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第十六話 憤怒
しおりを挟む居住区内を彷徨うサクラたち。
ただ、どうにも腑に落ちなかったのは、施設での襲撃以来、ツバキとオトギリソウからの襲撃が全くなく、いつ何が起こるかわからない状態が数日続いた事だった。
工業区でマスターが接触して来て以来、マスターの接触もなく、ただ日々が過ぎていた。
他にも、変化はあった。
嫌な変化であった。
施設での一戦以来、アザミの様子がおかしいのだ。
表情ではなく、身体のあちこちの表層にひび割れが走っており、顔にまでひび割れが現れた時には、もう誤魔化しが利かない程になっていた。
商業区の外れ、一たび歩けばサクラの気に入った湖に向かう方角の何らかの廃墟で、クエルはアザミの身体の解析を行っていた。だが、
「あの時お前の考えた事を理解して何も言わなかったが、損壊の放置までしろとは言わなかったぞ」
クエルは冷ややかに、アザミに告げた。
「ここまでくると、応急修理では不可能だ。
IRT-044のいる施設なら十分に設備は揃っているが、それ程の場所がこの辺りに見当たらない。どうする?」
アザミのひび割れに自身のマニピュレーターを翳して、火花を散らせながら修繕するクエルは、サクラに問う。
「・・・確かに、このままだとアザミの身体がもたないね。行くしかないよ」
サクラの顔が険しくなっている。
わざわざ襲ってくる連中の拠点に飛び込まなければならない状況になった事に、悔しそうな表情を噛み締めている。
「まあなっちまったもんは仕方ないだろう。
直しに行くってなったら、すぐにでも行こうぜ。
コイツの耐久力も相当にヤバそうだからな」
ジンはいつも通り、いざという時の為に体力を温存すべく、床で寝そべっていた。
アザミ自身も、ひび割れ以外にも異常を来しているらしく、何かをするにしても動作全てがぎこちなくなっていた。
施設で迎撃した際、周囲の対応力を信頼していた物の、自身の保全力の事まで考えていなかった行動だった。
着衣でごまかしていたのもあったが、胴体部分に大きな抉れがあり、ナノスキンでの自己修復でも不可能なレベルの損壊になっている。
このような状況になり、アザミの身体に異常が見られるようになってから、サクラは常に涙目でアザミにとにかく謝っていた。ただアザミはどう聞いても、サクラが何度も謝っても、「大丈夫」としか答えなかった。
「その場所はわかるのか?」
ジンの問いに、クエルは自身のカメラアイから立体映像を投影した。
立体とは言え、地図になっていてほとんど平面だが、幾分か詳細な内容が描かれた地図だった。
「サクラが眠っていた施設より、少し離れている。今いる現在地よりも離れているから、この状態での移動は日数がかかるだろう。だが、妨害さえなければアザミの起動停止直前までには間に合う」
クエルは丁寧にも、レーザーポインタで行先を示した。
どうやら今いる場所からマスターのいる場所は、片道でも100km近くはあるようだった。
「まあ、アザミの状態を考えてもそこまで早くは向かえないが、何とか間に合いそうだな」
そうジンが切り出して立ち上がった瞬間、外が爆ぜた。
「何だ!?」
ジンは真っ先に外へ駆け出した。
「サクラ、アザミを見てやれ」
クエルがサクラに促し、ジンに続いた。サクラはアザミに駆け寄る。
「私は放っておいて、逃げた方がいい」
無表情は相変わらずだが、どこか儚げに見せるアザミ。
サクラはぶんぶんと首を横に振って拒否した。
「お姉ちゃんを見捨てていけないよ・・・」
外では、やはりと言うべきかツバキとオトギリソウが襲撃をかけてきた。
どういうわけかツバキは傍観していたが、単独でもオトギリソウは十分に脅威だった。ジンは舌打ちをしながら即座に攻勢に入る。
「やっぱテメェが出てくるか!今日も楽しませてくれよ!!」
狂笑するオトギリソウ。
それが合図として、ジンとオトギリソウが拳を交える。
前回の二の舞は踏むまいと、ジンは前回より手数を増やし、拳に重みを増していた。必要あらば、躱すと同時に周囲の瓦礫をひっつかんではオトギリソウにぶつける。ダメージはないものの牽制としては十分だったのか、オトギリソウは防戦一方となっている。
「環境利用術か、いかにも人間らしいね!!」
オトギリソウは更に笑みを歪ませ、何か自身に起動スイッチを入れたのか、見た目に変化が起きた。
青白い肌に紫色の血管が無数に浮き出、頭部から全身に張り巡らせるような、異様な佇まいになる。
なると同時に、オトギリソウの姿が消えた。
「もっと楽しませてくれよ!!ヒャハハハハハハ!!」
オトギリソウの声は聞こえるが、誰にも姿が捉えられない。誰の性能にも追い付かない速度で、ジンに何かしている。
ジンは再び防戦一方になっている。
だが、ジンは怒っていた。
攻撃速度が速くなった割に、受ける回数が変わらない。
手を抜かれていた。
「テメェェェェェ!!」
ジンは構えを解き、オトギリソウの攻撃をものともせず叫び倒した。
「手ェ抜くとはいい度胸してんじゃねえかあああ!!!」
激昂したジンは、蹴りを入れようとしたであろうオトギリソウの足を無造作に掴んだ。掴まれたオトギリソウは空中で止まってしまい、間抜けな体勢になっていた。
「そないにマジな殺し合いがしてえんなら、お望み通りやってやろやないかあ!!」
口調が激しく変化したジンに、さすがにオトギリソウは焦った苦笑いを浮かべた。
ジンの目も、自分と同様に眼球が真っ黒になっていた。
しかし、瞳の色が真っ赤になっており、人とは思えない禍々しさを感じられる。
それだけに飽き足らず、全身から煙が立ち込め、歯軋りしている口からオイルが漏れ出ていた。血を滲ませる程の怒り。
「ひゃ、まだそんな元気があったんだねえ!」
オトギリソウは挑発的に笑って見せるが、瞬間、自分の視界が地面に半分めり込んでいた。
「え?」
理解出来ず、オトギリソウは呆然とした。
しかし、すぐに自分が勝手に跳躍した。
足を掴まれたまま、ジンに自分がボロキレのように振り回されていた。
地面に繰り返し叩きつけられ、その度にオトギリソウの体が地中に食い込む。
「ぐぇ!!」
ジンの執拗で激しい雑な攻撃に、オトギリソウは内部が壊れるのを感じた。
いくら戦闘パターンを膨大に組み込まれていたとは言え、こんな雑で豪快な戦闘はデータになく、対処法が見つけられずにいた。
「よお手ぇ抜きよったなぁ!!バカにしよって!!」
繰り返しオトギリソウを地面に叩きつけるジン。
怒りの表情が顔面パーツに相当な負担がかかっているのか、頭部にスパークが走っている。
クエルは何かあってはまずいと廃墟の出入り口で構えて静観していた。
しかし、遠目に見ていたツバキは、この光景に飲まれていた。
「人間の怖れていた悪魔って、こんな見た目だったの・・・?」
凄まじい怒号が廃墟内に反響した。
アザミはオトギリソウの気配を探知したのか、サクラの傍で怯えていた。
「大丈夫、大丈夫だから」
サクラはそう繰り返すも、これ以上どう言えば良いかわからなかった。
廃墟内の壁で外の様子が見えず、何が起こっているのかわからない。
だが、内蔵されたサーモグラフィで確認すると、ジンとオトギリソウが戦っているのはわかっていた。しかし、どちらも熱源の熱量がおかしい事になっている。
特にジンに至っては、全身の隅から隅まで高熱源となっている。
サクラの声掛けにアザミは否定した。
しかし、否定したのは意外な内容だった。
「怖いのは・・・、ジンの方。このままだと、壊れる・・・」
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