『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP162 迅速

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「へぇ!ここがシャノンかっ!」

「すごく賑わってますね!」

 小舟を使い、大陸へと舞い戻った征夜とミサラは、対岸にあった港町・シャノンに来ていた。

「ヨットは返却してきたよ。店主さん、完全に僕が死んだと思ってたらしい。」

 思い返せば、破海竜との戦いは相当ギリギリだった。
 一歩間違えば死んでいたような戦いを乗り越えて、今ここに立っている事は、ある意味で奇跡だ。

 そんな彼の達成感を助長させるのは、周囲の人々の陽気な立ち振る舞いだ。
 多くの人が大声で歌い、踊りながら酒を浴びている。まるで、何かを祝うかのようだ。

「皆さん、すごくご機嫌なんですね!」

 民衆の空気に釣られて、自分も嬉しくなってきた征夜は、上機嫌に質問した。
 すると、漁師と思わしき大男が、酒に酔った調子で返事をする。

「お前さん、あの島から来たんだろ!」

「はい、そうですよ。」

「こんなに嬉しい事は無い!だって、ここに来るまで海竜に襲われなかったって事だろ!?」

「あぁ!確かにそうですね!」

 言われてみれば、ミサラと共に抜けてきた海路には、一頭の海竜もいなかった。
 行きでは、数十の海竜に取り囲まれた事を考えると、かなりの違いである。

「これも全部、海兵と"サム"のおかげさ!まぁ・・・サムは帰ってこなかったが・・・。」

「お悔やみ・・・申し上げます・・・。」

 話の流れから察するに、おそらく"サム"は英雄の名前なのだろう。
 征夜の中には、その英雄の容姿がいくつも浮かんできた。

(キザな人だろうか?それとも、大男だろうか?いや、もしかしたら、弱そうに見えて強いタイプかも・・・。)

 様々な姿を想像するが、そのどれもが強そうに見える。
 やはり、これほどの大男に崇拝されるような存在なら、かなりの気概を持った男なのだろう。

(会ってみたかったなぁ・・・サムさん・・・。)



 一方その頃、"当の本人"はと言うと――。

「雷夜様ぁっ!僕、パンケーキ食べたい!」

「今朝食べたではありませんか。」

「やだ~ッ!パンケーキが良い!!!」

「まぁ、そんなに言うなら良いでしょう・・・。」

「やったぁっ!」

 幼少期特有のワガママを、保護者に向けて爆発させていた。

~~~~~~~~~~

「買う物は全部買ったよね?」

「はい!これだけ買えば大丈夫なはず!」

「身体強化の魔法だっけ?君が僕にソレをかけて、僕が君を抱えて走るんだよね?」

「はい!間違いなく、馬で移動するより早いです!」

 ミサラの自信は相当な物だ。それに対して、征夜の方は些か不安である。

(魔法一つで、そんなに変わる物だろうか・・・?)

 花たちは恐らく、馬に乗っている。それが征夜の予想だった。
 走る馬に追い付くことは、短距離ならば可能だ。数キロを並走するくらいなら、今の彼なら難なくこなせる。

 実際はユニコーンに乗っているわけだが、そんな事は誤差である。
 問題は、彼のスタミナはあくまで人間であると言う点だ。どれだけ速く走れても、バテてしまっては意味がない。

「君を抱えて走っても、本当に追い付けるのかい?」

「勿論です!信じてください!」

「わ、分かった・・・頼んだよ・・・。」

 征夜は結局、ミサラを信用する事が出来なかった。
 いくら魔法とは言え、そう簡単に人間を超えた力を得られる訳がない。そういった考えが、殻の中に渦巻いでいたのだ。



 結論から言うと征夜は魔法を、もっと言えばミサラを見くびっていた――。

「お姫様抱っこしてください!」

「うん、分かった。」

 美少女からの要請に、普通なら臆するはずの場面だが、征夜は何事もなく応じた。
 度胸があるわけでも、ミサラの事が好きな訳でもない。ただ単に、"興味が無い"だけなのだ。

 だが、そんな事とは知らないミサラは、大きく興奮したようである。

「やったぁ!私、張り切っちゃいますよ!」

「うん・・・?」

 なぜ張り切るのか、何故喜んでいるのか、征夜には分からなかった。
 ミサラの事は友人だと思ってはいるが、微塵も"恋愛対象"とは思っていない。

 彼にとってこれは、"花に会うための必要事項"に過ぎないのだ――。

<<<リミットオーバー・ハイパーブースト>>>

 征夜の腕に抱えられたミサラは、ゆっくりと赤魔法を唱えた。
 自らの魂に込められた源魔力を消費して、限界を超えた力を解放する魔法。そしてそれを、征夜の身体に集約させる。

「OKです・・・!走ってみて・・・ください・・・!」

「う、うん・・・大丈夫かい?」

「だ、大丈夫・・・です!」

 ミサラは少しだけ、息が上がっている。
 それもそのはずだ。赤魔法は、魂を喰らう技。長時間使用すれば、死亡する者も多い。

 それでも彼女は、征夜のために使用した。
 彼ならば短期間で、オルゼに到着してくれると信じているからだ。

(あんまり、変わってる気がしないけど・・・それよりも、ミサラは大丈夫かな・・・。)

 流石の征夜も、ミサラが心配になった。
 だが、せっかく掛けてくれた魔法を、無駄には出来ない。彼は半信半疑のままで、走り出す事にした。

「すぅ~・・・!はぁ~・・・!よし!1・・・2の・・・さ」



 数えるより先に、体が動き出した。いや、それは違うかも知れない。
 脳の信号が声帯より先に、足に伝わったのだろう。だから彼の中では、自分は3を言い終えた事になっている。

 そんな事はどうでも良い。何よりも重要なのは――。

(は・・・は、速すぎぃぃぃぃぃッッッッッ!!!!!!)

 もはや、口も開く事が出来ない速度で、彼の体は疾走していた。開けば恐らく、顔の皮が口から剥がれ、頭蓋骨を晒す事になるだろう。

 人間の限界を遥かに超えて、新幹線や飛行機でも及ばない速度で、彼は走り出していたのだ。
 空気摩擦で体が焼けないのは、ミサラの魔法のおかげだろう。もし無ければ、彼はとっくに死んでいる。

 体の疲労は一切なく、世界が後方に置き去られる光景だけが、眼球に映り込んでいる。
 今の彼に出来るのは、ただ足を動かす事だけである。

(よし!いけるぞ!間に合うッ!!!)

 幸いな事に、反射神経も強化されているようだ。
 この速度で走っていても、難なく木々を避ける事が出来る。この調子なら、密林を分け入って進む事も可能だろう。

 その後も征夜は、ただ無心で草原を駆け抜けた――。

~~~~~~~~~~

「ウフフ♪もうすぐ征夜に会えるわね♪」

「あぁ、やっとだ・・・マジ疲れたぁ・・・。」

 ペットのユニコーン、"サンダーランス"に跨った2人は、凄まじい速度でソントに向けて進んでいた。
 その旅路は、往路ほど険しい物ではないらしい。少なくとも、言葉を交わす余裕はある。

「なんか、お前といると疲れるんだよなぁ・・・。」

「あら、失礼しちゃうわ。」

「とりま、アイツと合流できるのが待ち遠しいよ・・・。」

 二人旅は、思ったほど楽しい物ではなかったらしい。
 仲が悪いわけではないが、友達という関係でもない。二人の距離感は、そんなところである。

「それにしてもコイツ、角が光ってるおかげなのか、めっちゃ足速くなったよな。」

「エレメントホーンだっけ?それが光ると、能力が向上するらしいわね。」

「なんか、光ると強くなるのってアレみたいだよな。ユニコーンガン、おわぁっ!?」

「きゃあっ!!!」

ドオォォォォォンッッッ!!!バリバリバリッッッ!!!

 花とシンの他愛もない会話は、突如として遮られた。
 彼らの真横を掠めた"何か"が、乗っているユニコーンを驚かせ、歩みを止めたのだ。
 轟音を辺りに響かせながら進む"何か"は、青白い閃光を纏いながら、地平線の彼方へと消えた。

「何だ・・・?今の・・・。」

「何かしらね・・・?バリバリ言ってたし・・・雷・・・?」

ヒヒィンッ!ヒヒンッ!

「よしよし、大丈夫よ。怖かったわねぇ・・・。」

 花は、パニックに陥ったサランを宥めると、遠い目をして言った。

「あれ・・・征夜じゃない?」

「・・・は?何言ってんだお前?暑さでおかしくなったか?」

「いや、なんとなくそんな気がして・・・。」

「アホなこと言ってないで、先に進むぞ。」

「う、うん・・・。」

 シンに急かされた花は、少し不思議な感覚を心に留めたまま、再びユニコーンを走らせた。
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