ、本題に入ろうか。趣味の一環としてあの青年・・・名前は吹雪清也といったか?
 まぁ良い、彼の弟になった少年についていろいろと検査してみた。そしたら・・・。」

 サフィードは手に持っている長い紙をエレーナに手渡した。


 ー吹雪改世ふぶきかいせい(6歳)についての検査結果報告ー
 性別・・・男
 身長・・・123cm
 体重・・・22kg
 知能指数・・・190
 身体能力・・・94

 過激思想度・・・98
 カリスマ性・・・95
 残忍性・・・・・97
 計画実行力・・・93
 ー天界情報整理部神位 サフィード・エレクティス ー



 一通り目を通したエレーナは不思議そうな顔をして聞いた。

「私には読み方がいまいちわからないのだけど、中々に物騒ね・・・。」

「物騒なんてレベルじゃない!こんな値は前代未聞だ!
 同じ世界の住人、どの人物と比較しても異常な値だ!」

 サフィードは身震いをして言った。

「あなた、何が言いたいの?」

 エレーナは夫を心配している。

「この、吹雪改世という少年は遠く無い未来、何か恐ろしい事を成し遂げる・・・。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...