『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP161 脱出

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「めぼしい物あった?」

 書類棚を漁り終えた征夜は、ミサラに尋ねた。
 結構な量の書類が入っていたが、大半は事務連絡に関する物であった。
 各地にある支部の予算や、新規雇用した団員の履歴書など、重要度が低い物が多い。

「こっちもビジネスに関する本とか、話術や帝王学の書物だけです。・・・あれ?奥に何かある・・・。」

 膨大な量の本が収められた棚を探っていたミサラは、ギッシリと並べられた本の奥に、何かが隠されている事に気が付いた。
 手前の本を払い除けて、隠すように守られたその本を引っ張り出していく。

「これは・・・日記でしょうか?」

「その日記は奴の物だと思う。・・・取り敢えず、それは外で読もう。そろそろ引き上げ時だ。」

「たしかに、そろそろ会議が終わる頃ですね。」

 ミサラと征夜は、早急にこの場所を脱するべきだという見解で一致した。

 ミサラはともかく、征夜はお尋ね者の身であり、一般団員には分からなくても、サーイン及びラドックスなら間違いなく気付く。
 何はともあれ、ラドックス暗殺を狙う中で、彼らと鉢合わせするのはまずいだろう。

 二人は慎重な足取りで歩み出し、暗くジメジメとした教団のアジトを抜け出した。

~~~~~~~~~~

 アジトを抜けると、時刻は正午を回ったところだった。
 照り付ける日差しが密林を温め、木漏れ日の作り出す温和な景色が、視界を優しく包み込む。

「船出には丁度いい天気だね!」

「風も強くないし、島を出るなら今ですね!」

 二人の見解は一致していたようだ。
 この島で出来る事は、すべてやり尽くした。アジトでの捜査は終わらせたし、教祖の暗殺は不可能だと分かった。
 出来る事がほかに無いのなら、この島に居る意味も無い。むしろ、やるべき事は全て、大陸の中にあると分かったのだ。

「アジトに忍び込んで、書斎を調べるような人物・・・。
 それはきっと、教団を潰そうとしている人に違いない!」

「まずはその人たちと合流し、保護する必要が有りますね!」

「あぁ!きっと助けを求めているはずだ!」

 二人の旅の方針は、アジトに侵入した二人組と合流する事に決定した。
 しかしそこで、征夜は思い出した。自分には他にも、大切な目的が有る事に。

「・・・あぁっ!!!」

「うわっ!?どうされましたか!?」

「ソントに帰らないと!約束に間に合わない!!!」

 既に、花達と交わした再会までの日数が、3週間を切っている。
 この島からソントまで、果たして3週間で到達できるだろうか。それは、かなり怪しいだろう。

「お仲間さんですか?」

「あぁ!ソントに帰らないと!どうにかして間に合わせたいけど、何か方法はあるかな!?」

 征夜は正直、かなり焦っていた。
 約束の日に間に合わなければ、花は自分を死んだと思うだろう。
 そうなってしまうと、再会の確率は限りなく低くなる。

「3週間でソント・・・では、こうしませんか?
 私が大佐に、”身体強化魔法”をかけます。そして、大佐が私を抱えて走るんです。」

「なるほど身体強化・・・たしかにそれなら、馬では通れない場所を生身で抜けられる・・・。大幅なショートカットが可能だ・・・!」

「はい!その通りです!ただ、これは”赤魔法”なので、途中で源魔力を補給する必要が有ります・・・。
 教団本部にある魔法陣なら、それが可能です。ですから、一度オルゼを経由していきましょう。」

「分かった!君に従うよ!」

 征夜には”源魔力”という言葉がよく分からなかった。
 しかし、赤魔法には本人の魂を用いるという事が分かっているので、そう言った類の物であると解釈した。

「まずは船だ!桟橋に行こう!」

 征夜はミサラと共に、港へ向かって駆けだした。

~~~~~~~~~~

 欝蒼と茂るジャングルを抜けると、石段の回廊が見えて来た。
 その奥には青く広大な海が広がっており、手前には焼き尽くされた港町がある。

「ここは・・・大佐が私を助けてくれた・・・。」

「あぁ、あの港だ。この近くには、僕が借りた小舟が残ってる。それに乗って大陸に戻ろ・・・・・・ん?」

「どうされましたか?」

 征夜は突然、遠方に目を向けたまま静止した。
 その視線は一手に集約し、何かを見つめている。

「アレは・・・”アラン”さん!?」

 征夜は思わず目を疑った。
 波打ち際に佇んでいる薄着の男が、師の親友である中年に見えたのだ。

 そして、それは当たっていた。

「アランさ~ん!!!」

「ん?・・・おぉ、スケマサの所にいた坊主か。」

 驚愕と共に駆け寄って来る征夜に対し、男は平静な返事をした。
 彼は確かにアランであり、右手に小さな水晶を抱えている。

「こんな所で何してるんですか!?」

「野暮用だな。お前は・・・教団の支部を調べに来たってところか?」

「え、えぇ・・・まぁ・・・。」

 あまりにも淡白なアランの反応に、征夜は調子を狂わされてしまう。
 まるで最初から、彼が来ることを分かっていたかのようだ。

「このあたりの海竜は、粗方片付いたらしいな。ここに来る途中で、一頭も出くわさなかった。」

「はい、大規模な掃討作戦が有ったらしくて・・・。」

「なるほどなぁ・・・なら、もうここには・・・いや、しかし・・・。」

「どうしました?」

「いや、何でもない。話す事が無いなら、一人にして欲しいのだが。」

「す、すいません!失礼します!」

 ここに居ては、アランの邪魔になると征夜は察した。
 久しぶりに会ったからと言って、積もる話があるわけでは無いのだ。ならば、これ以上ここに居る意味も無い。

「大佐、あの人は誰ですか?」

「ただの知り合いだよ、それより船を探さないと。」

「そうですね!」

 征夜は後ろに控えていたミサラと共に、再び自分の小舟を探す作業に戻った。

~~~~~~~~~~

 二人が居なくなった後、アランは右手に抱えた水晶玉に語り始めた。
 淡々と何かを報告するように、誰かと話している。

「こちらユニット3。本部か?」

「こちらユニット8451。本部です。」

「目標の所在は不明。
 おそらく、既に他の組織の手に渡ったと思われる。
 今後の動きについて、本部の指示を仰ぎたい。」

「・・・電話を代わった。ユニット2だ。アラン、どこの組織に渡ったのか分かるか?」

「分からん。だが、十中八九アブソリュートオリジンだろう。」

「・・・仕方がない。君は"選定の剣・・・・"の探索を頼む。それと同時に、"王の器"もな。」

「分かった。一度、本部に帰還する。」

 本部への報告を終えたアランは、水晶玉をポケットに仕舞い込んだ。
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