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19.配当のスキル玉

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 少しずつ魔物が倒せるようになった俺は今日も魔石をメジストの錬金術店に持ってきていた。

「メジストさん買い取りお願いします」

 以前はカウンターにいたメジストは最近お店の後ろにある工房にいることが多くなった。

「はいはい、今日も買い取りか」

 俺がいつも呼ぶとめんどくさそうにはしているが、ちゃんと工房からお店に出てくるのはメジスト自身も俺が持ってくる魔石を大切に思っているのだろう。

「今日も風属性の魔石をお願いします」

「一つ4000Gだが問題ないか?」

「それで問題ないです」

 ホーンラビットから出る普通の魔石は100G程度で買い取ってもらうことが多いが、俺の魔石は40倍で買い取ってもらっている。

 メジストの錬金術店は俺が魔石を買い取って貰うたびにスキル玉を作る機会が増えて、少しずつお店の軌道は戻ってきているらしい。

 お店に出るより工房にこもっていることが多いようだ。

 まさか魔石からスキル玉を作っているとは思わなかった。

 その結果スキル玉が出回ることも増え、最近では冒険者ギルド内でもスキル玉を持っている冒険者がちらほらと出てきている。

 基本的に魔石の色が単色であればスキル玉を作ることができるため、俺が倒せるホーンラビットの魔石から作れる【風属性】に関与したらスキル玉のみが出回っている。

 また、下位の魔物であるホーンラビットの魔石では限度があるため、回数制限があるスキル玉しか作れないらしい。

「買取ありがとうございます」

 俺はメジストにお礼を伝えると宿屋に戻った。俺にはどうしても今日中にやることがあった。





 俺は部屋に戻るとスキル玉を眺めていた。なんと俺の読みが当たり、今日の朝にブリジットのスキル屋から配当としてスキル玉をもらったのだ。

「でもこれって本当にスキル玉なのか?」

 目の前に置いてあるのは、手に入れたスキル玉とメジストからもらったスキル玉だ。

 見比べるほどスキル玉と同様に魔力を感じるが、どこか見た目が違う。

 正確にいえばメジストのスキル玉はまん丸だが、配当で手に入れたスキル玉は歪な形をしており、石のような印象を受ける。

「まずは鑑定でも――」

 俺は残り少ない鑑定のスキル玉を使うが、何かに阻害されて鑑定ができない仕組みになっていた。

「1回しか使えない可能性を考えると勿体ないけど効果が分からないものをずっと持っててもな……」

 あとはスキル玉の違いとして、配当で手に入れたスキル玉は重さが倍近くあった。だからこそ持ち運びするには邪魔になってしまう。

 迷った結果、配当でもらったスキル玉を使うことにした。

 魔法が封じ込められていると建物を壊す可能性があったため、街から出て人目がつかない森へ向かった。

「よし、なんでもかかってこい!」

 俺は意気込んでスキル玉を発動させるが、魔法が発動するわけでもなく、辺りは静けさに包まれていた。

 聞こえてくるのは風が吹いている音のみだ。結局スキル玉だと思っていたものは、ただの石なんだろうか。

「こんな石が欲しくてお金を稼いでいるわけではないのに!」

 俺はスキル玉を投げようと手を上げた時に、突然声が聞こえてきた。

『スキル【吸収】を手に入れた』

 突然脳内に響く声に俺は警戒し短剣を構えた。だが辺りの静けさは変わらない。

 周辺にも俺以外に誰も存在していないのだ。

「あれ、どこいった?」

 気づいた時には配当で貰ったスキル玉を右手に持っていたはずだが、スキル玉は俺の手から無くなっていた。

 どこを探してもスキル玉は落ちておらず、結局捨てようとしていたため、俺は諦めてそのまま宿屋に帰ることにした。

 初めて配当で失敗したものをもらったことを後悔しながらも、良い勉強になったと実感した。これでルドルフの鍛冶屋のみ購入すればいいとわかったのだ。

 俺が街に帰るために森の中を歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。

「いやああああ!」

 森の中で響いたのは甲高い子供の声だった。

「ブヒヒイィィ!」

 急いで走るとそこには、小さくうずくまった子供達をオークが襲っていた。子供達は逃げることもできないようだ。

「お兄ちゃ……ん」

 女の子はお兄ちゃんと呼びながらも上から覆い被さり抱きしめていた。

 俺は足に力を入れておもいっきり飛び込む。すると匠の靴の効果もあり、一瞬でオークの懐に潜り込んだ。

 ただ、速度の制御ができずに俺は短剣を持ったままオークに突撃するように短剣を突き刺した。

「ブヒヒイィィィ!!」

 オークはそのまま後ろに倒れると、俺は馬乗りになっていた。このままではやられてしまうと思った俺は短剣でさらに何度もオークを突き刺した。

 オークの叫び声が森の中へ響くが今はそれどころではない。

 オークとは戦ったことはなく、体格自体も俺より大きいのだ。少し油断をすれば押し返されてしまう。

「お兄ちゃん!」

 俺は近くで必死に兄へ声をかけている女の子の声で現実に戻された。

 オークは俺の足元で動かなくなり力尽きていた。どうやら俺は初めてオークを倒したのだ。

 力が抜けた俺は腕を上げて喜びを噛み締めた。
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