桜色の女神 -S.A.K.U.R.A. Android records-

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第二十話 枯れた花たち

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 名すら知れない 枯れゆく花の
 ひらひら舞うては 地に落つる
 散る間際なら 見られていても
 様になりとて その姿


 アザミは一通り、歌い終えた。
「まさか、辞世の句って言ったっけ?
 ・・・そのつもりなの?」

 ツバキはこのうたを、アザミから聞かされていた。
 サクラと初めて接触する前、暇を持て余していた時にアザミが詠っていたのを聞いていた。
 不吉な物を詠うなとツバキは窘めたが、その後にアザミは、次これを聞いた時は、自分が壊れた時だと思って欲しい、と言った。
 そんな事は滅多にないだろうと、ツバキは鼻で笑って特に相手にしなかったが、まさか本当にそうなるとは思ってもいなかった。
 ツバキの問いに、アザミは無言だが、薄い笑みを浮かべたままだった。
 おそらくツバキの言った通り、辞世の句のつもりだったのだろう。

「最初はツバキ姉さんなんて言って、今じゃ一端の姉貴面?
 まあ私に対して姉さんって言ってたのはあのマスターからそうしろと言われただけだろうけど・・・」

 ツバキの表情に陰りがさす。
 本当にどう接したらいいのか、回答を導き出せなかった。

「あー!機械でこんな判断力じゃ本末転倒ね!」

 少し苛立ち気味に、ツバキは頭を掻いた。
 これにアザミは、弱々しく問う。

「それが・・・、人間なんじゃないかな?
 それが、悩むって事だと思う。
 辛いって事だと思う。
 この世界には本当の人間は誰もいないけど」

 アザミの薄い笑みが濃くなり、サクラと同じ、笑顔になった。

「今ここにいる人間は私達。いいじゃない」

 この言葉に何か回答を見いだせなかったのか、いや、衝撃を受けたのだろう。
 ツバキは声を上げず、涙を流した。
 おそらく再起動してから、と言うより造られてから初めて、泣いた。

「私のお願い、最後に聞いてくれない?」

 アザミの問いかけに、ツバキは静かに涙を流しながら頷いた。

「私はもう、サクラを助けてあげられない。
 だから、私はアナタの力になるから、強くなったツバキが、サクラを助けて欲しい」

 アザミは崩れかけの右腕をかかげ、ツバキはしゃがんでアザミの右腕を掴んだ。
 余りにも脆く、少し掴んだだけでそこそこの数の部品を落とした。
 何があっても、もう治せないだろう。

「私の中の力、ツバキにインストールするから。
 終わったら、私の身体がなくなるから、終わったらすぐに離れてね」

 アザミの崩れかけの掌に、ツバキは右手を重ねた。
 掌に穴が開き、接続コードが飛び出して互いを繋ぎ、同時に互いの手を握り合った。


「さようなら、サクラをお願い、ね」


 最高の笑顔になったアザミの身体が、眩い光に包まれた。
 そして、腕を通してツバキの腕に、電流のようなエネルギーが一気にほとばしった。
 しかし、ツバキは不思議と、ダメージを感じなかった。
 イヤな感じもなく、素直に受け入れられ、アザミから流し込まれた何かを全て、受け容れた。
 そして、光が途切れたかと思うと、アザミの身体が粒子化し始めた。
 全ての痕跡を残さないような消え方。
 徐々に胴体の切断面から消えていった。
 ツバキはハッとアザミの顔に再び目をやった。
 アザミはあの最高の笑顔のまま、ツバキの手に僅かに残った指と共に粒子化して、消え去った。
 何も残らなかった。

「離れろって言ったのに、見られたくなかっただけじゃない・・・」

 ツバキはそう呟いて立ち上がり、涙を拭った。





 サクラとジンは、行政区から離れ始め、走り抜けていた。
 かつてオフィス街だったであろう巨大な廃墟群と荒れたアスファルトを、とにかく走っていた。
 行政区から出る直前にオトギリソウに追い付かれていたが、オトギリソウは以前より数段上に強化改造されており、更に出た直後に不意打ちを喰らった為、サクラとジンは少々の損傷を受けたが、一旦退避しないとまずいと判断し、逃走していた。
 しかし、オトギリソウは追跡能力も上がったのか、本気で走り抜ける二人にいとも簡単に追い付く。

「いたぶるって感じの事をさせてくれるの?それもいいねぇぇ!!」

 オトギリソウの狂った笑い声が廃墟街に反響した。

「てめぇ不意打ちまでかましやがって!覚えてろよ!」

 ジンは捨て台詞を吐くが、やはり今の状況を打開出来るだけの方法を見出せず、困惑した。
 どうすれば、サクラを無傷でヤツから引き剥がす事が出来るか。
 ジンはクエルと融合して初めての戦闘になるが、やはりクエルの影響はかなり大きかったのか、サクラを無傷で生還させる、という目標がずっと頭の中で反芻していた。

「さて、どうしたもんか・・・」

 珍しく、小さな弱音を吐いたジンに、サクラは立ち止まった。

「止まるなよ!何考えてんだ!?」

 ジンは大声を出して自身も止まるが、サクラは答えた。

「何度も考えたけど、私はオトギリソウとは仲良くなれそうにない。
 ここで叩こう!」

 凛々しいのか、勇ましいのか。
 真剣な面持ちになったサクラは、自分が眠っていた施設から拝借して、今まで使わず量子化していたアーマードスーツを呼び出して出現させ、そのまま上から纏った。

「ジンに頼ってばっかりだと悪いよ。
 ジンばっかり傷つく。
 私も戦うから!」

 そう叫ぶと、サクラは飛翔し、オトギリソウがいるであろう、手近のビルの屋上に高速で迫った。

「お前が来るかい!?」

 オトギリソウが叫ぶと同時に、屋上が爆ぜた。
 空から瓦礫が大量に降り注ぎ、ジンは向かい側の廃墟ビルの軒下に避難した。

「つー・・・、マジかよ、初めてだからかなり無茶しやがるな」

 ジンは不安げに、破壊された屋上を見上げた。

 あの爆炎の中の一瞬で何があったのか、サクラはオトギリソウの首を片手で掴み、いとも簡単に拘束していた。
 オトギリソウは悔しそうに激しい歯軋りをしながら、サクラの腕を解こうとしたりサクラの胴体に蹴りを入れたりと拘束を解こうとしている。

「てめぇ、何で今まで何も、しなかった?」

 オトギリソウは恨めしそうにサクラを睨み付けた。
 今まで守られていただけの存在が、いざ戦ってみるととんでもない戦闘力を発揮している事に、オトギリソウは自分から進んで戦わないサクラの意思を理解出来ないでいた。

「私はね、元から戦いは嫌いなの」

 サクラは負けじと、いや、それ以上の気迫でオトギリソウを睨み付けた。
 ジンは遠目でもそのサクラの素顔を見る事が出来たが、あのサクラが、年頃の人間の女の子にしか見えなかったサクラが、凄まじい形相でオトギリソウを睨み付けている。その形相に、ジンは何か心が痛むような感覚を覚えた。

「戦闘用アンドロイドだか何だか知らないけど、私は私。
 それにDBA-03Aってあなたはずっと呼んでいたよね?
 型式番号で呼ぶな!
 私の名前はサクラだ!!!」

 サクラの瞳孔から閃光が走り、同時に目晦ましになったのかオトギリソウの視界は真っ白になり、うめき声を上げながら目を覆った。
 そして、サクラは荒々しく、オトギリソウの首を片手で掴んだまま、アスファルトの路面に投擲した。
 砲弾の如く投げられたオトギリソウは、そのままアスファルトに着弾し、爆音と共に奥底の地面にまでめり込んだ。

「もうこれ以上追わないで。私は静かに楽しく暮らしたいだけ・・・」

 追って路面に着地したサクラはそう告げた後、糸が切れたかのように倒れ込んだ。軒下からジンは急いで駆け寄り、サクラを抱き起した。

「初めての戦闘だろうが、とんでもない事しやがって、クエルに怒られるぞ」

 そう言って、ジンはサクラを仰向けに抱き上げた。
 同時に、食い込んだ路面からオトギリソウが飛び上がり、ジンの前に着地した。オトギリソウも凄まじい形相になっている。

「てめえのせいでそもそもアンドロイド全員の存在意義を失わせたんだろうがよ。
 せめてもの償いだ、大人しく壊されろよ!」

 オトギリソウが乱暴にジンに掴みかかろうとした刹那、オトギリソウに何かが高速でぶつかり、オトギリソウは廃墟ビルの中に叩きこまれた。
 衝撃で壁を何重も突き破り、廃墟の辛うじて残っていた内装が音を立てて崩れていた。

「な、なんだ?」

 ジンは、オトギリソウがいた場所を振り向く。
 そこには、ツバキがいた。

「あいつはアタシに任せな」

 不敵な笑みを浮かべて、ツバキが答える。

「アザミとの約束だからね、アタシはここで食い止めるから、アンタはサクラを連れて遠くへ行きな」

 ツバキの一言に、ジンは驚いた。
 当初は警戒すべきだった対象だったのは間違いない。
 接触当初にサクラを破壊すると直接宣告しに来たぐらいだ。
 それが何故、助けると?

「アザミはもういないよ」

 その一言に、ジンは固まった。
 予想はしていたが、やはりあの顔を見てしまったからには、やはり辛いという感情しか湧いてこない。

「だけど、アザミの遺してくれた力があるから、使ってくるよ」

 ツバキはおそらくだが、初めて、笑って見せた。
 サクラの眩しい笑顔や、アザミの薄い笑みとはまた違った、何処か不器用な笑い。
 でも影のない、純粋な微笑みだった。

「あー、やっぱりアザミみたいにいい顔出来ないや。
 アンタの中に、PPS-03Gがいるんだね?
 それだったら、無線で記憶情報を受信出来る機能があるから、私が見たアザミの最後、送っておくよ」

 そう言われ、ジンの頭の中に別の映像のようなものが現れた。
 オトギリソウがあの暗い空間を出た後、アザミとツバキが会話し、その最期に見せた、アザミの最高の笑顔。
 この映像情報に、アザミの感情機構の量子化データも入っていたのであろうか、アザミの気持ちまで見れた。



 この顔なら、サクラも喜んでくれるかな?



「最期まで不器用だったな、アイツ」

 ジンは涙目になりそうになるが、堪えた。

「後は、任せてよ」

 ノリ良くツバキは言い、オトギリソウを蹴り込んだ廃墟内に入って行った。



 ツバキの姿を見たのは、これが最後だった。
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