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第四章 マリオネット教団編(花視点)
EP108 質問 <♡>
しおりを挟む「へぇ!年齢は17か、若いなぁ!ここに住んでるの?」
シンは順調に会話を続け、シチューを摂取する事を回避し続けていた。
「いえ、ここには任務のために来ました。」
「そう言えばさっき、大佐がどうこう言ってたけど、軍属なの?」
「軍・・・と言えばそうなるでしょうが、正確には組織ですね。
尤も、大佐と私は裏切る気でいますが・・・。」
「何でだ?悪い暮らしには見えないが。」
シンは少女の身なりが整っている事から、生活に困窮していない事を感じ取った。
尤も、17歳と言う年齢で、軍に相当する組織に所属している事自体が異常なのだが。
「大きな声では話せませんが、私たちの組織はかなり危険です・・・。」
「例えばどんな?」
「生物兵器を開発し、この世界を支配しようと画策しています・・・。
シャノン付近に現れた"巨大な海竜"も、その一つです。」
ガシャンッ!
シンは驚きのあまり、手に持っていたコップを取り落としてしまった。
~~~~~~~~~~~~
「マスターウェーブは、お前たちが開発した兵器だったのか!」
「ち、違います!私は制作に一切携わっていません!!!本当です!」
ミサラは急いで弁解したが、シンの怒りはこんな事では収まらない。
「そもそも、お前は何でそんな組織に入ったんだ!
お前たちのせいで、一体どれだけの人間が死んだと思ってるんだ!!!」
"前科数犯の暴走族総長"が言えたセリフでは無い。
「生きるためには入るしか無かったんです!
大佐だって、最初からこの組織を潰すつもりで入ったので、決して悪人ではありません!」
「・・・その目だと、嘘はついてなさそうだな。
分かった、お前を信じよう。ただし、知っている事を全て話してもらおうか。」
シンは高圧的な態度のまま、ミサラへの尋問を再開する。
彼女は心を落ち着ける為に、大きく深呼吸した。
その後にポツポツと、事のあらましを語り始めた。
「え、えと・・・取り敢えず、ここに来たのは"灼炎竜・マスターブレイズ"を配置するためです。
と言っても、当初の予定では、もっと遠くの島に配置する予定だったんです・・・。
数日前に、"教団"の所有する港に補給のために立ち寄ったら、手違いで檻を解放してしまって・・・う、うぅっ・・・。」
そこまで言うと、ミサラは急に泣き出した。
シンは一瞬、嘘泣きを疑ったが、そうでは無いらしい。
「私以外は・・・みんな死んじゃって・・・。
私、殺されそうになったんです・・・。でも、その時に来てくれたんです!大佐が!」
そこまで言うと、ミサラは急に晴れやかな顔になった。
当時の事を思い出すと、嬉しくなるようだ。
「嘘だろ・・・。まだ、あんなヤベェのが他にいるのか・・・。
と言う事はお前と大佐?が知り合ったのは数日前なのか。」
シンはその名前から瞬時に、破海竜と灼炎竜が同じような存在であると悟った。
「はい・・・。私を助けた後、大佐はすぐに灼炎龍を倒しに行かれました。
たしか、"僕が1番、アイツを倒すのに向いてる"って、言ってました・・・。
今夜、ここに集まる予定だったのですが、来なかった場合は明朝に別の場所で落ち合う事になっているんです・・・。」
心配そうな顔になったミサラを横目に、シンは新たな疑問をぶつけた。
「"大佐"なのに一人称は”僕”なのか・・・名前はなんて言うんだ?」
「フリーズ大佐です。
荷物だけ私に預けて、刀1本とズボンで灼炎龍に立ち向かって行きました・・・。」
「・・・え?ソイツ、半裸で戦いに行ったのか?」
「はい。大佐曰く、”大切な物だから燃やしたく無い”との事です。」
「こんな大雪で大丈夫かねぇ・・・?」
「大佐なら大丈夫ですよ!だって、大佐なんですから!」
ミサラは根拠のない自信を、淀みなく言い切った。
その顔に心配の色は一切なく、絶対の信頼を寄せているようだ。
「お、おう・・・。」
「取り敢えず、明日には私はこの家を出ます。
ここは社宅なので、すぐに次の人が来るかもしれません。早めに移った方が良いかと思います。
あなたに貸す服が無くて申し訳ないのですが、近くに小さな村があるので、そこに行けば買えると思います。」
「たしかに、海パン一丁だしなぁ・・・。」
シンは豪雪の中の小屋で、乾かした海パン姿でシチューを食べるという、シュールすぎる光景に今更ながら首を傾げた。
「あの方に貸した服は・・・仕方ありませんね・・・。
大佐には私から謝っておきます。そのまま持って行って構いません。」
「そ、そうか・・・悪いな・・・。」
シンは、花がどんな服を貸されたのか知らなかった。
まさか"フリーズ大佐"の師匠が丹精を込めて作った、一品物の袴だとは想像も付かなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。大佐はとっても優しい方なんです!」
「へぇ・・・続きはトランプしながら話すか。」
「そうですね、まだ7時ですし。」
「よっしゃ!負けねぇ!」
シンは食卓から逃げるように、トランプをシャッフルし始めた。
~~~~~~~~~~~~
「て事は、俺たちは1週間も砂浜で伸びてたのか・・・だっせぇ!!!」
シンたちはその後、無心で大富豪をやり続けた。
二人しかいないので相手の手札が容易に分かる、ひたすらにつまらない――。
「フフフ、お寝坊さんですね♪」
ミサラの小悪魔としか言いようの無い声に、シンは蕩かされそうになる。
「何か、変な魔法かけられたんだよなぁ・・・そのせいかな?」
「そうかもしれませんね・・・上がりっ!」
「またお前の勝ちかぁ・・・なんか、盛り上がらねぇなぁ・・・。」
シンは珍しく、連敗に連敗を重ねていた。”勝ちたいと言う欲”が湧いてこないのだ。
「そろそろやめにしますか?」
ミサラは優しく笑うとトランプを中断しようとした。
シンは名残惜しくも、それを承諾しようとする。
しかしその時、シンに天啓が降りる――。
「お前、組織を裏切るなら、金がいるんじゃねぇか?」
「たしかに、今のままだと金欠ですね・・・。」
(よし、行ける!)
「じゃあ、賭博ポーカーやるか!」
「う~ん・・・それ、危ない奴じゃ・・・。」
「大丈夫だって!別に負けても地下帝国送りにはしないから!」
「え!?負けると地下に送られるんですか!?」
ミサラは純粋にも、それを信じたようだ。完全に青ざめている。
「鉄骨を渡るのもありだけど、やめといた方が・・・。」
シンは悪ノリしたくなった。
「嫌です!やりません!」
「嘘だって!まぁ、取り敢えず持ってる金出してよ。」
「こ、これだけですね・・・。」
ミサラはポケットから、2枚の金貨を出した。日本円で言うなら二万円である。
「じゃあ、これ前金な!」
(後で返してもらうけど。)
ズシャン!
重たい金属音がシンの手先から響く。どうやら、黄金の魔術師は真の力を取り戻したようだ。
「・・・え?」
「50ファルゴだ。数えてみても良いぞ。」
「う、嘘・・・本当にある・・・。」
「どうする?やるか?負けても、別に借金を負わせる気は無いぞ!」
「わ、分かりました!やります!」
(勝ったな。)
限りなく卑怯な話だが、シンは弾がほぼ無限にある。
即ち、ミサラが負けるまで賭け続ければ、確実に勝てるのだ。
「これ、50ファルゴが無くなったら、どうなるんですか・・・?」
「借金にはしないから安心しろって!」
(その瞬間から、"脱衣ポーカー"に変わるけど。)
「わ、わかりました!やってみます!」
純粋なミサラは、力強く意気込んだ。
「よし!その意気だ!」
(まぁ、勝っても金はあげるけどな。何か可哀想だし。)
悪い奴なのか良い奴なのか、よく分からない男だ。
ともあれ、シンが圧倒的に有利な状態で、賭博ポーカーは始まった。
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