『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

文字の大きさ
85 / 251
第三章 シャノン大海戦編

EP74 幻影

しおりを挟む

「おわああぁぁぁっっっ!!??」

 シンは突然叫び声をあげた。まるで、この世の闇を見たかのような声だ。
 悪夢から目を覚ました時の声と言えば、伝わりやすいだろう。

 眼球は金魚のように飛び出し、開いた口はふさがらず、恐怖以外の概念が彼の中から無くなったかのようだ。

「な、何っ!?」

 気持ちよさそうに歌っていた花も、シンの声に驚いて動作を止めた。

「悪魔崇拝もいい加減にしろ!いや、むしろ悪魔崇拝教徒に謝れ!」

 シンは自分の目に焼き付けられた恐怖の結晶が、この世の物であると受け入れる事さえ出来ない。

「え?”あくますーはい”って何?」

「分かっていないのが一番ヤバい!!!
 お前のその天を崇めるような手の動き!絶妙な角度で折り曲げられた腰!地面を軽快に踏み鳴らしながら、靴先で前後に細かいステップをする脚!
 どれをとっても、焚火を囲む悪魔崇拝教徒じゃないか!!
 俺を生贄にしてレベル6通常モンスターの”デー〇ンの召喚”をアドバンス召喚する気か!!」

「え?え?え?」

 花は訳が分からない。
 可愛く踊れと言われたから可愛く踊った。ただそれだけなのに、シンからは冗談交じりとは言え全否定を食らったのだ。

「か、可愛くなかった?」

「可愛くない!!てか、怖い!!ゲホッゲホッ・・・。」

 シンはもはや擁護することが出来ない。
 息継ぎをすることなく批判し続けたせいで、呼吸困難に落ち入りかけていた

 事態の深刻さに気が付いたシンは、ポスターを作る手を完全に止め、休憩を取りダンス指導を行うことにした。

~~~~~~~~~

「可愛いという概念への認識が甘いッ!!!」

 シンは休憩を終えると、花に喝を入れた。

「ひぅっ・・・。」

 花はいきなりの大声に驚いて、情けない声を上げると縮こまってしまった。

「もっと真剣に可愛さを出していこうよ!
 ”ここで可愛くなれないと死ぬ!”くらいの感覚で踊るんだ!」

 シンは分かりやすいアドバイスをしたつもりだったが、花には伝わらない。

「と、言うと?」

「そうだなぁ・・・じゃあ目を瞑って。」

 シンは何となく、効果的な方法を思いついた。

「う、うん・・・。」

 花は言われたとおりに目を瞑った。すると、シンは囁くような声で語りかけた。

「6カ月ぶりに再会した清也に、自分よりも若い彼女がいます。」

 シンはその後も何かを続けようとしたが、花が大声を出してそれを遮った。

「やだぁっ!そんなのやだよぉ!」

 花は涙声になっている。
 シンはうまく催眠状態に落とし込むことが出来て、安堵した。

「清也殿はどうやら、新しい彼女に夢中なようですねぇ~。
 若さを活かした可憐なダンスで、釘づけにしているようです。・・・やべぇ、想像したら興奮してきた!」

 シンは完全に本題をそれて、自分の妄想に酔いしれるという””に走り出した。

「ちゃんと可愛いダンスが踊れないと、捨てられちゃいますよ!」

 数秒後、我に返ったシンは主題へと立ち戻った。

「私、可愛く踊るから見ててね・・・だから・・・私の事、捨てないで・・・。」

 花は涙声を通り越して、泣き出してしまった。頬を伝った一筋の涙がワンピースに付着する。

(やべぇな・・・やりすぎたか?いや、プロデューサーなんだし役得か。うん、これは教育だしな。)

 シンは泣きながら踊ろうとする花の姿を見て、少しだけ後悔した。しかしすぐに、自分のせいではないと開き直った。

(てか、どうやって解除すればええんや?全く分からんのやが。)

 シンがそんなことを考えていると、花は半ば催眠状態にかかったまま踊りだした。
 それは先ほどの悪魔崇拝ダンスよりはましであったが、シンが想像していた”可愛い”とは大きく違った。

 まず、先程の激しい動きは全て取り払われ、一挙一動に一切の無駄がない。
 そして、闇雲に体を振るのではなく足先から指先、首の付け根に至るまで、体の全てがゆっくりと一つの意志のもとに統一されて動いている。
 花の曲線美を最大限に活かしたその踊りは、可愛いというよりも美しい。より綿密に言えば艶やかだった。
 シンはその芸術性さえ感じさせる動きに、正直なところ見惚れていた。
 
 しかし、決して楽しんで踊っている訳ではないことがシンにも伝わってくる。
 少なくとも、前回踊っていた時はあった自然な笑みが消えており、代わりに相手を満足させたいという魂の叫びと、悲壮感に塗れた作り笑いが顔に貼り付いて剥がれない。
 そして、何よりもシンの心に訴えかけてくるのは花が泣きながら呟いている言葉だった。

「捨てないで・・・私はもっと可愛くできるから・・・捨てないで・・・。」

 シンの中で、という気持ちが広まっていく。
 本当に美しい踊りではあったが、こんな物を客に見せてはいけないという認識が彼の中で生まれた。

(なんか、めんどくさくなってきたなぁ。)
「花って胸大きいよね、どのくらいあるの?」

 シンは出来るだけ、清也の声真似をしながら聞いてみた。
 歩く度に揺れる花の胸のサイズ。気にならない男はいない。ましてや、シンならば気になって当然だ。
 それに、恐らくスタイルに自信がある花に、都合の良い質問をすれば正気に戻す事が出来るのでは無いかと思ったのだ。

「Gカップはあるよ。え?見たいの?・・・清也ったら、甘えん坊さん♡」

 花は急に踊るのをやめると、おもむろに服を脱ごうとし始めた。
 第一目標であった花の”自信を回復させる”事は達成できたが、流石にそこまでやったら清也に殺されると思ったシンは、強気に断った。

「いや、今はいいよ。」
(でっか!!!!!)

 シンは割と素っ気なく断ったが、内心では驚愕と興奮で爆笑してしまっていた。
 しかしシンの予想に反して、花は急に動揺し始めた。

「清也・・・私の事嫌いになっちゃった?」

 花は再び大泣きし始めると、床にへたり込んでしまった。

(うわ、コイツ重くてだりぃ・・・。)

 シンはもうお手上げ状態だった。
 これ以上どんな言葉をかけても、花には届かない気がしたのだ。
 このまま、洗脳状態から回復できるという保証も無い。シンは頭を抱えて思考を停止してしまった。それに、考えるのも面倒臭くなってきた。



 しかしその時、背後から軽快な足音がして、”起こるはずの無い奇跡”が起きた。



「そんなに泣かないでくれよ花。僕が君を捨てるなんて、あるわけないだろう?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...