最弱の荷物持ちは謎のスキル【証券口座】で成り上がる〜配当で伝説の武器やスキルやアイテムを手に入れた。それでも一番幸せなのは家族ができたこと〜

98.俺は転生者なのか？

　縛りつけられている人達を横目に見ながら森に向かった。日が暮れると何かを求めて遺体からスライムの触手が伸びてくるのだ。

「あいつらって同じ方向を向いて……」
　俺はどこか触手が向いている方向に違和感を感じた。どこか俺の心の中の何かが帰りたいと言っている。

　俺はここに来るまで特に気にすることはなかったが、縛られている人は様々な方向を向いているのに触手は同じ方向を向いていた。

「そういえばあの時何か聞こえたような」
　倒れる瞬間に聞こえた声に俺は自分自身に鑑定を使うことにした。

《ステータス》
[名前]　ウォーレン
[種族]　人間/男
[能力値]　力A/A　魔力A/A　速度A/A
[スキル]　証券口座、共鳴吸収、限界突破
習得:短剣術、鑑定、回復魔法、雷属性、氷属性、アイテムボックス
[状態]　個体スライムの分離体を吸収中

「どういうことだ！？」
　いつのまにか俺の能力値は限界まで上がり速度の限界もAに上がっている。
　そしてスキルの吸収も【共鳴吸収】へと変化していた。

　俺は共鳴吸収を詳細に見ると、今の俺の状態がスライムを吸収しているのかすぐにわかった。

《共鳴吸収》
レア度　レジェンド級(ユニークスキル)
説明　ある一定条件でスキルが発動された時に変化したスキル。スキル【吸収】の新しい姿。吸収持ち同士を共鳴させることで相手を取り込むことが可能。取り込まれる相手は可否を選ぶことができる。

　どうやら俺はスライムの触手に刺された時にスキルが進化してスライムを吸収できるようになったらしい。

「まさか……」
　俺はそっと縛りつけられている人に触れると血の循環が早くなった気がした。

　それだけ俺の鼓動はドクンドクンと波打つように拍動しているのだ。

　その度に俺は夢で見た記憶が明確になってきた。

「私の夫に何して……」
　きっとこの人の家族なんだろう。ただ、女性は俺と男を交互に見ている。

「お前達を守れてよかった」
　いつのまにか俺の口は誰かに操られたように勝手に動いていた。出ている声も俺のものではない。

　するとさっきまであったスライムの触手はどこかに消えた。女性はそのまま男に抱きつくと泣き崩れた。

「ああ、共鳴吸収ってこういうことか」
　改めてこのスキルの有能性を感じた。ただ気になるのはスライムが俺に吸収されるのを望んでいるということだ。

「どうか……娘を助けてください」

「お母さんもお願いします」
　その場から離れようとすると近くにいた人達は俺の周りに集まり頭を下げた。きっと俺が倒れている時に被害にあった方達だろう。

「今すぐ行かないと――」
　俺は今すぐにでもロンとニアを助けに行きたかった。

　共鳴吸収によってよりスライムの分体がどこに帰ろうとしているのかはっきりわかったのだ。

　きっとそこに行けばスライム本体がいて、ロンとニアがいるはずだ。　

「お願いします。　早く娘を楽にさせてあげたいんです」

「お兄ちゃん、僕のお母さんも助けてよ！　まだ生きてるんだよ」
　それでも年寄りや子どもが床に頭を擦り付けるぐらい必死に頭を下げているのを無視することができなかった。

　これを無視したらロンとニアが怒るだろうとなんとなく感じた。

　その後も俺は人の頼みを断ることができずにそのままスライムの触手を吸収していった。

　王都に住むたくさんの記憶と俺の知らない夢のような話が現実のように感じた。

「俺は転生者だったのか……？」
　頭をよぎったのはそれだけだった。

　ただ一つ記憶が曖昧になりながらも思ったのは家族の元へ帰りたいと俺の心は願っていた。