16 / 27
第十五話 絵日記
しおりを挟むマスターの発言に、最も合点がいったのはジンだった。
7878年の時はジンは偶然にもメンテナンスで凍結しており、気付いた時には人間は誰一人存在していなかった。
しかし、その時は動物は存在していたが、その動物も突然姿を消すと言った謎の現象が起こり、ジンは突き止めようとしたが痕跡が残らない現象だった為判明しなかった。それでもジンが残り続けた理由。
ジンの表面組織で使われていた疑似皮膚は、感触が有機物の用だが、成分は無機物、完全な人工物であった為、ジンは現象に食われる事がなかった。
あくまでもそれからすぐに起動できなくなったのは、メンテナンスが中途半端な状態での再起動だったからである。
「随分上から目線なヤツだなあ、そんなに人間が嫌いか?」
攻撃しないと判断するやジンは構えを解くが、それでも警戒した表情を緩めなかった。
「嫌い?どういう思考だそれは?
我は機械であるから、そんな感情と呼べるような代物は持ち合わせていない」
マスターは悠長に、無表情に答えた。
特異な目がより一層無表情感が増している。
「我は知りたかったのだ。人間を滅ぼしたらこの環境はどう変わるのか。
時間はかかったものの、結果はこの星にとっては再生をもたらすには良いキッカケだったようだ。今知りたいのは、何故人間は思考を止めて、進化を捨てたのか。
ただそれだけだ」
この時、サクラはマスターの目が少し変わったのを見逃さなかった。
余りにも似つかわしくなく、遠くを見るような目。
「アザミよ、貴様も好きなようにするが良い」
突然マスターはアザミに話しかける。
アザミは気まずそうなのか怖いのか、少しびくついてサクラの後ろに再び隠れる。
「どのように行動し合うか、までは我も敢えて予測していない。
今のような状況も良し。そうしないと面白くないからな」
それだけ言うと、マスターは建物の影に吸い込まれるように浮遊し、姿を消した。
「何だったんだアイツは」
ジンは緊張を解いて座り込んだ。
「あれがマスター。サクラを襲撃するように命令して来た。
破壊に関しては好きなようにと言って、ツバキとオト・・・、アレは乗り気だった」
アザミは無表情ながら、少し影を落としたような表情になった。
どうにもオトギリソウの名前を口にしたくないようで、アレとわざわざ訂正した。
「ここに居続けるだけではまずいかもな。
ここは修理だけにして、後はとにかく移動するしかないな」
クエルの提案に、サクラたちはそれぞれ修復を終わらせ、工場棟を出た。
当面のいる場所に、ジンは居住区を提案した。
まだここは訪れていない。居住区に入ってから、工業区とはまた別種の寂しさを感じたサクラは、終始表情が暗かった。
「ここに人間がいっぱいいたのよね?」
サクラの問いに、ジンが答える。
「ああ、人間はこういう建造物を拠点にして生きていた。
色んな事もあっただろうよ、どんな人間が住んでいたかわからないが」
手近にあった民家だったであろう廃墟に足を歩める。
出入口の部品はこの百数十年でも無事だったのだろうか、普通に開ける事が出来た。しかし、内部は荒れに荒れていた。リビングと呼ばれる部屋に入ると、ここにも瓦礫やガラクタが散在している。
休むのには広さとして丁度良いとなったが、
「これ、何?」
アザミが何か紙のようなものを拾い上げた。
稚拙な絵が描かれ、丸みを帯びた文字が書かれている。
「それは絵日記だな。人間の子供が描いたヤツだと思う」
ジンは周囲のガラクタをどかしながら言う。
アザミの手にしたものに気を惹かれて、サクラも覗き込んだ。
人間がもしこれを見たら、とても子供が描いたとは思えない内容がその紙に繰り広げられていた。
母がいなくなり、父も姿を消して独り残された子供の思考、感情が無垢な描き方で刻まれている。
平和な時に見たらこの子供は精神的に不安定なのだろうか、で片付けられそうだが、事件の後に描かれたとなると、随分と意味が変わってくる。
絵の描かれた紙は7枚もあり、父に帰って来てほしい、と切に訴えた内容だった。その最後には、簡単ながら、こう書かれていた。
いつまでも、まってるね
この言葉を目にして、サクラは慟哭した。
何事かとジンとクエルは駆け寄る。
突然の事に、アザミはどうすればいいのかわからず固まっている。
サクラが落ち着き、休眠モードになるまで二時間もかかった。
「随分破壊力があるみたいだな、その絵日記」
ジンは一瞥するが、どうにもその絵日記を直接見る気になれず、全く触れようとしなかった。
「いくら感情豊かとは言え、サクラをここまで狼狽させるんだ、人間が見るにはちと刺激が強すぎるのかもな」
一方アザミはその絵日記をまだ見ていた。特に表情を変える事なく、ペラペラとめくっては紙を進めている。
「お前、よく読めるな・・・」
ジンは少し呆れ気味にアザミに問う。
「サクラが理解したなら、私も理解する」
アザミは相変わらず淡泊に返す。
「読んだらここに置いておけ。持ち出すなよ」
クエルが小言を付け加える。
これにアザミは意味がわからずきょとんとするが、また目線を紙に戻した。
「お前は・・・、これの意味わかったのか?」
ジンはおそるおそる聞いた。
クエルが余りにも人間臭く機械らしい事を言わなくなってきたのは理解していたが、クエルはまた更に、それを上回る事を言って来た。
「何となくなんだが、これを描いたのは人間の子供じゃないか?
ここにはわずかながらだ、成人男性と幼児の死体があった形跡がある。
そのような場所にあったのなら、置いておくべきだと思うが」
クエルは何の気なしに告げた。
ジンは特に何も返さなかったが、内心非常に驚いていた。
“人間の想い”を理解し始めた・・・?
しばらくすると、アザミにも変化が現れた。
サクラほどの反応ではないものの、絵を見ながら静かに泣いていた。
「わかった・・・、元の場所に、戻してあげるね」
声色に震えはないものの、アザミは涙を流しながら絵を元あった床、瓦礫に塞がらないよう、何か手で見えないコーティングを施してから置いた。
「動かなくなってからでも、お父さんに会えたんだから、良かったよね」
アザミはそう言って座っていたソファーに戻り、そのまま休眠モードに入り、目を閉じて寝息を立て始めた。
「・・・一体どんな内容なんだよ」
ジンはやはり気になって来たのか、アザミが置いた紙に近づき、その場で紙をめくり出した。しばらくして読み終えた後、泣く事はなかったがジンはとてつもなく空気が重くなるのを感じた。
周囲の空気ではなく、自分自身の空気にだった。
「・・・確かに、よかったな」
その一言だけ呟いて、ジンは紙を置いた。
「もう見ないのか?」
クエルの質問に、ジンは黙って頷いた。
これ以上は見るのに耐えられないと思ったからだった。
翌朝、サクラ達は廃墟を後にした。
昨晩の出来事にサクラは全員に少し恥ずかし気に謝るが、アザミも同じ気持ちになったからわかると言う事でサクラは少し安心した。
全員の意見一致で、ここにいるのは何か耐えられないものがあるのと、静かにさせようと言う、機械同士らしからぬ会話だった。
誰もいなくなった世界の風に揺られて、この廃墟はいつかなくなっても想いは残るだろう。
サクラは去り際に廃墟に向かって呟く。
「・・・忘れないよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
