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第七章 天空の覇者編

EP188 魔の覚醒 <☆>↓

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「多くの人を拐って!何に使うつもりなんだ!」

「俺には目的がある!その為の犠牲になってもらうのさ!」

 空中に浮遊したままのラースは、圧倒的に優位な位置に陣取っていた。
 だが征夜は地の利に屈する事もなく、果敢に飛び掛かっていく。
 川の流れに足を取られながらも、懸命に飛び上がっては斬撃を加えていた。

「随分と腕を上げたじゃないか!元がヒョロガキ過ぎたがな!」

「舐めるなぁッ!」

「それは・・・こっちの台詞だぁッ!!!」

「ぐっはあぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 力強く蹴り落とされた征夜は、川岸の大岩に衝突する。
 背骨を強打して、立ち上がるのも辛いほどの激痛だ。

 だが、それでも立ち上がる。この程度で諦めような、柔な修行はしていない。

「ほぉ?立てるのか。根性だけはあるらしい。」

「あいにく前世に、"根性以外を忘れて来た"もんでな・・・!」

「だが、そのせいで魔法の一つも使えない。そうだろ?」

「"気色悪い能力"に操られないだけ、まだマシだな!!!」

 ヨロヨロと立ち上がった征夜は、再び大地を踏み締めた。
 額から流れる血を拭い取り、力強く刀を握りしめる。

「勘違いするなよ?俺の能力はせいぜい50%。まだまだ余力を残してる。
 お前が生きてられるのも、俺が遊んでやってるだけだ。本気を出せば、お前など速攻で生ゴミなんだよ!」

 圧倒的な力を見せるラースとの実力差は、修行を経ても埋め難いほどの壁がある。
 それに加えて奴は、未だに本気を隠してる。既に疲れが見え始めた征夜とは違い、余裕を感じさせるのだ。

 だが、そんな事では屈しない。
 征夜の中に燃え上がった闘志が、脳を興奮で爆発させた。

「やってせみろよ・・・!」

「なに?」

「ぶつかって来いよ・・・!お前の100%・・・叩き返してやるからよぉ!!!」

 精一杯の笑みを浮かべながら、征夜はラースを挑発した。
 それが強がりである事は、本人が最も良く分かっている。

「""ってのは恐ろしいな・・・。
 自分に何が出来なくて、何をして良いのか。それが分からないらしい・・・。」

 嘲るような視線と共に右手を夜空に掲げたラースは、5本の指をカッと開いた。
 星空の煌めきが薄れて行き、深淵の闇が周囲に立ちこめていく――。

「"本当の姿になった時に殺してやる"って、たしか言ったよなぁ?」

「覚えてるさ!"ジジイからDQN"に変わるのはビビったが、大して強くないらしい!!!」

 征夜は暴言混じりの去勢を張るが、ラースの実力は想像以上だった。
 だが、それでも勝てる筈なのだ。辛い修行を乗り越えて、自分は成長した。その自信が、彼を勇気付けている。

「さっさと来い!お前なんかに、俺が負ける筈がない!!!」

 征夜は再び力強く叫び、宿敵を牽制する。
 自分の中にある恐れや迷いを振り払う為にも、強気な姿勢を崩す訳にはいかないのだ。

 だがラースは彼の宣誓を歯牙にもかけずに、目線を別の方向に向けた――。

「何を勘違いしてるんだ?今の俺に、お前の相手をする気はない!!!」

「なにっ!?」

 嫌な予感が脳裏によぎる。奴は今、何を見ているのか。その視線を追っていくと、予感は的中していた。

「花ぁ!逃げろぉッ!!!」

「え?・・・きゃあぁっ!!!」

 黄金の鎖が地中から出現し、花の足に纏わりついた。
 足を取られて倒れ込んだ彼女の体を締め付けるように、新たな鎖が纏わりつく。

「く・・・くは・・・!く、苦し・・・!」

「嬉しいか?なら、もっと締め付けてやろう。」

「ぐあ"ぁ"ぁ"ぁぁぁぁぁッッッッッッッ!!!!!!!」

 胸と腹に絡み付いた鎖によって、花は肋骨と内臓を締め付けられる。
 足先が宙に浮き上がるほど持ち上げられ、自分の骨が軋む音が聞こえて来るようだ。

 苦痛に顔を歪めて、涙を流してしまう花。
 そんな物を見せられて、征夜が激昂しない筈がない。

「花は関係ないだろうがぁ!俺とお前の戦いに、彼女を巻き込むな!!!」

「俺はなぁ、無防備な女を弄ぶのが、何よりも好きなんだ。
 絶望の叫びを上げながらも抵抗できない姿に、興奮するんでね。」

「ふざけるなぁッ!!!」

 跳び上がって切りかかる征夜を簡単にあしらい、ラースは悪辣な笑みを浮かべる。
 握りしめるような動作を行う事で、花を更に締め上げているようだ。

 そんな中、彼は何かを思い付いたかのように、花を握りしめる魔力の鎖を緩めた。
 そして愉悦に満ちた嘲笑を浮かべながら、一つの提案をする――。



「楠木花よ。そんな男と別れて、俺のペットにならないか?」

~~~~~~~~~~

「な、何・・・言って・・・!」

 花は苦しそうに息を途切れさせながら、反抗的な目線を向ける。そんな提案、受け入れる筈が無いのだ。

「お前は良い女だ。悪いようにはしないさ。
 俺の城に住まわせて、タップリと可愛がってやる。」

「アンタ・・・なんて・・・死んでも・・・お断り・・・よ・・・!ひぐうぅぅ・・・!!!」

 否定の言葉を遮るかのように、ラースは彼女を力強く締め上げた。
 呼吸が妨げられるほどの圧力で、今にも破裂しそうになる。

「なるほど。彼氏が自分を好きなのか、最近では不安なのか。・・・だそうだぞ!吹雪征夜!」

「なっ!?なんで・・・そんな事を・・・!」

 花は驚愕した。自分の心の内が、完璧に見透かされているのだ。
 知られたくない事を、最も知られたくない相手に喋られた。その恥ずかしさと悔しさで、心が痛くなって来る――。

「俺の能力は、人間の記憶にも干渉できる。
 お前の名前はもちろん、好きな下着の柄まで知る事が出来る。今履いているのは、黒の」

「いい加減にしろッッッ!!!!!」

 征夜は叫んだ。恋人の心を覗かれて、プライバシーを暴露される。そんな辱めを許す筈がない。
 爆発した怒りが視界を歪め、世界を赤く染め上げていく。理性の糸が脳内でブチブチと千切れ飛び、殺意と破壊欲が思考を支配する。

「よくも・・・よくも花を!辱めてくれたなぁッ!!!絶対に許さんぞ貴様ぁッ!!!」

「おぉ、怖い怖い。負け犬であっても、遠吠えだけはデカくて困る。
 まぁ良いさ。反抗的な女には飽きて来たところだ。・・・これで、心置きなく殺せる!」

 ラースは再び、膨大な量の魔力を溜め始めた。光線の形に練り上げられた魔力は、拘束されたままの花へと向けられる――。

「俺に逆らった事を!あの世で後悔するが良い!!!死ねぇッ!楠木花ぁッ!!!」

「させるかぁぁぁッッッッッ!!!!!」

 放たれた光線は花の胸に直行した。だが、それを遮るようにして、征夜が間に割って入る。

 彼は全身全霊で念じた。
 彼女を守りたい。彼女を守る盾になりたい。だから、陳腐な魔法に破壊されないような、"絶対的な守り"が欲しいと。





<<<絶対防御の盾パーフェクトイージス!!!>>>

「何ぃっ!?」

 何処からともなく響き渡った呪文が、暗闇に木霊する。
 その直後、征夜の目前に巨大な盾が形成された。ラースの放った光線を完璧に遮断し、二人を守っている。

 自分の攻撃を防がれたラースは驚いて声を上げた。
 声のした方向を見ると、そこには一人の少女が居る――。

「・・・ミサラ!?」

「どいてください少将!!!」

 ラースに向けて杖を構えたミサラは、征夜を押しのけて新たな呪文を放つ。

<<<飛翔する真紅の翼竜クリムゾンワイバーン!!!>>>

 杖の先から取び出した炎が、巨大な竜の形に変化した。
 バサバサと翼を振り回しながら、爪と牙で猛撃を加える。

「な、何だぁッ!コイツはぁッ!!!」

 平静を保てなくなったラースは、突如として現れた炎の竜から逃れようとする。
 ところが、すぐに捕まってしまい。灼熱の炎で身を焼かれてしまう。

「ぐぉ”ぉ”ぉ”ぉ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ッッッ!!!!!」

 爪で掴まれ、牙で噛み付かれ、炎の息吹を浴びせられる。
 結界で保護されているので、死ぬ事は無い。だが、微塵も動けないのだ。

 そんな彼に対し、ミサラは壮絶な追撃を放つ。
 一切の容赦もなく、ただひたすらに相手を殲滅する事に徹している。

<<<煌めく雷ディザスター光の裁きジャッジメント!!!>>>

 夜空に黄金の光が迸り、星の海から一筋の光が落ちて来た。
 稲妻の柱が天空の雲を裂き、空前絶後の一撃がラースに直撃する――。

「お”ぉ”ぐぉ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ッッッッッ!!!!!!」

 まだ、息の根を止めれていない。
 それを確認したミサラは、新たな呪文を放つ事を試みる。

<<<て、テレポート!!!>>>

 これ以上の攻撃をされては死ぬと判断したラースは、瞬間移動で撤退した。
 ミサラは心を鎮めて、溜め込んだ魔力を減退させる。

「え、えぇっと・・・ミサラ?」

「ミサラ・・・ちゃん?」

 まるで別人の如き戦闘力を見せた彼女に、二人は困惑した。
 その顔は、自信と達成感から来る笑みで溢れている。
 
「新しい杖、最高です・・・!」

 ミサラはウットリとした表情で、握りしめた漆黒の杖を天に掲げて見せた。

――――――――――――――――――――

※実は今回だけでなく、次回も展開が大きく異なります。
次回以降のストーリーも変化させる☆回は、横に↓矢印を付ける事にします。
ストーリー分岐が終わった時点で、↑矢印を付けます。
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