『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第二章 黄金の魔術師編

EP48 岐路

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 清也達は3人揃ってソントの町の門のそばに倒れていた。頭痛を振り払い、3人は立ち上がった。
 辺りはまだ暗い。時計を見ると針が3時を示している。

「清也、この後にする事は決まったの?」

 花は聞いた。髪に少しだけ砂がついている。

「あぁ、あの人に会おうと思う。あの人ならきっと、僕の"瞳"について何か知ってる。」

 清也は遠くを見つめながら言った。

「たしか、お前も先代勇者も同じように、目の色が変わるんだよな?どうゆう原理なんだ?」

 シンは不思議そうに聞いているが、若干だけ厨二的な能力に対して、少しだけ羨ましそうにしている。

「僕にも見当がつかない・・・。この世界に来るまで、そんな事は一度も無かったんだ。」

「それが、あなたが言う人に会えば分かるかもしれないのね?」

「可能性は低いけど、僕の瞳について知ってるとすればあの人しかいない。」



 シンはそこで爆弾を投下した。

「それって、天空の本棚で調べたらだめなのか?」

「!?」

 花と清也は顔を見合わせた。
 清也は自分の愚かさを呪い、花は清也のドジなところも、良いと改めて思った。

「えぇと、ほら!冒険感があるじゃん!?」

 清也は無理に、場を取り繕おうとしている。
 もし、これで当てが外れたら、腹を切ろうと密かに決心した。

「そうよ!たしか、清也は人に頼らないように冒険してるんでしょ?」

 花は清也をフォローしようと必死だ。

「そうなのか?なんか・・・大変だな・・・。」

 シンはあまり深く突っ込まないことにした。

「それじゃあ行こうか」

 清也はそう言って、2人と共に歩き出した。
 その足はソントの町とは別の方向に向いている。

「おいおい、町に入らないのか?」

 シンは訝しんでいる。

「いいから、着いてきてくれ。」

 清也は笑って答えた。

~~~~~~~~~~~

 心地よい風が吹き抜けていく草原を、3人はひたすら進み続けた。
 蛇のいる川に氷の橋をかけ、徒党を組んでいたゴブリンを金を撒いてやり過ごし、小さなイクラのような目玉が全身に付着したスライムを、植物操作魔法で握りつぶし粉砕した。

「ごめん、スライムってもっと可愛いものだと思ってたわ・・・。」

 花はげんなりしている。清也はスライムを可愛らしくデザインした人は、天才だと実感した。

「もうそろそろ、見えてくる頃だと思うんだけどなぁ・・・?」

 草原の奥に目を凝らすと、小高い丘の向こうから白い煙が上がっている。
 清也は丘を駆け上がり、その向こうを見下ろした。
 丘に隠れて見えなくなっていた大きな山があり、そのふもとに小さなテントが建てられていた。

「清也・・・ここって!」

 花は気が付いた、この場所に以前来たことがあると。

「ああ、”友情の山”だよ。君と僕で試験を受けたあそこだ。」

「じゃあ、あなたが会いたい人って・・・。でも、そんなのあり得ないわ!ただの都市伝説よ?」

 花は頭ごなしに否定する。どちらかと言えば、清也を心配している顔だ。

 清也にも花が言いたいことがわかっていた。
 普通に考えて、”300年以上も生き続ける人間”なんているわけがない。
 清也も最初に話を聞いた時には、ニワカには信じることができなかった。
 しかしラドックスと対決した清也にとって、元の世界の常識がこの世界に通用しない事は、想像に難くなかった。

「僕はこの”得体のしれない力”の使い方を、知らないといけない。
 それが僕の、運命な気がするんだ。」

 清也は、それが自惚れであることを自覚しながら言いきった。

「現状でラドックスを倒せそうなのは清也、お前しかいないのは確かだ。
 自分の可能性を探りたいなら、俺たちはそれについて行くさ。」

 シンはいつになく神妙な顔をしている。

「そうね、清也が見た”異界”が存在してるなら、彼を追っていけば間違いなく魔王にたどり着けると思うわ。」

 花も納得したようだ。この時点で、今後の旅の目標はラドックスを探し出し倒すことに決まった。

「じゃあ、行こうか。」

 清也は二人がある程度納得したのを感じると、丘を下り始めた。


 テントに着き入り口を覆っている布をずらすと、中央に配置された机越しに、試験官だった男が椅子に座ってこちらを見つめている。

「お前たちが来るということは試験じゃないな?なら、用件はわかってる。」

 男は目を細めて、清也の顔を観察するように覗き込んでいる。

「大方、俺が”勇者の仲間”だという噂を聞いて来たんだろう。確かにそれは”事実”だ。」

 それを聞いた清也は、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
 ここまで一筋縄で行かない事が多かった旅だが、今回こそすんなりと目的を達成できそうだ。

「あの時は、失礼な事をしてすみません!
 どうか、狼の勇者について知っている事を、教えていただけないでしょうか?」

 清也は頭を下げ、出来るだけへりくだった言い方をした。
 一般的に恥とされる事が多い頭を下げるという行為。
 しかし清也は社会経験という点において、まだ小学生並みの感覚であった。なので、そこまで抵抗はなかった。

「あいつは自分について多くを語らなかった。仲間思いだったが、少し気難しいやつだった。」

「では、についても話さなかったんですか?」

「やはり、お前はその事で来たんだな・・・。悪いが俺は何も知らない。」

 男は少しだけバツが悪そうに言うと、椅子に座ったまま背を向けた。

「わかりました・・・。他を当ってみます、時間を取ってしまいすみません。」

 清也はこれ以上の詮索は無意味だと思い、二人を連れてテントから出ようとした。



「待て。」

 二人がテントから出て、清也も入り口を跨ごうとしたとき、背後から呼び止める声がした。

「お前は何を目的に戦っているのだ?勇者について知りたいのなら、金を稼ぐためではないだろ?」

 男は清也に、深みのある声で問いかけた。

「僕は魔王を倒して、世界を救うために戦っています。それが僕の”今を生きる意味”なんです。」

 清也は大人びた声で答えた。普段のおどけた様子とも、荒々しい時とも違う雰囲気が漂っている。

「お前が”本当の強さ”を望むなら、仲間と別れて一人でここに行け。
 そこにお前の運命こたえがある。つまり・・・分かるだろ?」

 男はそういうと、地図の切れ端を清也に手渡した。
 清也には分かった。男の言いたい事がーー。

「まさか・・・答えって・・・!」

「皆まで言うな。俺が生きてるという事は、つまり”そう言う事”だ。」

 念のため確認を取ったが、試験官の反応を見て確信した。
 清也の感じた予感は当たっている。勇者伝説の全てを知る、”世界で唯一の男”がそこにいるのだ。

「仲間と別れて・・・ですか?」

 清也は聞き直した。それもまた、とても大きな意味のある事に感じたからだ。

「もう一人の男は、単純に向いていない。あの女はお前の強さにも弱さにもなる。
 お前は大切な人を守れるだけの力を、手に入れなければならない。」

 最後の一言が清也に突き刺さり、心を決めさせた。

「本当の強さ・・・。」

 清也は小さくつぶやくと再び歩みだそうとした。

「盾と鎧は置いていけ、邪魔になるだけだ。」

 背後から再び声がした。清也は小さく頷くと、今度こそテントから出て行った。



 清也がテントから出たのを確認した男は目をつぶって小さく独り言をつぶやいた。

「300年、お前の継承者は現れなかった。だが、アイツなら受け継げる気がする・・・。
 出来る事なら、纏めて”組織”に取り込みたいものだな・・・。

 男は卓上で湯気を立てるコーヒーを飲み干すと、含みの有る笑みを浮かべたーー。

~~~~~~~~~~~

 清也がテントから出ると、さっそく花に問い詰められた。

「清也、何の話をしてたの?」

 清也は大きく息を吸い込んで言った。

「僕は・・・行かなきゃいけない所が出来た・・・。」

「あら、じゃあ早速出発しましょう!」

 天真爛漫な笑顔を浮かべている。当然のように、清也と同伴する気のようだ。

「いや、僕は一人でその場所で行く。二人とは、一旦ここで分かれる。」

 清也は花に流されないように、毅然とした声で言った。



「え?」

 花は雷に打たれたような顔をしている。衝撃が全身に駆け巡り、声が出せないようだ。

「なるほどな・・・お前の求める物がそこに有るんだろ?」

 シンは花と対照的に、落ち着き払っている。清也は俯き、静かに頷いた。

「花ちゃん、分かってやれ。男には自分一人でやらなきゃいけない事ってのがあるんだ。」

 シンは普段のお調子者とは似ても似つかないほど、大人な雰囲気を出している。

「花、分かってくれ。僕は強くならなきゃいけないんだ。」

 清也は地平線を見つめている。その瞳には、昇って来た朝日と燃えるような闘志が映っていた。

「行ってこい、清也。お前が決めた道を進むんだ。」

 シンは朝日に向かって叫んだ。
 清也は鎧をその場で脱ぎ、盾とともにシンに渡す。

「半年後、酒場で会おう。」

 そういうと、清也は花に近づいていく。

「僕が戻るまで、待っててくれるかい?」

 清也は微笑みながら聞いた。それに対する花の返事は言葉ではない。
 朝日に照らされた草原で、二人は言葉を越えたを交わした。

「必ず帰って来てね、約束よ!」

 口付けを終えた花は、力強く念を押す。

「約束だ!それじゃあ、行ってきます!」

 清々しい笑顔を浮かべた清也は剣のみを脇に抱え、地平線に消えていったーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(後書き)

次章から、花視点です!
NTRの気配が漂ってますが、特にそんな事はないです。
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