116 / 158
第二区画

116. 我は獣人……です涙

しおりを挟む
 俺はコボルトだと思っていたやつを撫でていたが、どうやら違う存在だったらしい。遠くから全体像を見ないと体が人間なんて普通は気づかないだろう。

 初めて見る獣人に俺は釘付けだ。

「ケッケケ! やっと我が偉大な存在だと気づいたのか」

「あー、獣人ってやつだろ? 確か馬が走るやつ……」

「マキ○オー?」

「ウ○娘!」

 どうやら俺と獣人の彼とは思っている作品も違うようだ。
 
「あれは先祖から我ら獣界でも神作と言われている」

 コボルト界でも馬のアニメなのに放送されていたらしい。

「それで獣人さん? こいつらはどうやって戻るんだ?」

 俺は獣人に尋ねると、どこか不服そうに俺を見ている。

「我は獣人じゃ……」

「獣人だろ?」

「ヌヌヌ……」

 獣人は笑う時は"ケケケ"と言うが、困った時は"ヌヌヌ"と言うらしい。ちょっと変わったやつだがそれも獣人の個性なんだろう。

「そういえば、なんでお前ってこんなところにいるんだ?」

 今俺がいるのはどこから見ても小学生程度の年齢の部屋だ。勉強机やベッド、それに本棚やテレビもあって全てが獣人サイズになっている。

「……」

「ははは、今度はヌヌヌって言わないんだな」

「我を笑うんではない!」

 獣人からは今までの魔物には感じたことのない、殺気を感じた。俺の後ろにいたコボルト達がその場で倒れるぐらいだ。

「ごめんごめん! だって変わってて面白いじゃん」

「面白いって我の顔を見て言ってるのか!」

「おいおい、そんなに強い圧をかけるなよ。俺の友達が倒れちゃうじゃないか」

 アイテム欄を開き、自動アイテム生成から再び作成していたアイテムを取り出す。

――――――――――――――――――――

《ヒーリングポット》
効果 生物の気持ちを落ち着かせる匂いを放つ。特殊効果は不明。

――――――――――――――――――――

 見た目はエ○テーの消○力だ。

 ヒーリングポットを置くと、周囲にリンゴの優しく甘い匂いが広がっていく。

 コボルト達もその匂いを嗅ぐと、元気になったのか起き上がり、尻尾を振っている。

 相変わらず振る勢いが強すぎて、体が飛んでいきそうで笑ってしまう。

「今我の顔を見て笑ったんじゃないか!」

「ん? お前の顔? コボルトみたいで可愛いじゃないか」

「かっ……可愛いって我をなんだと思ってるんだ!」

「えっ、獣人かコボルトじゃないのか?」

 正直に答えると獣人は驚いた顔で俺を見ていた。さっきから顔に固執しているが、コンプレックスなのだろうか。

 俺としてはもふもふして可愛いとしか思わない。

「お前って言うのもあれだから名前教えてくれよ」

「聞いて驚け! 我の名前はアヌビスじゃ!」

「アヌビス? いや、なんかもうちょっと普通の名前があるだろう?」

 この部屋に入ってきた時に感じたが、きっとこの獣人は厨二病なんだろう。

 俺も通ってきた道だからわかるが、その辺に置いてある本やフィギュア、本棚からは少しエッチなタイトルのラブコメタイトルが顔を覗かせている。

「我はアヌ……ビ……リョウタ――」

「ん? リョウタって言ったか?」

 聞こえづらかったが、獣人からリョウタという名前が聞こえてきた。ちゃんとした飼い主がいたのだろうか。

「我は……我は……リョウ……タ? グァー!!」

 突然獣人は苦しみ悶え出した。床を削るように爪を立てている。

 どこか猫の爪研ぎに見えてしまったのは黙っておこう。

 俺はヒーリングポットを全て取り出し、獣人の近くに置く。まず落ち着かせるためには、撫でることが大事だとム○ゴ○ウ大先生に教えてもらった。

 後ろにいたコボルト達も心配なのか、獣人を囲んでいる。

「おい、もう大丈夫だぞ。俺がいるからな」

 安心するように声をかけ続けると、次第に息が落ち着いてくる。やはり頭しか獣の姿をしていないが、もふもふして癒される。

 その後も獣人は撫でられ続け、気づいた時には20分は経っていた。

「お前は我の顔が気持ち悪くないのか?」

「顔か? だから可愛いって言っただろうが!」

 俺は獣人のおでこをデコピンする。

「痛っ!?」

 軽くやったつもりが涙目になっているため、結構痛かったのだろう。そういえば、大きな獣人だからよかったが、人間にやっていたら頭が弾け飛んでいたかもしれない。

「それで……リョウタだっけ? なんでコボルト達はアンデットの姿なんだ?」

「こいつらは我が生き返した存在だ」

「えっ……コボルトって死んでるのか?」

「そうだ」

 俺はコボルト達に聞いても頷いている。どうやら獣人……いや、リョウタの話は間違いではないらしい。

「そうか……ならこいつらを助けてくれてありがとうな! 俺の友達みたいなもんだからな」

 俺の言葉を聞いてコボルト達は尻尾を振っている。

「おいおい、骨のお前は振ったら骨が飛んで……あー、また誰のかわからなくなるじゃんか」

 必死に骨を集めてコボルトに渡した。俺の動体視力だと誰がどの骨なのかはしっかり見ているからすぐわかる。

「ははは、面白いな」

 そんな俺達を見てリョウタは笑っていた。

「リョウタも普通に笑えるんだな! まぁ、俺としては"ケッケケ"も"ヌヌヌ"も好きだけどな!」

「……」

「いや、そこで黙るなよ。俺が告白したみたいじゃないか!」
 
「……」

 リョウタは咄嗟に俺とは反対の方を見ている。

 ん?

 ひょっとしてこいつ照れているのか?

「おーい! こっち向けよ」

 俺はにやりと笑いながら、リョウタの顔を覗き込もうとするが、それを上回る速さで首を動かしていた。

 コボルトの親玉も動きに関しては過剰のようだ。

「ケッケケ! わっ……我は元気だぞ!」

「ほー、なら顔を見せてもらおうか? リョウタ一時停止!」

「ヌ! なぜお主には逆らえないのじゃ」

 リョウタは必死に顔を動かそうとしても動けないようだ。恥ずかしそうに顔を赤く染める姿を見て、コボルトではなくやはり獣人なんだと再認識した。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...