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第九章 反逆の狼牙編

EP250 征夜班の旅路

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 征夜たちの旅路は、まだまだ続く。
 征夜は"どうせなら"と思い、ルル以外のメンバーにも語り掛け、親睦を深めようとする。

「そう言えば、兵五郎の能力って何だっけ?」

「あれ?言いませんでしたか?」

「操縦が自由になる・・・だっけ?」

「あぁ、少しアバウト過ぎましたね。」

 兵五郎は「失礼しました」と言わんばかりに、ペコリと頭を下げた。
 同じ班のメンバーの中で、花を除くと彼だけが征夜に敬意を表している。

 彼は興奮と期待の入り混じった感情で、彼の能力の開示を待った。

(どんなに凄い能力なんだ!?一瞬で旋回するとか!?それとも、全方位が見えるとか!?もしかしたら、どこでも戦闘機を出せるとか!?)

 rebellion wolf隊の中でも、兵五郎は一人だけ"格の違うオーラ"を持っていた。
 戦闘力だけに留まらず、人間としての品格が明らかに上。そんな彼の能力に期待するのは、当然の事であった。

「"G無効"です。」

「・・・えと、どう言う事?」

 思っていたより、アッサリとした答えが返って来て、征夜は困惑した。
 もっと長々と、難しいが強力な能力を持っているのかと思っていたが、彼の能力は至ってシンプルだ。

「詳しくは私にも分かりませんが、特定条件下で体にGが掛からなくなります。」

「それで・・・操縦が自由に?」

「はい、これは凄い能力ですよ・・・!感覚が全然違います・・・!」

 征夜が想像していた能力とは、ベクトルが違う。
 地味と言いつつ、それは派手な能力と比較しての話であって、ここまで堅実かつ微弱な効果だとは思っていなかった。

(じ、地味だな・・・兵五郎って、あんまり強くないのかも?)

 パッと聞いて、強さが全く分からない彼の能力。
 それを、あたかも驚異的な能力であるかのように喜んでいる様子を見て、征夜は彼に対する期待を大きく下方修正した。

 だが後に、征夜はこの認識を"完全な誤り"であったとして、早々に改める事となる――。

~~~~~~~~~~

「エリスって、趣味とかあるの?」

「音楽を聞く。」

 無口で目が死んでいる美女、エリス。
 背中にライフルを背負い、腰に2丁の拳銃を携えた彼女は、征夜の唐突な問いかけに対し端的に回答した。

「へぇ!それで、その大きなヘッドホンなんだ!どんな音楽聞いてるの!?」

「・・・。」

 肩に引っ掛けた立派な黒いヘッドホンを指差して、征夜は明るい調子で質問する。
 だがエリスの表情は、「面倒臭い」の一言で簡単に表せるほど、拒絶の色で溢れていた。無論、返答は無い。

「あ、あの・・・どんな音楽を聴いてるのかなぁ・・・って。」

「貴方と私は音楽の趣味を教えるほど、仲が良くない。」

「えっ!?あ・・・いや・・・あの・・・。」

 コレに関しては、征夜にも否はある。
 いきなり話し掛けて、いきなりプライベートに踏み込むのは、中々にデリカシーが欠けている。
 同僚として親睦を深めるために、趣味の話をしたい。その考えは正しいが、あまりにも焦り過ぎた。

「これ以上、あなたと喋りたくない。話がしたいなら別の人にして。」

「は、はい・・・。」

 弾丸のような豪速球で吐き出されたエリスの言葉に穿たれ、征夜はタジタジと逃げて行った。

 だが、大いに傷付けられた征夜の影で、人知れず傷付いた者も居る――。

「あっ、しまった・・・せっかく話し掛けてくれたのに・・・。」

 一人残されたエリスはヘッドホンで耳を覆いながら、苦々しそうな表情を浮かべ、征夜の背を眺める。
 その視線には悔悟の念が漂い、何かを言いたそうに征夜の方へ手を伸ばしている。

「また、やってしまった・・・はぁ・・・。」

 シュンと肩を落とし、落胆と共に嘆息を吐いた彼女の姿は、誰にも見られていなかった。

~~~~~~~~~~

「残った一人は・・・アイツか・・・。」

 征夜の視線はアルスに向く。
 血色の悪そうな顔に、絶妙に似合っていない髪型、戦場に似合わぬ動き難い服装。
 その全てが、征夜には不快に思えた。彼が敵でない事は分かっているのだが、どうしても好きになれない。

 正に、"生理的に無理"と言う奴である。
 早い話が同族嫌悪、同じ"親の七光りで生きてきた男"を視界に入れるのが不快なのだ。

 だが、それでも仲間として最低限の親睦は深めておきたい。
 滲み出る嫌悪感、敵意、疑心を抑え、征夜は平静を装いながら、決死の覚悟で話し掛けた。

「おい、お前。」

「何の用だよ!話しかけんな!」

 斜めに構えたアルスも悪いが、征夜の口調も明らかに変だ。
 どれほど不快な相手であっても、これまでの征夜なら味方であれば真摯に接して来た。

 今の口調はお世辞にも丁寧とは言えず、嫌悪感と侮蔑の意識が隠し切れていない。
 仲間として認識するのを躊躇っているような、敬意を払うのを拒否しているような、そんな調子だ。

「何の用って・・・ただ、話をしようと思っただけだ。そんなに身構えるなよ。」

「先に喧嘩を吹っ掛けたのはお前だ!今更、何の用があるってんだ!」

「吹っ掛けたのはお前の方だろ。」

「手を出したお前が悪い!俺は悪くない!」

 会話は完全に平行線。
 ソッポを向いて黙り込んだアルスの心を開く力も、気力も征夜には残っていない。

(もう良いや、このバカは放っとこう・・・。)

 早々に見切りを付けた征夜は、その場からソソクサと去った。
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