91 / 158
第二区画

91. 再び異世界へ

しおりを挟む
 俺は桃乃と共に穴の中に入った。さっきも思ったが普段と同じ真っ暗な空間なのに、どこか違和感を感じる。

「先輩、やっぱり何かがおかしいです」

 桃乃もやはりこの違和感を感じているのだろう。どこか異世界までの道が広く感じられるのは気のせいだろうか。

 いつもは穴を直接まっすぐ進んでいくため、俺は壁に手を触れながら進んでいた。

「あっ、あれ?」

 急に手が触れていたところから壁が無くなっていた。今までなかった新たな空洞が途中からあったのだ。

「ここだけ壁がないぞ」

 俺は後ろにいる桃乃に伝えると、桃乃も普段から壁を伝っているのか同じような反応をしていた。

 そもそも穴自体が真っ暗のため、中の構造が未だにどうなっているのかわからない。

 ただ、一本道だと思っていた穴の中に分岐するところがあったのだ。

 今まで存在してなかった道に俺達は戸惑っていた。

 これまでと違うこの変化は、きっと先に何かあるのだろう。

「よし、行ってみるか」

 俺達はそのまま隙間を通り、再び壁に手を触れて進んでいくと、いつものようにアナウンスが流れた。

【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、ステータスが一部上昇します】

 さっきは聞こえなかったデジタル音声が聞こえてきた。

【ETF内訳セクター生活必需品20%保持。カテゴリーパッシブスキル自動アイテム生成を獲得】

 少しずつ分散投資のために買った生活必需品セクターのETFが20%に到達したようだ。一体何をもって20%なのか未だにわからない。

 自動アイテム生成って名前からして便利そうなスキルだ。

【今回の討伐対象はオークです。制限時間は10時間です。それでは本日も頑張って家畜のように働きましょう】

【第二区画の解放です】

 目の前が明るくなると同時に目を閉じた。久しぶりにコボルト達に会えるのだ。俺の胸の中は久しぶりの癒しに胸が高鳴る。

 いつもならコボルトの鳴き声が聞こえるだろう。

 いくら経ってもコボルトの鳴き声は聞こえず、肌に感じるのはジリジリと皮膚が焼かれる痛みと暑さだった。

 目を開けるとそこには広大な砂の上に桃乃と二人で立っていた。

「えっ……砂漠!?」

 俺は砂漠の真ん中に取り残されるように立っていた。どうやら周りには魔物の存在はなく、コボルトも見当たらない。

「先輩……日焼けしちゃいます」

 目が慣れてきたのか、桃乃はインナーを脱ぎ頭に巻いていた。

「ヒジャブか!」

 自然とツッコミを入れていたが、頭の中では神光智慧大天使ウリエル がしっかり仕事をしている。

「日焼けすると赤くなって痛いんです」

 桃乃の肌は色白なため、焼けたら黒くならずに赤みと痛みだけが残るのだろう。

 それにしてもインナーを巻いている姿は意外にも似合っていた。

「砂丘にも行ったことないけど、砂漠を手軽に行けるって思うと異世界旅行もいいですね」

 異世界旅行にしてはかなりの命がけだが、桃乃は思ったよりも能天気でポジティブだった。

 俺なんて入ってきた穴の入り口が風と砂でどこにあったのか分からず困っているっていうのに……。

 そう、来た時にすぐ穴の場所を見失ってしまった。

「とりあえず今回の討伐する魔物はオークだから探しながら考えましょう」

 桃乃が言った通りまずは魔物を倒すのが先だ。

 今回は"オーク"が討伐対象のため、ファンタジーに良く出る大きな豚や猪みたいな魔物を探せばいいのだろう。

 俺は視界の端にある地図のマークを押した。

 以前ドリアードの依頼でキラーアントの居場所がわかるようになってから解放された機能だ。

「……」

「先輩どうしました?」

「地図が……ない」

 まさかと思ったがあの地図機能は第一区画のみに適用されるものだった。

 自分でマッピングをしなければ、ここの砂漠で迷子になり、現実世界に帰れずに野垂れ死ぬ可能性がある。

 書く物も目印になるものもない俺達は積んでしまった。

 俺は頭を抱えて困っているが、桃乃は特に気にしている様子はない。

「ももちゃん帰れなくなるぞ……」

「大丈夫ですよ! 情報技術セクターでパッシブスキル自動マッピング・・・・・・・を手に入れました」

「えっ!?」

 まさかの桃乃が優秀なパッシブスキルを手に入れていた。

 同じ情報技術セクターのETFを買っていても、手に入るスキルは全く違うらしい。

 俺達は桃乃の自動マッピングを使いながらオークを探すために砂漠の中を歩くことにした。


――――――――――――――――――――

《ステータス》
[名前]服部はっとりさとし
[能力値] 投資信託7,100,000口
HP体力 164 (+45)
MP魔力 5
STR物理攻撃力 158 (+45)
INT魔法攻撃力 4
DEF物理防御力 160 (+45)
RES魔法防御力 10
DEX器用さ 11
AGI素早さ 14
LUK 0
[固有スキル] 新人投資家
[パッシブスキル] 神光智慧大天使ウリエル 、神癒慈悲大天使ラミエル 、HP自動回復、疲労軽減、自動アイテム生成
[魔法スキル] 木属性魔法
[称号] 犬に好かれる者

――――――――――――――――――――
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...