桜色の女神 -S.A.K.U.R.A. Android records-

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第九話 ただひたすら震えて

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 サクラたちは明け方、移動を開始した。
 今日も特に何もなく、ただただ歩む散策に。
 この日、ジンはほとんど眠れていなかったが、戦いの日々の時は数週間も連続で眠ると死ぬような状況を経験した事もあり、一日だけ眠れなくても特に問題はなさそうだったが、目元だけは少し緊張したような強張りになっていた。

「眠れなかったの?」

 寝起きの開口一番、サクラはジンを心配した。

「・・・気にするな、昔ではいつもの事だった」

 ジンはそれだけしか答えなかった。



 サクラ達は、今度は工業区の方に移動していた。
 商業区とも、湖の方向とも違う、全く来ていない区域だった。
 これはクエルからの提案で、全員の為の補修パーツや原料が必要だと言ったからである。
 当然工業区は錆びた廃墟がただ広がっており、このような場所から無事に使用できるパーツや原料が見つかるのが容易に苦戦しそうだった。
 幸い、サクラ達全員は補給の機構が必要ないシステムだった為、燃料やエネルギー源の心配をする必要はなかった。

「ここって何だかイヤな感じだな・・・」

 サクラは顔を顰めた。
 商業区には楽しめそうな物が何かしらあり、自然に至っては感動していた。
 ここはただ雑然とガラクタが転がっているだけの場所であり、廃墟の錆びた金属製の壁が寂しげな感じを漂わせているのを、感じたからだろう。

「まあ、人間に必要な物を作るだけの場所だったからな。
 施設が現役で使えていたら、夜はまた違った感じで綺麗な風景が見れたんだがな」

 ジンも、ガラクタの選別をしながらサクラに同情するように答えた。

「電気が使えたらそんなにきれいなの?」

 やはり、興味を持ったようである。

「夜も人間がいたから、当然照明が必要なわけだ。
 その照明がかなりの数があったから、光の粒がかなり輝いていたな」

 ジンが工場の夜景を説明すると、クエルが突然自身の身体から細長いカメラのような物体を出した。

「プロジェクター機能でしか見れないが、そのデータならあるぞ」

 クエルが言うと、サクラは「見せて!」とすぐに懇願した。クエルは暗がりの壁に向けてプロジェクターの光を投影した。
 クエルのプロジェクターは、クエル自身が製造された時期より古い形式だったのか、映像にちらつきがあった。
 しかし、映された映像に、サクラは息を呑んだ。
 どこの工業地帯かわからないが、100m近くはあるであろう大煙突に、金属製のパイプが広範囲に渡って色んな方向に張り巡らされた無骨な施設が、それぞれに配置された照明が煌びやかに輝いて、人工的な風景とは思えない光景だった。
 ジンは当然、昔の記憶の中では、見た事があった。
 ジンは懐かしんでいたが、サクラはとにかく感激している。

「こんな寂しい場所がこんな感じだったの!?」

 思わず叫ぶサクラ。

「大体の工場はこんな感じだな。規模が大きい程、綺麗な感じがもっと強くなる」

 ジンは映像から目を離さず答えた。

「考えてみたら、イヤな感じなんて言っちゃだめだね。人がいたんでしょ?」

 サクラは独白を始めた。

「人がいたんなら、もちろん色んな事あったよね。何処にでも、思い出はあるんだ」

 サクラのこの独白に、もうジンはさして驚きもしなかった。
 余りにも人間然とした言葉を紡ぐサクラに、もう機械としての認識を全く持っておらず、本来ならこの違和感を持つべき意思の疎通を、安らぎと思うようになっていた。

「それならお前、クリスマスの風景とか見たらそんなにはしゃぐだけじゃ収まらないぞ」

 ジンは笑いながら言う。同時に、ジンはふと気づいた。自分が最後に笑ったのはいつの事なのか。
 停止する直前?
 それともサイボーグにされる直前?
 クローンとして生きて来た間にそんな事はあったのか?
 それとも太古の大戦の時に出会った仲間たちと談笑した時か?
 果ては人間でなくなる前なのか・・・?
 それとも人間だった頃、子供の頃が最後なのか・・・?

 いくら思い返しても、膨大な記憶を辿っても答えは見つからなかった。
 それぐらい笑っておらず、今笑って感覚を思い出した事を悟った。

「つくづく不思議なヤツだ」

 ジンがボソッと呟き、サクラは「何か言ったの?」と聞いたが、何でもない、と恥ずかしそうに押し黙った。



 数十分して、選別が終わった。やはりガラクタばかりで再利用出来そうな物はほとんどなかった。
 もうこれぐらいだろう、とサクラたちは廃墟から出て、また施設付近に戻ろうとしたその矢先だった。
 工業区と商業区の境界にあたる付近で、人が倒れているのを見つけた。

「え、人!?」

 サクラが叫んで、倒れている何かに駆け寄る。

「待てサクラ!そいつはDBA-01E、アザミだぞ!」

 クエルが叫んだ。ところが、

「倒れてるならほっとけないでしょ!」と、サクラは一蹴してアザミに近づき、抱き起した。
 アザミは起動停止しておらず、目は開いていたが、終始震えている。何かに怯えているようだった。

「何だ?全く戦意なしか?」

 遅れてジンとクエルも近づく。

「わかんない。ずっと震えてる。何かを怖がってるよ」

 サクラは安心させようと思ったのか、アザミを抱き寄せて強く抱きしめる。すると、
「ここから・・・、離れて・・・」

 震えながらアザミが言った。目に張り付いた恐怖が中々消えない。

「え、何かあるの?」

 サクラは慌てないように、優し気にアザミに聞き返した。

「気持ち悪い人形が、あなたを、・・・破壊しに来る」





 サクラ達は、アザミを商業区の外れまで運び、休ませた。
 家具屋だったのだろうか、ちょうどソファーやベッドなど、休むのに最適な家具がいくつかあり、金属製しかないものの休むのには充分と判断し、一度ここで休憩する事となった。
 アザミはまだ震えており、しかし目は瞑ったので、アザミの中のシステムがおそらくシステム内の自己修復を行っているのだろう。
 サクラがいくら呼びかけても全く答えなかった。

「こんなに震えて、一体何があったのよ・・・」

 サクラは項垂れた。

「クエル、コイツの型式番号は確か、DBA-01Eと言ったな。サクラと同系統なのか?」

 ジンの質問に、クエルは答えた。

「そうだ。ここにいないDBA-02C、ツバキとDBA-01E、アザミはアンドロイド開発計画で残された数少ないアンドロイドになる。その中でアザミは最も古いタイプだ。
 対人戦闘に特化していて、人間の精神に干渉するというロボット兵器の中でも最も異質な能力を与えられていた。
 おそらく感情機構の過敏反応、人間で言うところの感受性が強すぎてトラウマを受けた、と言ってもいいだろう」

 クエルの返答に、サクラは目を丸くした。自身と同系統と言う事は、人間で言うところの兄弟姉妹になる。
 言うなれば、アザミはサクラの姉の位置にあたる。

「姉・・・、お姉ちゃんって事?」

 サクラが呟いた。

「流石に理解が早いな。まあ、クエルの言う通りなら、そう言う事になるな」

 ジンも同意する。

「そしてDBA-02C、ツバキもお前の姉に位置するアンドロイドになる。
 人間の感覚で言うと、長女がアザミ、次女にツバキ、三女にサクラ、と言う事になるな。だがアザミをこのようにするのに、ツバキの能力では不可能だ」

 クエルが加えて説明するが、ここでジンは気になる事について聞いた。

「アザミが言ったよな、気持ち悪い人形って。・・・何かわかるか?」

 ジンの緊迫した雰囲気を察してか、クエルは少し黙ってから、慎重に答えた。

「この情報に関しては、厳重なプロテクトがかけられているから俺でもわからない。
 だが、該当する情報なのは間違いない。GA-Xの事だ」

「GA-X?」

 ジンが反芻する。すると突然アザミの震えが激しくなり、寝かせていたソファーの足がガタガタと音を立てた。

「え、ちょっと!どうしたの!?落ち着いて!?」

 サクラは叫ぶが、アザミは全く意に介さず極端に震えている。
 先程瞑っていた目がまた開いており、恐怖の表情が一層濃くなっている。

「ダメ・・・!ダメ!!アレの話はしないで!!」

 アザミは絶叫、廃墟内にアザミの声が木霊した。

「大丈夫だから、落ち着いて、お姉ちゃん!」

 サクラは形振り構わず、アザミを抑え込むように抱きしめた。
 すると、アザミは突然糸が切れたかのように全身が脱力し、急に大人しくなった。

「まさか・・・、落ち着かせたのか?」

 ジンの疑問に、クエルが答えた。

「今のはどういう原理でこういう結果になったかはわからないが、今ジンが言った事と捉えてもいいだろう。
 アザミは落ち着いて、完全に休眠モードに入った」

 クエルは機械らしく解析するが、その解析内容にジンは驚いた。

「俺は・・・、何を見ているんだ?」
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