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第三章 シャノン大海戦編

EP54 大地

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 花とシンは大陸の北に向けてユニコーンに乗り、進み続けていた。

 昨日は3時間で約4キロしか進むことができなかったが、ユニコーンに乗ったことで1時間で、少なく見積もっても80kmほど進むことができた。

「速いだろうとは思ってたけど、こいつは速すぎないか・・・?」

 シンは驚いた表情でつぶやいた。
 初めのうちこそ楽しそうにしていたが、もはやその表情は恐れに近いものになっている。

(こんなのに追いかけられて、なんで俺生きてるんだ・・・?)

「確かに速いわね~♪」

 花はシンと対照的に、楽しみ始めている。
 馬についてよく知らない花は、この異常な速度にシン程の感慨はなかった。

「速いなんてもんじゃないぞ・・・俺はあんまり詳しくないが、こいつは短距離馬の最高速度くらいで一時間走り続けてる・・・。しかも息が全く上がってない・・・。」

 シンはこの調子で走り続ければ、ユニコーンより先に疲れで自分が死ぬと思い、休むことにした。

 ~~~~~~~~~~~~~

「昨日の道のりが嘘みたいね!」

 花は上機嫌に言った。
 ユニコーンを主に操っていたのはシンであったので、花はほとんど疲れていなかった。

「全く、人の気も知らないで・・・。
 とは言っても、結構な速度で走ってる割には、俺も疲れないな。」

 シンは不思議そうに言った。
 乗馬部に所属していたとはいえ、アマチュアの域を出ないシンが実際の馬で時速80キロも出せば落馬は免れないだろう。

 ただ、シンはスピードを出すことには慣れていたので、ネックとなるのは振動による疲労だった。

「もしかしたら、走り方が根本から馬と違うのかもね。」

 花は微笑みながらそう言うと、ユニコーンの頭を撫でた。
 嬉しそうに尻尾を振っている。

「いつまでもユニコーンって呼ぶのも変だよな・・・名前でも付けるか!」

 シンはかなり体力が戻ってきたようだ。いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「名前・・・ユニコーンを所有物みたいにして、本当に良いのかしら?」

 花は首を傾げていた。
 しかし、当のユニコーンがそれを了承するように、大きく嘶いたので納得した。

「そうねえ・・・金色の鬣があって、船みたいにたくさんの荷物を運んでくれるから、ゴールドシ」

「やめろやめろ!その名前はやばい!色々やばい!」

 シンはその後に繰り出される名前を察して、花の言葉を遮った。

「そんなに言うならあなたが考えなさいよ!」
 花はせっかく考えた良い名前が却下されて不服そうにしている。

「そ、そうだな・・・。タイヘイ・イッカクとか?」
 シンはユニコーンの角として売るために、イッカクが乱獲された話を思い出し、この名前を提案した。
 そこそこの自信作だったが、ユニコーンからは明らかに不評だった。前足で踏みつぶそうと構えている。

「もっと呼びやすい名前がいいと思うわ。」
 花はシンのセンスに呆れている。

「サンダー・ランス・・・略してサランはどう?」
 花は自分の奥底に眠る厨二魂を絞り出して名前を考案した。
 シンは首を傾げていたが、ユニコーンは嬉しそうに嘶いた。

「よし、じゃあ名前はサランで決まりだな!そろそろ行くか!」
 シンは空気を読むことにした。


「そういえば、この世界には海があるんだよな?」
 シンはサランの背に乗ると思い出したように聞いた。

「ええ、それがどうしたの?」
 花は今更、何を言っているのかわからないという顔だ。

「なあ、海の先には何があるんだ?」
 シンは素朴な疑問を口にした。
 なんてことない、小さな疑問ではあったがそれはこの世界において大きな意味を持っていた。



 三人が転生した太平の世界は一つの巨大な大陸が世界のほとんどを構成していた。
 その超大陸の周囲に海洋があり、いくつかの群島があった。
 大陸の中で四季が巡り、東西南北で気候も大きく異なる。
 三人が元居た”地球”での環境は、大陸の中ですべて完結していたのだ。

 では、大陸に含まれない海洋と群島には一体、何があるのだろうか?
 世界には本当に大陸と海洋、群島以外ないのだろうか?
 例えばかつて天界があったとされる空の上や、魔界があったとされる地底には何があるのだろうか?
 この世界にいる者たちは、そんな事を考えたこともなかった。



「そういえば、どうなってるのかしらね?」
 花はその質問に真剣に取り合わなかった。
 太平の世界も地球同様に球体であり、北端を越えて進み続ければ南端に辿り着くと思っていたからだ。
 それが”大きな間違い”であると知るのは、まだ先のことである。

「まあ、アトランティスに行くだけなら地上を通っていけばいいよな。」
 シンはあまり深く考えないことにした。
 自分がこの世界だけでなく、”宇宙の真実の一端”に手を伸ばそうとしていると知らずに。

「そろそろ行きましょうか、この子も待ちくたびれてるわ。」
 花はシンを優しく諭した。サランも走りたくてうずうずしているようだ。

「そうだな、ちなみにシャノンまではどのくらいかかるんだ?」
 シンは今度こそ素朴な疑問を口にした。

「あと・・・少なく見積もっても12000キロってとこね!」
 花は清々しい笑顔を浮かべている。喜びとは異なる感情がその表情からは感じられた。

「素晴らしいじゃないか!さっきと同じ速度で一日に10時間走り続ければ15日間で着くぞ!サランなら余裕だろ!」
 シンも花同様に清々しい笑顔を浮かべている。今度は明白に”絶望”が感じられた。

「頑張るしかないわ・・・。」
 花は既に感情を取り繕うことができなくなっていた。

「ああ・・・。」
 シンはここから先の苦行を想像して、頭が痛くなってきた。
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