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第一区画

17. 思考加速と並列思考

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 昨日の異世界の副業は死闘を繰り広げたが、今日は会社での死闘をする日だ。

「はぁー、なんで休みって終わるのが早いんだ……」

 俺は体をゆっくり起こしながら、出勤する準備をしていた。

 投資を加速するためにお昼は外食はせずお弁当を作り、水筒にお茶とコーヒーを入れて持ち歩いている。

 節約することで出費を減らして、お金を貯めるためだ。

 しっかり朝食を食べ、スーツに着替えて家から出ようとテレビの時計を見た。

「7時5分……あれ!?」

 俺は時計を二度見した。いつもと同じ時間に起きて準備をしていたはずが、20分程度早く準備を終えていた。

「なんでこんなにはや……パッシブスキルか!?」

 俺は改めて投資によるステータスとスキルの影響に驚いた。普通に生活しているだけで、思考が加速し同時に物事を考えられるようになったのだ。

 単純にいえば多重課題ができるようになったのだ。

「まぁ、早く職場に行って勉強でもするか」

 俺はこの時間を使って、自己投資として勉強することにした。ちょうど昨日の異世界副業で得た資金があるから投資先の勉強をしてもいいかもしれない。

 資本の基本は自分自身だからな。





 職場に着くと誰も居らず、初めて一番初めにオフィスに着いた。周りはまだ静かで勉強するのにもちょうど良い環境だった。

「んー、情報技術セクターで思考加速と並列思考を手に入れたってことはやっぱ情報が関わっているのか?」

 俺は紙に書きながらスキルを整理していた。今後も異世界で副業するのであればスキルは重要となる。

 俺は紙に書いた11種類あるセクターを眺めていた。

 基本的に俺は米国株を中心に投資している。

 米国株にはセクターと呼ばれるグループが11種類あり、情報技術・ヘルスケア・一般消費財・通信サービス・金融・資本財・生活必需品・公共事業・不動産・素材・エネルギーの11種類だ。

 日本株では自動車および輸送機などにも分けられた計17種類もある。

 このセクターで習得するパッシブスキルが異なるなら、11種類のタイプに分けたスキルを手に入れることができるだろう。

 しかし、投資するにあたって、資金が少ない時には分散投資をすると利益が得られにくい。それは異世界でのスキル習得率に関わってくるだろう。

 現に情報技術セクターのみ購入しているが、20%保持していると言っていた。

 器用貧乏よりは特化型の方が敵とも戦いやすいだろう。

「んー、どのセクターがいいんだろうな……」

 俺はどうするべきかと悩んでいると、嫌味のようなやつの声が聞こえて来た。

「おっ、今日早いんだな」

 朝から糞部長に声をかけられた。お前の顔をなるべく見たくなくて、いつもはゆっくり遅めに出勤しているのだ。

「おはようございます」

 俺はすぐに笑顔を作り部長に挨拶をした。そんな部長は挨拶を返すこともなく、俺のデスクを見ている。

 いい歳したおっさんが挨拶もできないなんて可哀想な人だ。

「朝から何をやっているかと思えば株かね。そんなリスクを抱えてお前は馬鹿なんか?」

 朝から文句を言われ、俺の笑顔は引き攣っていた。作り笑顔にも限度がある。

 その顔を隣にいる桃ちゃんこと桃乃は見ていた。

「最近の子は投資をやっている人も増えているんですよね。老後2000万円問題もあるから私達若者は今後が不安なんですよ。部長は2000万円の貯金ありますか?」

「おっ……あー、俺は退職金でどうにかするぞ」

「そうなんですね。私達が退職する時も退職金がちゃんと貰えたらいいですね。最近は増税ばかりで退職金にも多く税金がかかりますしね」

 今日はやけに桃乃が攻撃的だった。実際に退職金が貰えるか分からない世の中で、退職金を頼って資産を増やさなかったら老後の生活は厳しくなるだろう。

 年金も貰えるとは思うが、額は少なくなるのは目に見えている。

「俺は転職せずにこの会社に30年も勤めているから、退職金はたっぷり貰えるさ」

 部長はその辺のことを考えていないのか、堂々と胸を張って自慢していた。桃乃の怒涛のフォローで俺はいつのまにかさっきまでの怒りが収まっていた。

「あっ、始業時間になっちゃいますよ」

 時計を見ると確かに仕事が始まる時間になっていた。

「おっ、俺みたいなやつがみんなのお手本にならないとな」

 そう言って部長は自身のデスクに向かって行った。誰もお前を手本にはしてないぞと内心はみんな思っているだろう。

「誰もあんたを尊敬してないし、比較対象の手本にもならないわよ」

 俺の心の声は漏れていたと思ったが、どうやら桃乃がボソッと呟いていた。稀に出てくるブラック桃乃を見ていると、どこか俺の気持ちが晴れてくる。

「桃乃さん今日は過激だね」

 俺はそんな桃乃に話を振るとニコッと笑っていた。だが、こういう時の笑顔に騙されてはいけない。桃乃はすぐに表情を真顔に戻す。

「先輩も早く仕事を始めないと今日も終電ですよ」

 やはり今日は虫の居所が悪いのだろう。休みの日に彼女に何があったのかはわからないが、詳しいことは触れないようにした。

 流石に週の始まりから終電帰りは避けたい俺はパソコンに視線を向けると仕事を始めた。
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