元ゲーマーのじいじ、気ままなスローライフを始めました〜じいじはもふもふ達の世話係です〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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46.じいじ、町に戻る

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「じいじ、なんか様子がおかしいね?」
「わしはおかしくないぞ?」
「じいじ、じゃない!」
「おじいさん、じゃない!」

 ポンに咥えられているわしは、ハルキとカナタに怒られてしまった。
 その場でしょんぼりすると、まるでポンに食べられている老人みたいだな。
 いや、あながち間違いではないか。

 森の中は静かだったが、町に近づくほど大きな音が響いている。
 感覚としてはずっと雷が鳴っている状況に近い。

「じいじ、燃えているよ!」
「なに!?」

 わしは必死に髪の毛を触るが、わずかしかない髪の毛は……燃えていなかった。
 ハルキとカナタは何を見ているのだろう。
 咥えられているわしは首を真横に動かさないと、前が見えない。

「町が燃えて……」
「違う! 今度は凍ってるよ!」

 ハルキとカナタはさっきから冗談でも言い合っているのだろう。
 そんなことを思いながら、森を眺めていると音が激しさを増していく。

「本当に町がおかしくなってるのか?」
「「さっき言ったよ!」」

 まるで昔から一緒だったかのように息もぴったりだ。

『にゃ!』

――ドスン!

 ポンが立ち止まると、わしはそのまま落とされた。
 最近雑に扱っても、死なないとポンも気づいたのだろう。

――ダメージ9

 死にはしないけど、かなり致命傷になっているのは変わらない。
 わしのHPは未だに10と変わっていないからな。

「これは……」

 目の前にある町が燃えている。
 動画で見ていた時よりも、建物は半壊しており、まるで戦争をした後のような街並みだ。
 この間見た町とは全く別物――。

 わしらは警戒しながら町の中に入っていく。

「ゴマ、あの人を助けて!」

 ハルキは何かに気づいたのか、ゴマに指示をする。

『キュー!』

 ゴマは倒れている人間に一瞬で詰め寄ると、手に持ってる角を突き刺した。

「ゴッ……ゴマ!?」

 わしがいたのに、ついにゴマは人間を殺めてしまった。
 しかも、相手はNPC相手だ。
 プレイヤーならPvPになるか、ゲームオーバーになるかもしれないが、NPC相手だと死ぬかもしれない。
 そのことでわしの頭はいっぱいで、髪の毛が全て抜け落ちそうだ。
 わしとは反対に、ハルキとカナタはゴマに近づいていく。

「うげっ……」
「大きなゴキブリだね……」

 ゴキブリ……?
 ゴマが刺していたのは人間だったはず……?

 わしも近づくと、ゴマの角には大きなゴキブリが刺さっていた。

【魔物情報】

名前 クロカサカサ
詳細 暗所と高温を好む、異様に素早い黒光りした甲殻虫型魔物。
   羽音で精神を削り、身体に這い上がることで生理的嫌悪感を与える。
属性 闇属性

 わしはハルキとカナタ、そしてゴマを強く抱きしめる。

「じいじ、どうしたの……?」
「おじいさん!?」

 わしはその場にぺたんと座り込んでしまった。
 これがギックリ腰……いや、今はそういうことを言ってる場合ではない。
 本当に良かった……。
 本当に……。

「うわああああ! よかったあああああ!」

 町の中に響くほどの大きな声でわしは泣き叫んだ。
 しゃがれた声が震えて、涙も鼻水もぐしゃぐしゃに流れて止まらない。

「じいじ、だいじょうぶだよ!」 
「おじいさん、もう大丈夫だから!」

 二人は両側からわしを支えるように、そっと背中に手を添える。
 何度も不器用な手つきで、優しく撫でていた。
 まさか孫に撫でられるとは思いもしなかった。

「じいじは僕が守るからね!」
「へっ!」

 ハルキの言葉に涙がスッと止まる。
 ひょっとして、ゴキブリが怖くて泣いたと思っているのだろうか……?

「ち、違うぞ。わしは、あれじゃ……ない、感動で……うう」
「よし、どんどんゴキブリ退治するぞー!」
「おー!」

 言い訳しようとしたが、すでにハルキとカナタは聞いていないようだ。
 二人はドンドンと町の中を歩いていく。

『にゃはあ!』
『キュ!』

 ポンとゴマはわしの顔を見て、ニヤリと笑った。
 どうやら勘違いをしていたのは、わしだけだった。

「ふん、守られるのも、たまには悪くないな」

 こんなにも、小さな手に救われる日が来るとは思いもしなかった。
 わしは立ち上がり、ハルキたちを追いかける。
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