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しおりを挟む私がバイオリンを弾いているとアリアが少し控えめにこう言った。
「奥様……私もバイオリン、触ってもいいですか?」
「もちろんいいわよ」
(やっぱりこの世界にない楽器なんだから興味あるわよね)
「ありがとうございます」
アリアは申し訳程度にしか触れようとしなかった。
「もっと触っていいのよ?どうせならちょっとだけ弾いてみる?」
「いっ、いえそんな、大丈夫です」
「遠慮しないで」
「では、少しだけ……」
私は簡単にバイオリンの弾き方を教えた。例えば、基本のフォーム、弓を引くと音が鳴ること、弦を押さえて音程を変えられることなど。
「似合ってるわよ」
アリアがバイオリンを構えた姿が意外と様になっていた。
「そうですか?」
アリアが弓を引くとノイズが入って掠れた音が出てきたから、彼女はすぐに手を止めた。
「あれ?」
「弦を押さえる力はもう少し強めにして、弦と弓が平行になるようにしてみて」
「こうですか?」
「そんな感じよ。弾いてみて」
今度は少しノイズが入ってはいるもののいい感じの音が出た。
「出ました!」
そう言いながらアリアは何度か音を出した後私に返した。
「ありがとうございました!糸と糸だけで音が出るなんて不思議です」
「気に入った?」
「はい、とても気に入りました!」
「買ってあげようか?」
私は結構本気で言った。
一人だけでバイオリンを弾くのもいいけど二人で弾いた方が楽しいはず。
「そんなっ、流石に申し訳ないです」
「別に遠慮しなくてもいいのよ。この屋敷で私の味方だったのはあなただけだったから贔屓したくなっちゃうの」
「ですが……」
「そう言えばあなたはまだ楽器の練習してないわよね」
「社交界で使うものだったらまだです」
アリアは子爵家の出身で、貴族の女性は基本的に社交界に出たら自分の演奏を披露する機会が何度もあるからアリアにバイオリンを進めようと思った。
「じゃあバイオリンにしたらどう?」
「たしかにそうしたいですけど……買ってもらうのはやっぱり申し訳ないです」
そんな会話を何度か繰り返して結局アリアの方が折れてくれた。
「私と同じのでいい?」
「同じのでお願いします」
トールさんのところへバイオリンを注文する手紙を書いた。
「それでは私は仕事がありますのでそろそろ失礼します」
「付き合ってくれありがとね」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
そうして、アリアがいなくなった後もバイオリンを楽しんでいる夕食の時間がやってきた。
「奥様、夕食の時間になりましたのでお迎えに来ました」
「今行くわ」
部屋の外に待っていたのは最近はかなりおとなしくなったヴィオラだった。
「不思議な音ですね」
食堂に向かっている途中でヴィオラが唐突に口にした。
「え?」
「最近奥様の部屋から聞こえてくる音です」
「聞こえてた?」
「はい、かなり」
(前世の癖で部屋が防音だと思い込んでた……これからは気をつけないと)
「最近珍しい楽器を始めたのよ」
「そうなんですか」
私が食堂に着くと今日も公爵様の方が早く着いていた。
「最近早いですね、どうかしたのですか?」
「いえ、偶然です」
「そうですか……」
多分本当に偶然なのだと思う。
いつものように食事を始めると公爵様が口を開いた。
「最近使用人との間でトラブルが起きているようですね」
「どうしてそんなことを?」
たしかにトラブルは起きているけど前よりはましになっている。
「実は今日侍女長が新しく入った使用人の態度が悪いのにあなたが辞めさせようとしないと騒ぎ立てていたので」
「そうですか……彼女たちをどうするおつもりなのですか?」
「どうするも何も、私は侍女長の話は信じていませんからあなたに任せます。新しいし使用人が来てから屋敷の手入れが行き届くようになった気がしますから」
「わかりました。ありがとうございます」
「そう言えば……最近楽器を始めたのですけど、音が聞こえたりしてますか?」
公爵様には今度のの結婚記念のパーティーでサプライズをしようと思っているからバイオリンの存在を気づいて欲しくなかった。
サプライズと言っても別に私が公爵様のことが好きと言うわけではなくて……ただ屋敷での立場を安定させるため。
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