【完結】ダンジョンに閉じ込められたら社畜と可愛い幼子ゴブリンの敵はダンジョン探索者だった

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 社畜、パパになる

1.社畜、迷子になる

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「君はいつになったらできるんだい? 縁起が良いのは君の名前だけかい門松かどまつくん」

「すみません。でも課長が――」

「君はいつもそうやって人のせいにするね」

 俺はいつものように頭を下げる。

 会社に勤めて三年が経った。

 何か言い返せば上から押さえつけてくるように言葉を放ってくる。

 今回の提出した書類も、一度課長に目を通してもらったものを修正して提出している。

 それなのに毎回、自分の気分次第で仕事の良し悪しが変わる。

 ずっと謝ってばかりで、全てが嫌になってくる。

「本当に君みたいな子をまだ雇っているだけでも、感謝をして欲しいぐらいだね」

「すみません」

 俺の話を聞かない奴に言い訳をしても無駄なだけだ。

 ただ、その場が過ぎるのを謝って待つ。

「君は謝ることしかできないのか。本当に使えない子は何年経っても使えないな」

 まとめられた紙で何度も頭を叩かれる。

 その紙も俺が寝る時間を削って作った資料だ。

 周囲を見渡しても誰も助けてくれる人はいない。

 みんな自分のやる仕事のことで頭がいっぱいなんだ。

 俺はそうやって言い聞かせるしかなかった。

 実際ここで口を挟んだら、自分達が巻き込まれるとわかっているからだ。

 助けてくれた他の先輩はみんな病気で退職したからな。

 ――バサッ!

 何度も叩いた拍子に紙が飛び散り、周囲に俺が作った資料がばら撒かれる。

 毎回茶番のように行われるこの決まった流れにも呆れる。

「ほらほら、早く片付けて仕事に戻りなさい。あっ、残業なんて申請できると思うなよ」

 そう言って課長は俺が紙を拾うのをニヤニヤしながら、上から見下ろしていた。

 本当に性格の悪い課長に腹が立って仕方ない。

 ただ、毎日何回も怒られるとその気持ちも次第になくなる。

 あるのは早く家に帰って、美味しいご飯を食べてぐっすり寝たい。ただそれだけだ。

「すぐに修正してきます」

 俺は紙を拾うとすぐに自分のデスクに戻った。

「おーい、由美ちゃん! コーヒーはまだかね?」

「すぐに準備します」

「そんなじゃ嫁に行けないぞ。ああ、君にはその胸があるから良いか」

 他の女性職員にもセクハラを当たり前にするようなやつだ。

 これが俺の勤める会社での当たり前の光景になっている。

 こんな状況でなぜ仕事を辞めないのか?

 それは転職活動をしようにも、再就職も厳しいと言われているこの時代だからだ。

 世界でエネルギー不足と言われ、毎日節電や節水に協力してくださいとニュースで言われている。

 機械を使う生産業の中小企業は多くが倒産し、残っているのも有名な大企業ばかり。

 その結果、就職率が数十倍から数百倍のところもザラではない。

 それに物価もどんどんと上がっていき、今じゃ貧乏の味方だった卵も1パック500円もするぐらい値が上がっている。

 その分給料も上がってこれば良いが、上がるのは税金ばかりだ。

 何のために生きているのだろうか。

 そんなことを考えるのも嫌になるぐらい、ここ数十年で日本は変わってしまった。

「はぁー、今日中に帰れるかな」

「もう俺達の家はここだからな。じゃあ、仮眠するわ」

 隣に座る同期の生田が声をかけてきた。

 10人以上もいた同期ももう俺と生田しかいない。

 交通機関を使って一時間かかる彼は、会社に寝袋を用意して寝ることが多い。

 そんな俺も昨日まで寝袋で寝ていた仲間だ。

「ああ、おやすみ。俺は絶対帰るからな」
 
 俺はその後も日が暮れるまで仕事を続けた。

 ♢

「はぁー、風呂に入ってから寝たらギリギリ四時間は寝れるかな」
 
 スクーターに乗って俺は家に帰っていく。

 田舎に住む俺は交通機関より車の方が楽だが、車だと維持費が高いためスクーターで通っている。

 ただ、節電の影響か前より街灯は減り、周囲は真っ暗だ。

 この時間に外に出る人の方が少ないからな。

 町外れに住む俺は畑や田んぼの隣を横切っていく。

「あー、眠い……」

 勝手に閉じそうになる瞼を必死に持ち上げるが、あまりの眠気にその場で寝てしまいそうだ。

 景色に何も変化がないのもいけないのだろう。

 それに夜中にやっているお店もないため、真っ暗なのがさらに眠気を誘う。

 コンビニですら0時には閉店している。

「うぉ!?」

 突然目の前を走る猫が俺の目の前に止まった。

 猫って本来は夜行性だから、突然の光に目が眩んで動けなくなったのだろう。

 寝そうになっていた俺でも、急な刺激に脳が覚醒する。

 避けようとおもいっきりハンドルの向きを変える。

「うわあああああ!」

 そのままスクーターと一緒に投げ出されるように、俺は畑に落ちていく。

 崖じゃなくてよかったと思いながら、ゆっくりと体を起こす。

「ケガしなくてよかったわ……。いや、せっかくの労災チャンスを逃したか」

 ここで怪我をしていたら、労災認定されて仕事を休めただろう。

 いや、あんな会社じゃ労災にもならないかもしれないし、動けなくても仕事をさせられそうだ。

 こんな時でも仕事のことを考える俺の頭の中は、社畜仕様になっていた。

 俺はスクーターを起こすと、スマホのライトでガソリンが漏れていないか確認して再びエンジンかける。

 スクーターは倒れると安全のためにエンジンが切れるからな。

――ブルンブルン

 どうやらエンジンは無事のようだ。

「あれ、電気がつかないぞ」

 ただ、電気システムはうまく作動していないのだろうか。

 スクーターのライトの代わりをスマホの明かりで代用する。

 俺はゆっくりとスクーターを押して畑から出る。

 周囲は暗くても一本道のため、そのうち自宅に着くだろう。

 そんな気持ちでスクーターに座りながら、再び走らせる。

 ♢

 どれだけ走ったのだろうか。

 いまだに家が見えない。

 いつもなら家に着いても良いぐらいなのに、周囲はずっと同じような見た目をしている。

「ふぇ!?」

【ダンジョンへようこそ!】

 急に視界が明るくなると、同時に何か声が聞こえてきた。

「えっ……急に朝?」

 俺はトンネルの中でも通っていたのだろうか。

 周囲は草原で日差しが強い晴天だ。

 転んだ時に頭でもぶつけたのだろうか。

 それにしてもさっきまで夜中だったのに、日中のように明るい。

【ダンジョンマスターの権限を付与します】

「だっ……誰だ!?」

 突然聞こえてくる声に周囲を見渡しても誰もいない。

 それに俺はどこからきたのだろうか。

 振り返っても畑や田んぼが一切見当たらない。

 ただただ、俺は草原の真ん中にいた。

【スキルポイントを振ってください】

「だから誰な……なんだよこれ……」

 突然目の前に現れる謎の半透明な板。

 文字がたくさん書いてあるが、今はそれどころではない。

「やっぱり俺おかしいわ。病院に行かなあかんな」

 畑に落ちた時に頭でもぶつけたのだろうか。

 寝不足なのもあり、幻覚でも見えているような気がした。

 だって、突然タブレットのようなものが目の前に浮いていることなんてないからな。

 俺はそのままスクーターに乗って草原を走る。

「消えた……?」

 しばらくすると半透明な板は消えていた。

 それでもまずは帰ることが先だろう。

 ただ、スクーターで走っても一向に建物すら見えない。

 ここまで草原が続いていると、どこか不気味に感じてくる。

「寝不足が原因か?」

 俺はスクーターを止めてその場で休むことにした。

 あまりにも疲れが溜まっておかしくなったのだろう。

 昨日も一昨日もほぼほぼ寝ていない。

 それが影響しているのだろう。

 草原を吹き抜ける風と暖かい太陽の光に俺は眠気が出てきた。

「少し寝てから考えるか」

 きっと考えても今の状況は整理できないだろう。

 頭もぼーっとしているからな。

 俺はスクーターを背にして、少し目を閉じて仮眠することにした。

 ♢

「ゴボッ!」

「まだ寝かせてくれ」

「ゴボボボ!」

 何かが俺を突いて起こそうとしてくる。

 まだ仮眠して一時間も経っていないはずだ。

「ゴーボオオオオ!」

 俺は体がふわりと浮いているような気がした。

 ゆっくりと目を開けると、やはり俺は浮いていた。

 正確にいえば何かに持ち上げられている。

「おおおい! 今すぐ下ろしてくれ!」

 何に持ち上げられているのかはわからない。

 ただ、そこまで視野が高くないため、俺よりも背丈が小さくて力が強いのは確かだ。

「ゴボッ!」

 持ち上げているやつは理解したのだろう。

 そのまま手を離した。

「うわあああああ!」

――ドン!

 俺はそのまま地面に叩きつけられた。

 背中に感じる痛みに寝ぼけていた頭が覚醒した。

「痛たた……」

「ゴボッ?」

 俺がゆっくりと体を起こすと、目の前に汚れた全裸の園児がそこにはいた。

 黒髪で黒い瞳の幼子は、俺の顔を見て首を傾げている。

 まさかこんな幼子に俺は持ち上げられていたとは思わなかった。

 それに言葉がわからないのか、ずっと〝ゴボゴボ〟と溺れているような言葉を発する。

「えーっと、君の名前は?」

「ゴボッ?」

 やはり言葉が通じないようだ。

「俺は門松かどまつ透汰とうた

「ゴボッ?」

 んー、どうやったら伝わるだろうか。

 変わった草原で初めて出会った人物のため、ここがどこか聞きたかった。

 仮眠して思ったが、やはりここは俺の知っている場所ではなかったということだ。

 そう思ったら帰るためにも情報収集が必要になる。

「俺の名前は……と! う! た!」

「とー……たん? とーたん?」

「とーたん? いや、俺はお父さんじゃないぞ?」

「とーたん! とーたん!」

 幼子はなぜか俺の名前を嬉しそうに何度も呼んでいた。

 そんなことで嬉しいなら別に俺は〝とーたん〟でも構わない。

 ただ、父さんと呼ばれている気がする。

「俺はとーたん。君は?」

 再び幼子に名前を尋ねる。

 手でジェスチャーもつければ少しはわかるだろうか。

「ゴボ……たん?」

「ゴボタン? ゴボタ?」

 最後がうまく聞こえなかったが、ひょっとしたら名前が〝ゴボタン〟か〝ゴボタ〟なんだろうか。

 何度か確認すると幼子は俺の周りをくるくると回り出した。

「ゴボタ! ゴボタ!」

 どうやらゴボタという名前で合っているらしい。

 ただ、さっきよりもどこか体が重だるくなった気がした。

 瞼も自然と閉じていく。

「ごめん、まだ眠いわ」

 だんだんと意識が薄れていく中見えたのは、心配そうに俺の顔を覗き込むゴボタの顔だった。

───────────────────
【あとがき】

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