【完結】婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
4 / 40

4.筋肉令嬢、初めての仕事

しおりを挟む
「アシュレイ!」
「だって、使えない護衛ばかり集めても意味がないじゃないか!」

 アシュレイと呼ばれている青年はガレスさんに歯向かう。
 きっとそれだけルシアン様の護衛が大変なんだろう。
 使えない護衛ばかりで意味がないのは私も同感だ。

「私が実力をお見せすればいいですか?」

 私は拳を握りしめて、アシュレイに向けて突き出す。

「おう! わかってるじゃないか!」

 それに応えるように、アシュレイも私の拳に己の拳を重ねる。

「アシュレイ! 勝手なことをするな!」

 ガレスさんの止める声も虚しく、アシュレイと私は別の場所に移動する。
 こんなところで手合わせなんかしたら、一瞬で騎士団本部が壊れちゃうわ。

「あっちが兵舎で、ここが主に訓練をするところだ。走り込みは足場が悪い本部入り口周辺でやる方がためになるぞ」
「はあぁ……」

 訓練場に向かうまでアシュレイは騎士団本部の中を案内してくれた。
 しかも、所々アドバイスまでしてくれて、さっきまでのピリピリしていた雰囲気が嘘みたいだ。

 訓練場の中には、様々な武器が置いてあるがどれも手入れが行き届いていた。
 ただ、どれもが古びているため、力を調整しないとすぐに折れてしまいそうな気がする。

「じゃあ、剣はここのやつを使え」

 アシュレイから剣を手渡されるが、私は首を振る。

「剣も持てないやつにルシアン様の護衛を任せられるかよ!」 

 その様子を見て、アシュレイの眉間に皺がよる。
 別に怒らせるつもりはない。
 だって――。

「私は正々堂々と拳で戦います」

 その言葉にアシュレイはニヤリと笑って剣を置いた。

「なら俺もそれに応えるだけだ」

 どうやらアシュレイも剣を使わずに手合わせをしてくれるようだ。
 私の周りには素手の私に対して、剣を使うものばかりだった。
 父様と兄様しかちゃんと向き合ってくれなかったからね。

「ふふ、ありがとうございます」
「うっ!」

 本当にここに来たら嬉しいことばかりだ。
 ついつい笑みが溢れてしまう。
 アシュレイも手合わせできて嬉しいのか、少し頬が赤く染まっていた。
 私はアシュレイから距離を開けてお辞儀をする。

「よろしくお願いします!」
「リリナ、いいか。やりすぎはダメだぞ!」

 ガレスさんは私を応援するように声をかけてくれた。
 もちろん全力でやるのはいけないってわかってるわ。
 私が全力を出すと、山が吹き飛んでいってしまう。
 だから……今回は8割ぐらいの力なら大丈夫かしらね?
 私は正々堂々と手合わせをするだけだ。

 いつのまにか周囲には、他の騎士たちが集まり、私たちの手合わせに注目が集まってきた。

 私は準備運動がてらに、その場で拳を何度も振る。 力のコントロールをするのも簡単なことじゃないからね。

――ズバァン!

 空気が裂け、耳元で雷鳴のような轟音が鳴り響く。
 今日も調子は良さそうだ。

――ピシィィ……バキィィィッ!

 風圧が近くの窓ガラスを粉々に砕いていく。

「……やべぇな。俺って運良く命拾いしたな……」

 アシュレイは額の汗を拭って、ゆっくりと地面に片膝をついた。
 あれは彼の手合わせ前の準備運動なのかしら。

「準備はでき――」
「降参します!」
「えっ……!?」

 アシュレイの言葉に私は驚いた。
 せっかくの手合わせなのに、戦う前から降参されてしまった。

「リリナ、周りをよく見てみろ!」

 ガレスさんの言葉にハッとした私は周囲を見渡す。
 そこには驚いた顔をしている騎士たちと訓練場の物が吹き飛んだ痕跡があった。

「私、まだ何もして……ないわけないですよね……」

 まさか準備運動の素振りで、訓練場が荒れるとは誰も思わないだろう。
 我が家ではそんなこと一度もなかったのにね……。
 やはり施設自体も頑丈ではないようだ。
 そこにお金を使うなら、この国に住む人たちが裕福な生活ができた方がいいもんね。

 ただ、その反面周囲には良い影響を与えていた。

「うおおおおお!」
「なんだあいつ、めちゃくちゃ強いじゃないか!」
「剣がなくても騎士になれるじゃないか!」

 なぜか周囲から歓声が沸いていた。
 騎士はどんな時でも剣を持たなければいけない。
 ここでもそんなことを言ってるのかしら。

「拳が一番に決まってる」
「はぁー」

 私の言葉にガレスさんは大きなため息をついていた。
 ほら、ガレスさんだって今頃何を言ってんだって顔をしているわよ。
 それを私が証明できてよかった。

 そんなことを思っていると、アシュレイが立ち上がって、こちらに向かってきた。
 
「さっきは酷いことを言ってすまない。君を騎士団に歓迎する」

 無事に私は受け入れられたんだ。
 そう思うと私も嬉しくなる。
 私はにこりと微笑み、手を前に出した。
 だが、アシュレイは私の手を掴むことなく、後退りしていく。
 お互いを認めたら強く握手すると思ったけど、違ったのかしら?

「挨拶はそこまでして……皆に紹介する。今日から騎士団に入団したリリナだ!」

 ガレスさんは私を紹介してくれた。
 これで私はルシアン様の護衛騎士として、一歩を踏み出せるだろう。
 
「それよりもお前ら……まずは壊れた訓練場を片付けるぞ!」

 ガレスさんの怒号が飛び、騎士たちは慌てて動き始める。
 私はアシュレイさんの方を見て、にこりと笑った。

「訓練場を壊したのはお互い様ってことで」
「俺、何もしてない……はずなんだけどな……?」

 そんな軽口を交わしながら、私は騎士としての一歩を踏み出した。
 きっと、ここでもやっていける――そう思った。

「お掃除なんて初めてだわ。とりあえず、全て吹き飛ばせば――」
「よし、お前は何もするな!」

 拳を構えた瞬間、ガレスさんに止められてしまった。
 私の騎士団としての初めての仕事は、何もせずに待機することだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...