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129.偶然

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 荒野に向けて移動していくと魔王との戦いの凄さを感じさせられる。

「お兄ちゃんのお母さんとお父さんってすごいですね……」

「ああ」

 遠くから見たら荒野にしか見えなかったが、実際に近づいたら山が豪快に削られ、荒れ果てているのがすぐにわかるほどだった。

「今まで見た勇者と比べ物にならないほど強かったんだろうな」

「確か聖女って言ってたよね?」

「どこか俺の思ってる聖女と違うんだけどな」

 俺の知っているスキル【聖女】持ちは元パーティーのシャルロだけだった。初めは俺にも優しかったのにアドルに好かれるダメだったとはな……。

「にいちゃまた考え事してるの?」

「あー、前のパーティーのことをね」

「そうなんだね。 でも、にいちゃが一人になってなかったらオラ達と会えなかったから――」

「俺は今が幸せだから大丈夫だぞ」

 俺はロンを優しく撫でると急に敵意を向けている反応を感知した。

 すぐさまロンとニアを抱えてその場から避けるために飛ぶとさっきまで居た場所に大きな蜥蜴型の魔物が倒れていた。

「あー、せっかくのデートなのに邪魔者がいてめんどくさいわ!」

「それは私に言ってるのかしら?」

「シャルロ大丈夫。あれ私にも言っていると思うから」

「なんでアテナは剣を持つと性格が変わるのかしら? 夜も剣を持てばもっと積極的に――」

 また聞きたくない声に俺の鼓動は早くなった。息は荒く立っているのも辛い。

「はぁ……はぁ……」

「にいちゃ大丈夫」

「お兄ちゃんには私達がいるよ」

 二人の声に俺は強く打ち付ける鼓動を静かに抑えつけた。俺には大切な家族がいる。もうあいつらに悩まされることはないのだ。

「ねぇ、あれって――」

「ははは、こんなところで会えるとは奇遇だな。荷物持ちのウォーレンくん?」

 やはりあの男もいた。兄貴のように尊敬して慕っていたあの男が……。

「アドルもいたんだね」

 姿はあの時と変わらないはずがどこか小さく感じるのはなんでだろう。つい思ったことが口に出ていた。

「貴様、アドルになんてことを言うのよ」
 
 俺の声はどうやら届いていたようだ。スキル【女剣士】であるアテナは剣を抜いたまま飛び掛かって来た。

「にいちゃを守るのはオラの役目だ」

 俺に抱えられていたロンはいつのまにか背中に抱えていた匠の槍を取り出し、アテナの剣をいなした。

「なっ!?」

「そんなんじゃにいちゃには勝てないよ」

 ロンはさらに何発か突きを加えてアテナを後ろに下げた。

「すぐに突っ込むからダメなのよ」

「さっきからあなた達なんなのよ。もうこれ以上お兄ちゃんのライバルはいらないんだからね」

 ニアは何を言っているのだろうか。マリベルが得意の火炎魔法を発動したタイミングでニアは氷属性魔法を発動させた。

「ニアあいつの火炎魔法は――」

 俺の心配はいらなかったようだ。ニアの氷属性魔法はすぐに火炎魔法を包み込んで消滅させた。

 氷属性魔法より火炎魔法の方が強いと思っていた常識は覆された。

「ははは、お前がなんで勇者になったのかわかったぞ。お前奴隷を買ってそいつらの力で――」

 俺は静かに抑えつけていた鼓動は俺の体を早く動かした。匠の短剣を取り出すと俺はアドルに近づいた。

「ロンとニアは奴隷じゃない。俺の家族だ」

 俺の攻撃はアドルの剣で受け止められた。小さく見えたアドルの実力は勇者と呼ばれるだけのことはあるのだろう。

「えっ?」

「あれがウォーレンなの?」

「残念だったな」

「アドルってこんなに弱かったんだな……」

 ただ、もっと強いと思っていたがそんなに強くない気がした。

「おい、お前もう一度言ってみろ!!」

 どうやら俺は自分に言い聞かせたはずが口から出ていたようだ。その場は騒然とした空気に包まれていた。
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