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第二区画

121. ドキがムネムネ

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 俺がオフィスで仕事をしていると桃乃が同期の栗田くんに呼ばれた。

「ねぇ、営業課の栗田くん今日は眼鏡をかけているわよ!」

「わぁ、黒髪美男子で眼鏡って最強じゃないの」

 今日も総務課は女性達の声で賑わっている。モデルのようなすらっとしたスーツ姿に眼鏡は最強らしい。

「なぁ、服部。なんで女はああいう男が好きなんだ?」

 部長は俺の肩に腕を組んで話しかけてきた。なぜこいつに話しかけられないといけないのだろうか。

 今日もタバコ、コーヒー、加齢臭のトリプルパンチの悪臭を放っている。

「あそこもみてみて」

「あはは、モブ×モブじゃないの……」

「ははは、誰得よ! やっぱりイケメンに限るわね」

「ははは、今度は俺のことを言っているぞ? やっぱり女は同じ部署には必要だな!」

 だから俺にべちゃべちゃと触らないでくれ。何を言っているか俺には聞こえている。耳に入ったのは完全に悪口だ。

「部長、ちょっとトイレに行ってきます」

 俺はその場から離れるために、トイレに向かう。笹寺がいたら今頃あいつと休憩していただろう。

 オフィスに戻ろうとすると、まだ桃乃と栗田は話していた。

 間近で見ると二人ともキラキラ感がすごい。どこかのアイドルグループのようだ。

 隣を通り過ぎようと横向きになると、突然声をかけられた。

「先輩、この前のカードキーを覚えてますか?」

 俺が桃乃に見せられたのは、異世界で見つけた白骨遺体の鞄に入っていたカードキーだ。

「それがどうしたんだ?」

「いやー、楓に聞いてみたら営業部で聞いたことがある名前だって言うんで…….」

 俺が栗田を見ると彼は頷いていた。

「僕が入社する前のことなのでわからないですが、先輩なら知ってると思いますよ」

「先輩?」

「ほら、今後ろに――」

 後ろを振り返るとそこには、笹寺が脅かそうとしていたのか手を前に出して立っている。

 俺にバレたからか、大きなため息を吐いていた。

「おいおい、反応が薄いだろ! そしてクリチン俺の存在をバラすなよ」

「あっ、まだ服部さんとは会ってなかったんですね」

 どうやら笹寺は今日から仕事に復帰したらしい。きっと父親が病院から退院したのだろう。

「せっかく驚かそうと思ったのに……。そういえば、ここで集まって何をしているんだ?」

「笹寺さんはこの方知ってますか?」

 桃乃はカードキーを見せると、裏表を確認する。名前と顔写真を見て笹寺は頷いていた。

「ああ、今井さんだろ? 営業課で大きなミスをした時に損害額が酷くて、地方に左遷になったはずだぞ」

「左遷ですか……」

 その言葉にどこか胸騒ぎがする。

 白骨遺体が誰のものかはわからないが、なぜ営業部にいた人物の鞄が異世界にあったのだろうか。

「それにしてもなんで今頃こんなカードキーが出てくるんだ?」

「拾ったけど見たことない顔だったので、今いる人なら届ける必要があると思いまして」

 確かに言っていることは間違いではない。

 ただ、すぐに言い訳を考えられる桃乃の頭の回転の早さに驚いた。

 いつの間にそんなにできる後輩になったのだろうか。

「この話も昔から働いている営業課ぐらいしか知らないしな」

 地方に左遷したことについては、会社としてあまり広まらない方が他の社員には良いという判断だろう。

 だから、俺も左遷された人自体のことを知らなかった。

「それよりもお前ら早く戻らないとやばいぞ!」

 笹寺の視線の先に目を向けると部長がいた。

 背後には真っ黒なオーラを放っている。またイライラしているのだろう。

 すぐにタバコやトイレ休憩する部長と違って、倍以上働いている俺達が少し話していたぐらいで仕事に支障はない。

 自分が仕事をサボっていないのが、そんなに嫌なのか。

「先輩戻りましょうか」

 俺と桃乃は部長の視線が気になりデスクに戻ることした。

「そういえば明日から海外出張だからしばらくいないぞ!」

 復帰早々に笹寺は出張に行くことが決まっていたらしい。できる営業マンは海外でも、仕事が待っている。

「海外って初めてだよな?」

「おう! どうにかなるさ!」

 笹寺は俺の肩を叩くと手を振って去って行く。
 なぜか笹寺のその後ろ姿に違和感を感じていた。
 いつも見えている赤色のオーラが何かわからない黒っぽいモヤに侵食されている。

「先輩、早く行きましょうよ」

「ああ……」

 どこか胸騒ぎを感じながらデスクに戻ると、そこには大量の仕事が山積みになっていた。

 部長はこちらを見ては気持ち悪い顔で笑っている。

 嫌な胸騒ぎはこれが原因だったのだろう。

 その後、俺は普段よりもスピードを上げて仕事を定時に終えた。普段は60%ぐらいの出力で仕事が終わるようになったからか。

 颯爽と帰る俺に部長は悔しそうな顔をしていた。
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