桜色の女神 -S.A.K.U.R.A. Android records-

MAGI

文字の大きさ
22 / 27

第二十一話 本当のあなたは思いやり

しおりを挟む


 廃墟内の更に荒れた奥の部屋に、オトギリソウは投げ込まれていた。
 予想以上のサクラの重い一撃に、怒りも感じていたが戸惑いの方が大きかった。
 今まで守られていた事がどうにも解せなかったが、今になって何故ここまでの力を発揮できたのか。
 これが最もわからない。
 オトギリソウは自問自答している間に、ツバキも中に入って来た。

「随分様になったやられっぷりね」

 嫌味たっぷりにツバキは挑発した。
 ピンヒールの音をツカツカと鳴らし、堂々と臆せずオトギリソウに近づく。

「なんだ・・・、テメェは笑いに来ただけなのか。それなら失せろ」

 苛立ちを覚えたのか、オトギリソウは歯軋りした。
 サクラに一方的に甚振られたあの時の怒りがオトギリソウの中を駆け巡る。
 自身のシステム内でも、アラートが木霊している。DBA-03Aを破壊せよ。ただそれだけのアラートが。

「いや、実はと言うとね、笑いに来ただけじゃないの。姉の借りを返さないとね」

 そう言うとツバキは光る鞭の刃を発言させ、構えた。

「は!貴様どういうつもりだ?こちら側だっただろう?」

「いいや、マスターからはもう指示も何も貰ってないのよ。
 好きにすればいい。
 私はそうさせてもらう。
 姉のアザミと一緒にね」

 ツバキはにこやかに答え、光の鞭にスパークを走らせた。

「・・・DBA-01Eが貴様の中にいるのか。壊してやってもまだ抗うか!」

 オトギリソウは立ち上がる。
 何もかも気に入らない、そんな単純でどす黒い思考が纏わりつき、オトギリソウはすぐに跳躍、ツバキに殴りかかった。

「姉さん、いこう」

 そう呟いたツバキは、光を振り回した。





 ジンはサクラを抱え、廃墟都市から離れ始めていた。
 向かっていたのは、サクラが特に好いていた湖。
 戦闘で興奮状態のまま強制停止してしまった為、再起動した時にまた暴れないとは限らないので、落ち着けそうな場所で再起動しようと目指していた。
 どうやらサクラ自身の身体は先程の戦闘で異様な熱を帯びており、サクラが触れている箇所から放熱の蒸気が現れている。
 クエルに上書きされたジンのシステムに、DBA-03Aオーバーヒートと注意喚起のアラートが表示されており、湖についたジンは、サクラを湖のほとりで着水させた。触れた水面が一気に蒸気を帯び、沸騰音を立てる。
 しばらくして一定の冷却を行えたのか、サクラは目を覚ました。

「は、ここは?!オトギリソウは!?」

 濡れたサクラは派手に水しぶきを上げて起き上がり、周囲を見渡した。
 周囲はジン以外誰もおらず、この世界の唯一の癒しだけがそこに広がっていた。

「無茶するなよ・・・。ヤツはツバキが仕留めると言っていた」

 ジンは少し安心し、サクラが強制停止した後の事を話した。
 やはり、ツバキがサクラを助けた、という事がどうにも信じられず、サクラは仕切りに何で?と繰り返し呟いた。

「それだけじゃない、アザミに頼まれた、と言うのもあるが、これを見ろ」

 ジンはそう言って、サクラの手を握り、接続コードを再び繋げた。
 同時に、サクラの視界に半透明の映像が流れる。
 アザミが映っていた。
 あの後、アザミはオトギリソウを牽制してサクラ達を逃がしたが、同時に自身の身体が耐えられなくなり、完全停止寸前になっている痛ましい姿だった。そしてアザミの最高の笑顔が映った時、サクラは再び泣いた。

 この顔なら、サクラも喜んでくれるかな?

 アザミがそう言った気がした。サクラは着水したままその場で泣き続けた。すると、
「お前に泣くなんて似合わない、アザミの最期の想い、笑顔で受け取ってやれよ」

 ジンはサクラを抱きしめた。

「だが、今は泣け。どうしてもそうしたいなら今ここで泣ききってしまえ」

 ジンの言葉に、サクラはこれまで以上の泣き声を上げた。湖にサクラの泣く声が響いていく。





 ツバキとオトギリソウの戦闘は続いていた。
 オトギリソウは苦戦していた。
 自身のデータの中では、DBA-02Cは武器兵器の使用に特化したタイプと記されていた為、相応の戦闘を行おうとしていたが、アザミの能力まで付加されたのか、時折動作不良を起こしていた。
 殴ろうとすると空を切ってツバキのピンヒールを顔面にぶつけられる。
 蹴りを入れようとすればただ地面を踏みつけては光の鞭の容赦ない連打を喰らう。
 一方的な状態が続いていた。
 オトギリソウは実質、アンドロイド2体と同時に戦闘を行っている状況だった。

「DBA-01Eの能力かよ!小賢しい事しやがる!」

 オトギリソウは思い通りにならず歯軋りが激しくなり、口元にスパークが走る。

「姉貴の想いは受け継がないとね。残された妹の義務だよ」

 不敵に笑うツバキは、今度は光の鞭を複数発現させ、廃墟内の割れ目や突起にいくつかに、オトギリソウを包囲するように絡めていく。
 そして出来上がったのは、オトギリソウを包囲した光の鞭の陣形。
 そしてツバキの両目が、アザミと同じようにランダムな色に点滅した。

「サクラには戦いは似合わない。アタシだけで充分だよ」

 ツバキは張り巡らせた陣形に、電流を流し込んだ。
 オトギリソウの周囲に電気のうねりが現れ、オトギリソウに直撃した。
 相当なエネルギー量なのか、オトギリソウの身体がとにかく痺れ、大いに仰け反った。それだけにあらず、機械にもかかわらず泡を吹いていた。

「せめて壊せなくても、サクラの元へは行かせない。ここで朽ちて」

 ツバキは更に電流を強め、オトギリソウを起点にして爆炎が現れた。廃墟内が一気に爆ぜ、黒煙が周囲に舞い上がった。

 無理をし過ぎたのか、ツバキは爆炎を直に喰らってしまったが、何とか動く事が出来た。光の鞭の陣形は解除されたが、これでオトギリソウが動くのなら手段は限られてくる。

「やってくれたなぁあっぁぁ!!!」

 叫びのような、慟哭のようなオトギリソウの声が反響した。
 瓦礫を乱暴にぶちまけ、ボロボロのオトギリソウが現れる。
 原型はあるが、全身にスパークが走っており、相応のダメージを受けているのが見て取れる。
 しかし、ところどころにイヤな変化があった。
 あの真っ黒な三白眼が本当にただの真っ黒な眼球となり、顔中に紋様のようなラインが走っている。
 ラインは赤く発光しており、何らかの暴走なのか真っ黒な目からは赤い液体が流れている。人間で例えるなら、発狂した、というところが妥当であろうか。

「やっぱり大人しく壊れちゃくれないねえ」

 呆れ気味に、どこか諦めたかのような、決めたような深い溜め息をして、ツバキは再び構えた。

「姉貴、アタシもいくよ。サクラには、ちゃんと伝えたよ」

 ツバキは構えた。
 見た事のある動作の為、すぐに再現できた。
 アザミが見せた、あの自爆攻撃だった。
 両手の掌に光弾を収束させ、全身に過剰なエネルギーを巻き起こす。
 同時に、オトギリソウはツバキに飛び掛かった。

 かつてオフィス街だった廃墟に、巨大なキノコ雲が発生した。
 周囲は薙ぎ倒され、クレーターが一つだけ残された、荒れた地だけが残った。





 マスターはただ一人、闇の部屋の中で変わらず自問自答をしていたが、状況が変わった。
 アンドロイド達の動きが一層激しくなり、この数時間、マスターはずっと見ていた。
 それぞれのシグナルを見ると、DBA-01Eは四時間程前にロスト、今このタイミングで、DBA-02Cもロストした。
 GA-Xは識別不能状態となり、MIA-subと表記されていた。
 随分離れた位置に、DBA-03AとCYBORGのシグナルがあるのを見て確認。
 マスターは黙々と、この様子を眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...