20 / 27
第十九話 ひとつとなった友、決めた姉
しおりを挟む「合体してジン・クエルってとこか?
大昔のロボットアニメで似た名前があったようにも思うが、まあいいか」
ジンは少し乾いた声で笑った。
やはりクエルが同化して以降、ジンの話し方、振る舞いがかなり丸くなっていた。
クエルの芽生えた人格が影響を与えたのだろうか、顔つきすらも柔和な印象になっていて、とても以前と同一人物には思えないレベルの変貌だった。
しかし、あくまでもジンの姿は変わらぬまま。
似た姿をした別物にも捉えらえる。
「ジンだよね・・・?それともクエル?」
サクラはようやく泣き止んでいたが、やはりジンの変貌ぶりにさすがに落ち着かされた、と言ったところだった。
アザミもどう言えば良いかわからず目を丸くしている。
「俺は俺だ。ジンだ。
変わったと言えば、クエルの記憶が俺の頭の中にある。
サクラ、お前かなり大事にされていたな。
サクラが休眠モードになっていた時は、クエルも休む必要があったろうに、ずっと見張っていたりサクラのメンテナンス状態を管理していたりで、人間の親以上に世話を焼いていたぞ。
ホントにいいヤツだな」
ジンの顔に笑みが浮かぶ。
ここまで自然に出すのもいつ振りだろう、と言うより、本来のジンは、安らぎを忘れていたと言っていた。
しかし、その忘れていた自然な笑顔をして見せた。
クエルが最期に残したもののひとつは、ジンの安らぐ心だったのだろうか。
「クエルはしっかり、やるべき事を俺に伝えてくれたぞ。アザミを治さないとな」
そう言ったジンは、アザミに近づき、アザミを抱きかかえた。
「え、何?」
アザミは突然の事に少し慌てた。
「もうこれ以上歩いては体がもたん。
だからヤツらのいる施設のどこかに、ヤツらが干渉出来ない設備があるとクエルが情報を遺してくれた。そこへ向かうぞ」
あの悪魔染みた顔の面影なく、ジンは屈託なく笑った。
「・・・ジンのホントの顔、やっと見れた」
サクラは少し寂しげな、和んだ笑顔を見せた。
「どうしてだ?」
ジンはゆったりとした口調で聞く。
クエルが人間になったらこうだったのだろうか、と言う想いも過ぎるが、サクラはクエルとの思い出を頭の中で反芻させ、また涙目になりながら答えた。
「ジンの足りなかった何かを、クエルが埋めてくれたんだね」
再びサクラは耐え切れなくなり、泣き出した。
「ホントに相変わらず感情豊かだな」
ジンは変わらず笑って見せる。
アザミを片手で抱えなおし、ジンは指でサクラの涙を拭った。
「俺はジンだが、クエルと思ってもいい。クエルもこれからも一緒にいるってよ」
サクラは、ジンの表情の影に、無骨なクエルの面影が見えたような気がした。
サクラ達は、初めてその場所に訪れた。
サクラの眠っていた場所でもなく、クエルと共に巡った商業区や工業区、居住区でもなく、行政区と呼ばれた場所だった。
行政区とは言いつつ、人類は最後には自身の統治、法治を放棄し、本当の意味で総てを機械に丸投げした為、行政区の区域は実質、一つの巨大な建造物だけと言ったシンプルな場所だった。
外観は今まで見て来たどの建造物よりも無個性で特徴がなく、様々な巨大な鋼鉄の箱を結合させただけのような、ただそれだけの建造物だった。
この中は居住レベルはまるでなく、メンテナンス通路以外は全てコンピュータで埋め尽くされている、さながら機械要塞、という側面も備えている。
そしてジンが先導する形で三人は潜入した。
クエルの遺した情報では、北側から入るほとんど使用されていなかったメンテナンス通路があるとの事で、そこを通れば修復室がいくつかあるエリアに到達するとの事だった。
通路自体は一応立ったまま通用出来るが、壁にびっしりと何らかのケーブルが血管のように張り巡らされて奥に続いており、その厚みのせいで避けなければならず、通路を抜けきるまで数十分は要した。
そして天井の高い、抜けた空間に辿り着く。
ここもおそらくメンテナンスブースになるだろうが、異様に広く、壁際を見ると幾つか扉のない通用口があった。
「私、ここまでかも」
ずっと喋っていなかったアザミが突然口を開いた。
「ちょっと、どうしたの?」
サクラは不安そうに聞き返した。嫌な予感といったところだろうか。
「私がここに用事あるの。もちろん、終わったら追いかけるから」
薄く笑ったアザミは、ジンの腕から離れて軽い音を立てて着地した。
「どうするつもりだ?」
ジンも流石に察したのだろう、クエルと融合前の以前の荒い語気になっている。
わざとそうしたのだろうか。
「ツバキが来るよ。
今度はサクラではなく、私だってさっきから私に通信して来てる」
アザミは薄いながらまだ笑みを浮かべたまま答えた。
「いや、お姉ちゃんを治すんだよ?そんな身体で、ここで何をする気・・・?」
駆け寄ろうとするサクラを、ジンが腕を突き出して静止した。
ジンも険しい貌になっていたが、どうやらアザミの心情を理解したようだ。
「止めても、無駄だろ?」
ジンは険しい貌をしたまま、あの優し気な口調に戻った。
かなりアンバランスな雰囲気だったが、理解した事をアザミに伝えるには充分な表情だったようだ。
「お姉ちゃんらしい事、何も出来なくてごめんね?」
ここでアザミは初めて、サクラの笑顔に引けを取らない眩しい笑顔を見せた。
「え、何言ってるの、お姉ちゃん・・・?」
サクラがそう言いかけた時、
「行って!」
険しくなった顔をしたアザミは踵を返し、掌に光弾を瞬時で生成、一番奥の通用口に向けて放り投げた。
同時に空間は爆ぜ、吹き飛ばされたサクラをジンがさっと抱きかかえ、空間を抜け出した。
「待って、待って!何で置いていくの!?」
サクラはジンに掴まれて成す術なく叫んだ。
ジンはサクラの叫びを無視し、そのまま通って来たメンテナンス通路を走り抜け、十分もしない内に外へ出た。
「何で!!何で!!?」
ジンに離されたサクラは、すぐさまジンの胸を拳で叩きまくり、泣き出した。
これにジンは特に止める事なく、サクラの殴りを無防備に受け続けた。
「・・・俺だってな、俺だってな!!」
ジンは叫び、サクラの胸倉を掴んで顔を近づけた。
サクラはジンの目を見て、責める動作を止めた。
ジンも、泣いていた。
怒りの表情だが、涙を流している。
哭いている。
「俺だってホントはイヤなんだよ!
何千年と、死を覚悟して来たヤツを見て来たよ!
そのどいつもこいつも、ダチや仲間、大切なヤツだったんだよ!
その時も死ぬなって!何度も言って止めた!
だけどな・・・あんな顔したヤツは、決意と言って、決めたヤツは絶対に譲らねえ、どんなに止めてもな!」
捲くし立てたジンの顔は、やはり以前のジンとは違っていた。
クエルとの同化の結果でもあろうが、感情を素直に吐き出すようになっていた。
しかし、その素直に出せた感情が、別離と言う事なのが如何に皮肉な事か。
「・・・す、すまん」
ジンは我に返り、サクラの胸倉を離して皴着いた上着を丁寧に整え、背中を向けた。
「アザミと別れたくないのは分かる。
だがな、あんな顔したヤツの想いは、敢えて受け入れてやれ」
背中でしか見えなかったが、ジンはわなわなと震えていた。
「これが悔しいって感情だ。無理にでも止めればよかっただろう。
無理にでも連れて来るべきだっただろう。
でもあんな顔をしたヤツに、やめろなんて言えない・・・」
爆ぜた後、アザミは反動で自身に致命的なダメージを受けていた。
胴体の抉れが更に広がり、下半身と左腕を喪失していたが、それでもぎりぎりの状態で稼働していた。
アザミの両目がそれぞれ違う色に点滅している。
表情はサクラに見せた、あの薄い笑みだった。
「ひょー、思いきった事してくれちゃうねー」
冷ややかな、だが軽薄な声が響いて来た。
オトギリソウがアザミを舐め回すように見て、しゃがみ込む。
「前も思いきった事してくれたよねー、あれはさすがにコチラもやばかったよ。
お礼したかったんだけどそれも無理そうだね」
嫌味な笑みを浮かべてオトギリソウは挑発するが、アザミは無言のまま表情を変えなかった。
「へ、何だかムカつく顔してるね。
ま、こんなにまでボロボロになったらどうでもいいんだけどさ」
アザミを一瞥してオトギリソウは、背後にいつの間にか立っていたツバキに向き直る。
「アンタが好きにしな。
これからサイボーグ野郎とDBA-03Aを壊してくるから。
これが最後だからね」
そう言ってオトギリソウは駆けた。
すぐに姿を消し、荒れた空間にはツバキと停止寸前のアザミが残された。
「・・・何て無様な姿になっちゃったのよ」
努めていつも通りの挑発的な声色を取り繕い、ツバキはアザミに話しかける。
だが、アザミは薄い笑みを崩さなかった。
「サクラの・・・、為、だもの」
アザミは途切れ途切れに答えた。
満足しきった、これ以上望むものはないと、表情で応えていた。
「ツバキが・・・、サクラを守って、あげて」
加えて、アザミはお願いをした。
これにツバキは侮蔑するように、だが気まずそうに鼻を鳴らした。
「は、今更、アタシが何するって言うの」
ツバキの応えに、アザミは弱々しく、残された右腕を上げた。
「最期だから・・・、私も、戦うね」
アザミのか細い答えに、ツバキは先程の応えに反し、アザミに駆け寄り、手を取った。
「無理するなっての・・・」
ツバキの応え方に、アザミは弱々しくも、一層笑みを深めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
