25 / 158
第一区画

25. 自動鑑定って結構便利なんです

しおりを挟む
「なっ、なんだね」

 桃乃の時と全く態度が変わっていた。その姿に俺は少し笑いそうになる。

 前よりも俺への態度が変わったと思っていたが、代わりに桃乃に当たっていたのだろう。

 それよりも俺に対して嫌悪感を感じているのか、表情以外は強張り、体から黒色のモヤが出ていた。

 俺は自動鑑定を手に入れてから、オーラのようなモヤが見えるようになった。

 初めは何かわからなかったが、身近な人ほどオーラは、はっきりと見えていた。

 俺に嫌悪感や害をもたらすような人には黒色のオーラのようなものが出ている。単純に部長からしか出ていないため、危険な人という認識で合っているのだろう。

 全く無関心な人は白に近いほぼ透明で、好意がある人は淡い暖色系に近い色をしている。

 そこから俺に対して害をもたらす人は徐々に暗い色となる。

 そんな自動鑑定で見た部長のオーラはドス黒く、漆黒のような黒色だ。本当に俺に対して害を与える人物なんだろう。

 実際に今まで仕事を散々押し付けてきたしな。

 俺は桃乃が作った資料を手に取り再度確認する。間違えたところがあれば、桃乃の資料を確認した俺の責任になるからだ。

「これのどこに問題があるのか教えてください」

 見たところ特に資料に不備はなかった。俺が見逃しやミスをしたのかと思ったが、そうでもなかった。

 単純に部長の腹いせに文句を言われているだけだ。

 これもスキルのおかげなのか、ミスをしているところはパッと見ただけでわかるようになってきた。

 間違っているところはそこだけ輝いて見えている。

 以前の俺も同じように怒られていた。あの時は誰も助けてくれなかったため、ただ謝ることしかできなかった。

 今となってはパッシブスキルのおかげで怒られることはなくなった。かなり仕事に役立つ有能なスキル達だ。

「えっ……いや……」

 俺が問い詰めると急に部長はどぎまぎとしていた。急に来て問い詰められるとは思ってもなかったのだろう。

 今までの俺なら言い返すこともなかった。その結果、奴隷同様の部長の雑用係になっていた。

 だが、誰よりも仕事ができて、早くできるようになれば文句は言えないはずだ。

「この資料は一度私が確認しています。何か資料のミスや文句があるのであれば私を呼んでください」

 俺の言葉に部長は何も言い返せないでいた。ただでさえ、資料に問題がなければ今の俺に対して何も言えない。

 そして、異世界で命懸けの経験をすると、今まで喚いていた部長が全くもって恐怖感を感じないのだ。

 ただ言えることは近くにいるのに、大きな声で話すため、その存在自体がうざい・・・

「こんな怒る時間があるから、少しでも仕事を終わらせてあげたほうが桃乃のためになると思いますよ」

 少し嫌味を込めて部長に言い放つ。桃乃に対して戻れと言いたいのか、すぐに手を桃乃に向けてひらひらと上下に振っている。

 この男はいい歳して言葉も話せないのだろうか。そんな部長の態度に桃乃もイライラしている。

「じゃあ、これで失礼しますね」

 俺はそんな桃乃の状態に気付き戻るように伝えた。こいつに絡んでいたら碌でもないことしか起きない。

「あんなやつに振り回されるだけ時間の無駄だ」

「ありがとうございます」

 小さな声で話しかけると桃乃の声は震えていた。どうにか我慢して耐えていたのだろう。あれだけ言われて耐えられる桃乃に拍手だ。

「あいつはただ人に八つ当たりしたいだけだから気にするなよ」

 桃乃も自分が八つ当たりされているのは理解していた。それでも、部長という肩書きには逆らえないのは部下の定めなんだろう。

「では、部長失礼します」

「ああ、早く戻れ」

 桃乃を席に戻した後に、俺は部長に一言声をかけると部長のオーラはさっきよりも黒くなっていた。

 初めの時より吸い込まれそうな真っ黒の状態だ。たが、桃乃に対しての件は終わらない。むしろ終わらせるつもりはない。

 脱社畜奴隷は今日で卒業する。

「そういえばこの前言われた資料をまとめ終わったので確認をお願いします」

 俺は自分のデスクに戻ると大量の紙を持ってくる。

 50枚程度でまとめた資料を部長に渡す。これでも端的にまとめたのだ。

 ただ、黙々と仕事を終わらせて一気に渡しただけだ。

 そのまま俺は自分のデスクに戻った。

 ちらっと見た時には、仕事を増やされたことに対してなのかさらにオーラは黒色が強くなり、奈落の底のようになっていた。

 今までやっていたことを、代わりに俺が再現しただけだ。誰だって定時前に仕事を振られれば残業しないと帰れないことはわかる。

 定時まで残り一時間。それまでに部長が仕事を終わらすことができたら、一生この人に頭が上がらないだろう。

「先輩さっきはすみません」

 席に戻ると桃乃は謝っていた。別に桃乃が悪いわけでもない。ただ、このままでは桃乃が嫌がらせの対象になってしまう。

「何かあったらすぐに相談しろよ。俺が助けてやるからな」

 そう言って桃乃のデスクにある資料を手に取る。すでに自分の仕事を終えていた俺は代わりに部長が桃乃に渡した仕事をすることにした。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...