『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第八章 魔人決戦篇

EP209 夜明けを求めて <☆>

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 アレから、数日が経った。
 ミサラの張った結界により、村への襲撃は一切無い。
 だが、100人規模の大所帯となった村にとって、備蓄されていた食糧と水は少な過ぎた。

 英雄・双牙の閃刃の片割れ、吹雪征夜は謎の症状で昏睡に陥った後、眠り続けていた。
 しかし、英雄の目覚めを待つ余裕は既に、この村には無い。そう覚悟した三人は、夕暮れ時に作戦会議を始めた。

「攻めるなら、今しかありません!」

「お前がそう思う根拠は?」

「テレポートのリキャストです!」

「どう言う事なの?」

「セレアさんが言ってました!どんなに高位な悪魔でも、最短で2週間は再使用に必要だと!
 渓谷に残った魔力の痕跡から考えて、魔王はあの時テレポートを行なっています!
 テレポートがある限り、息の根を止めるのは不可能です!最低でも明日中に、奴を倒さないと!」

「でも、どうやって城に行くの?あんなに高いところに浮いてるのよ?」

「どうすっかなぁ・・・。」

 花の質問に、シンは良い案が浮かばない。
 あの高さも問題だが、雲海は既に怪魔の巣窟。空を飛べたとしても、城への突入は難しい。

「私に、乗ってください。」

「・・・本当に良いの?」

 薄々、花も気付いていた。
 ミサラが、征夜抜きでの過酷な防衛戦の中で覚醒した、"翼を生やす形態"。

 それならば、確かに空を飛べるかも知れない。

「重量的には大丈夫です。
 ただ、私の魔法が無いと、空中戦がキツいかも知れません。
 流石に、3人を運びながら魔法を放つのは無理です。」

「なら、先にバケモノを処理するしかないな。攻めるのを二回に分けるか?
 一回目で空をクリアリングして、二回目で城に乗り込む。」

 そんな中、扉の裏から微かな声が響く――。

「それじゃ・・・遅すぎる・・・。」

「征夜!起きたのね!?」

 昏睡を続けていた征夜が起きた事に、花は歓喜と驚愕の入り混じった表情を浮かべている。
 しかし征夜は、そんな花に少しだけ笑いかけると、すぐに本題に移った。

「攻めるなら・・・早い方が良い・・・奴はドンドン強くなってる・・・。」

「どうして、そう思うの?」

「ただの勘だよ・・・少なくとも、傷は癒してる筈・・・。」

 花を心配させない為に、征夜は夢の事は黙っておく事にした。
 決戦を控えた大事な時に、自分の見た変な夢の事など話しては、周囲を混乱させるだけだ。

「確かに、お前の言う通りだな。」

「ただ、敵は少ない方が良い。一回で攻めるとしても、誰かが敵の注意を引くしかない・・・。」

「どうする?ミサラを抜いた俺たちの中で、地上に残る奴を決めねぇと。」

「私たちの誰かが・・・誰が良いかな・・。」

 4人は互いを見つめ合いながら、思考を停止させてしまった。
 この中の誰が欠けても、ラースには勝てない気がする。だからこそ、この選択は慎重にすべきだ。

 だがそこに、3人の仲間以外の"第4の選択肢"が現れた――。

「わざわざ、アンタらが残る必要もねぇ!」

「え?」

 突如として響いた、力強い男の声。
 振り返ると、そこには大勢の村人と戦士が、笑みを浮かべながら立っていた。

「雑魚どもを引き付けりゃ良いんだろ!
 そのぐらい、俺たちでやれるぜ!なぁ!お前ら!」
「おうよ!任せろって話だ!」
「その通り!英雄たちが魔王を殺してくれんだ!俺らにも、手伝わせてくれよ!」

「ま、待って!陽動って事はつまり、ここに敵を集めるのよ!どれだけ危険か分かってるの!?
 ミサラちゃんの結界も剥がして、必要以上の騒音を立てて、上空と地上の悪魔が集まって」

「花、そんな事は分かってる筈だ。」

 征夜は村人と、戦士たちの覚悟を認めていた。
 しかし花には、どうにも納得出来ないらしい。

「他に選択肢が無い。なら、手伝ってもらうしかない。」

「でも!・・・・・・分かった。」

 花としても、村人の協力を得る以外に、良い方法が思い付かなかった。
 苦渋の決断だが、"犠牲"を強いるしかない。その覚悟を決めた四人は、作戦決行を明朝に決めた。

~~~~~~~~~~

「あれ~?おっかしいなぁ・・・。」

「どうしたの?」

 その晩、征夜たちは魔王・ラドックスとの戦いに向け、装備の点検をしていた。
 しかし、ある物が無くなってている。どこを探しても、それが見つからないのだ。

(まぁ・・・無くても大丈夫かな・・・。)
「いや、大丈夫。大した問題じゃないよ。」

「それなら良いんだけど。」

 花が少し心配そうに征夜を見つめていると、背後でドアの開く音がした。

「失礼します・・・。」

「あら?ミサラちゃん、どうしたの?」

「花さん・・・ちょっと良いですか?」

「良いけど、どうしたの?」

「戦いの前に、どうしても言わなくちゃいけない事があって・・・。」

「何の話?・・・あぁ、征夜が居ると言い辛い事なのね。なら、あなたの部屋で話しましょうか。」

「すみません・・・。」

 ミサラは花と、二人きりで話したい事があるようだ。
 その思いを汲み取った花は、征夜のそばを通り過ぎて、ミサラの部屋に入って行く。



 そして数分後、ミサラは泣きながら部屋を出て来た――。



「うわァァァァァんッッッ!!!!!」

「えっ!?なに!?どうした!?」

「泣かないのミサラちゃん、大丈夫よ。もう過ぎた事じゃない。私は怒ってないよ。」

 訳が分からない征夜をよそに、ミサラは子供のように泣きじゃくっている。
 そんな彼女を優しくあやす花は、まるで母親のようにも見える。

「うぞだぁッ!わだじのごど!ぎらいになっでッ!ぐずっ・・・ひぐっ・・・うわあァァァンッッッ!!!!!」

「よしよし・・・大丈夫、嫌いになってないよ。
 あなたは大切な友達だもん。だから安心してね、もう泣かないで。」

 花は肩を優しく叩きながら、過呼吸に陥っているミサラを手助けする。
 濁音混じりの声と鼻水、そして涎を垂らしている今の彼女に、普段の美少女の面影は感じられない。

「ほんどに!?わだじなんがをッ!ぐず・・・ひぐっ・・・!」

「そんな事、水に流しちゃおう?・・・ほら、おいで。一緒にお風呂入ろうよ。」

「はい"・・・ひぐっ・・・ぐずっ・・・!」

 あまり綺麗とは言えないミサラの顔を、花は征夜との間に入って覆い隠した。
 そして征夜の方を少し睨み、"目と口の動き"で合図を送る。

("何見てんだ"・・・すいません!)

 恐らく、そんな乱暴な口調ではない。
 だが、女性の崩れた顔を見るデリカシーの無さを咎めているのは分かる。

 その後、即座に優しい顔に戻った花は、再びミサラをあやす作業に戻った。

「一緒にお風呂入るの、久しぶりだね!カラオケしちゃう?」

「は、はい・・・やりまず・・・。」

「オッケー!負けないぞっ!」

 意気揚々と脱衣所に入って行った花と、後に着いて行くミサラ。
 衣擦れの音が二つ重なって聞こえた後、花の楽しそうな声が聞こえて来る。

「さてさて・・・ミサラちゃんの胸は大きくなったかな?・・・凄いじゃない!」

「ちょっとだけ・・・大きくなりました・・・!」

「いやいや!ちょっとじゃないよ!Dカップは有るよ!」

 征夜と出会った頃はBカップだった事を考えると、流石は成長期と言わざるを得ない。
 セレアと花がそれぞれ教えた、ヨガやマッサージ、サプリメントなども確実に効果があったようだ。

「花さんのは、やっぱり大きいですね・・・えいっ!」

「ひぁんッ♡だ、ダメッ♡おっぱい敏感なの・・・あんっ♡」

「乳首もピンク色で、柔らかくてハリも有って・・・良いなぁ・・・!」

「もう!ミサラちゃんのH♡」

(うわっ!)

 征夜は童貞な上に、かなり精神的に幼い面もある。だが、性欲は成人男性並み。
 自分の恋人が、扉一枚を隔てた先で裸を晒し、ナマ乳を揉まれているのだ。その事実に、興奮しない筈がない。

(ここに居るのはヤバいなり・・・。)

 理性が吹き飛ばされて、取り返しのつかない事をする前に、征夜は退散する事にした。

~~~~~~~~~~

 その後、装備の点検を終えた征夜は、他の3人から少し遅れて床に入った。
 天窓から差し込む月光が瞳に注がれ、心が洗われるような気分になる。

(明日で・・・全ての決着がつく・・・。)

 思い起こせば、この世界に来てからの日々は、全てが明日の為に有るのだと確信出来る。
 魔王を倒す為に花と出会い、シンを仲間にする途中でラースと戦い、奴を倒す為に修行を積み、教団に潜入してセレア、ミサラと出会った。

(本当に・・・勝てるのか・・・。)

 征夜はテセウスの眼術の反射で、強力な精神攻撃を受けた。そして、1週間近く昏睡する事になった。
 夢の内容が正しければ、テセウスはラースに修行を付けている。奴は以前より、格段に強くなっている筈なのだ。

「新しい瞳・・・支配を跳ね除ける力・・・一族に継がれる・・・。」

 資正、資正の師、トオル、この3人が眼術を持っていた事は確定している。
 だが、彼らは自分の血脈なのだろうか。もしそうなら、そこに新たな瞳のヒントが有るのだろうか。

「そもそも・・・僕の眼は本当に凶狼の瞳なのか・・・?
 いや・・・違うな。師匠も僕も、師匠の師匠も、東北の出身。なら、何処かで血が繋がっていても変じゃない。
 ・・・と言う事は、トオルさんが違うのか?」

 考えれば考え込むほど、思考が迷路に落ちて行く。
 思考を強引に途切れさせ、征夜は元の考察に頭を戻した。

 すると不思議な事に、"トオル"と"新しい瞳"が一つの線で繋がった――。

「赤・・・凶暴な瞳・・・。」

 修行仲間の肉体を食い千切り、惨殺したとトオル。
 それが瞳の力による物なら、自分が開眼する次の瞳はソレかも知れない。

「トオルさんのは・・・嫌だな・・・。」

 トオルの瞳が自分の眼術と同じ物かは分からないが、理性を失って人肉を食い荒らす怪物に成り果てるのは嫌だ。

「はぁ~・・・明日か・・・。」

 征夜は大きく溜息を吐き、ゆっくりと眠りに落ちて行った――。
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