ふわふわと、ふわり

月兎 咲花

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≪冬≫夜の散歩

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「うー、寒いね」
「だから寒いって言ったのに」
 僕らは空気が澄んで空の低くなった、星空の下を歩いていた。
 星空の下と言えば聞こえはいいが真冬の寒空の下でもある。
 ただ、本当になんとなく散歩に出たくなったのだ。
 娘が寝静まったのを確認して、久々にたった二人だけで夜空の下を歩くことにした。
 普通に寒いんだけどね。
「キミト君帰りにアイス買って帰ろー」
「寒いのに食べるの!?」
「寒いから食べるのです」
 なんともよくわからない、ドヤ顔を見せられる。
 娘にも一応アイスを買って帰ってあげよう、もしも二人で出歩いてたなんて知ったら文句を言われかねない。
 あとお土産ないの?もセットでだ。
「キミト君は、ひらりに甘いよね」
「はっ、エスパーか」
 思わず彼女に僕の思考を言い当てられて、びっくりした。
 そんな僕の反応を見てあははははと笑う彼女。
 その笑い声すら、口から出る息はすっかり白かった。
 二人でこんな風に笑うのは久しぶりかもしれない。
「二人でこんな風に笑うなんて久しぶりだね」
 彼女が僕にそう言った。
「うん、そうだね」
 僕は返事をしながら、夜空を見上げた。
「あっ、そうだ。コンビニにおでん買いに行かない?」
 そう僕は提案した。
「こんなに寒いもんね、あったまりそうだね」
「やっぱり大根、それと牛すじかな」
「キミト君はやっぱり爺臭い」
「えー、牛すじいいじゃん」
「私は、もち巾着とたまご♪」
 コンビニで買うおでんの具を二人で話しながら歩く。
 コンビニに着くといつかと同じように二人でレジでにある、おでんコーナーの前に立つ。
 メニューを見ながら「やっぱり大根は外せないよね」彼女に言われるまま大根を二つ入れてもらった。
 それから牛すじとたまごともち巾着と厚揚げを入れてもらう。
 あの日から、僕らがコンビニでおでんを買うときはこのメニューになってしまう。
 おでんを受け取って散歩を再開する。
 器の中を二人でそれぞれ順に食べる。
「ねぇ、キミト君。一つ交換しようよ」
 決まって彼女はこう提案する。
 僕はたまにはと牛すじを、彼女はもち巾着を。
「二人して珍しいね」と笑いあった。
 そんな時だった、目の前に車が突っ込んできた。
 彼女は咄嗟に僕を押したせいで、彼女だけが車に撥ねられた。
 僕は呆然として、我に返ると彼女に駆け寄った。
 特に外傷らしい、外傷は見たところないのだけど。
 彼女はピクリともしない。
 僕は慌てて救急車を呼んだ。
 来るまでの間もずっと彼女の名前を呼び続けたが反応はない。
 しばらくして救急車が到着するも、彼女はいっこうに目は覚まさない。
 救急車の中で病院に着くまで、声を掛け続けたが彼女は返事をすることはなかった。
 彼女は病院についても目を覚まさず、念のためにいろいろと検査をしてみたのだけれど特に外傷らしい外傷はないようだった。
 医者からは数日のうちに目を覚ますだろうから、しばらくはこのまま様子を見ましょうということだった。
 僕は家に帰ると泥のように眠っていた。
 その夢のなかで彼女が出てきて何やら言っていたような気がするけど、目が覚めた時には忘れてしまっていた。
「ぱぱ、起きて」
 僕の間の前にはまだ幼い娘がいて、僕をゆすって一生懸命に起こそうとしていた。
 僕はぼんやりとした頭を一生懸命起こそうとしていると。
「ままが居ないの」
 と彼女は言った。
 僕は彼女の言葉で夜の出来事は夢ではなかったんだと、現実が押し寄せてくる。
 僕は慌てて、彼女の着替えやらを集めて準備する。
「ぱぱどこ行くの?」
「ままのところだよ」
「ひらりも一緒に行こうか」
「うん、ままに会いたい」
 僕らは一緒に彼女の入院に必要なものをバッグに詰めた。
 
 ひらりと一緒に病院につくと、彼女は未だ規則正しい寝息を立てながら寝ている。
「まままだ寝てるの? まま起きて、ひらりとぱぱが来たよ」
 彼女にそう声を掛けるが目を開けるどころか、反応すら返ってこない。
 医者からは特に外傷はなく、遅くても2,3日すれば目を覚ますだろうと言われているので僕はそれを少しだけ気を長く待つことにした。
 面会時間ギリギリまで彼女の隣でひらりと過ごして、僕らは帰った。
「ママ早く起きないかなぁ」
「ママはお寝坊さんなんだよ」
 僕は頑張って笑った。
「パパ大丈夫だよ、ママすぐに起きるよ」
 そう娘に励まされる、ダメなパパだなと自分で思った。

 それから三日後──
 予定よりも1日遅く彼女は目を覚ました。
「ママおはよう」
 彼女が目を覚ましたのを一番に気がついたのがひらりだった。
 彼女はうれしそうに「おはよう」と今まで昼寝をしていたかのように微笑む。
 僕も彼女に「おはよう」と返した。
 検査のためしばらくは入院を継続することになった。
 僕らは彼女が目覚めたことに安堵をしたのか、その日は二人して泥のように眠った。
 翌日も彼女の元へ行き、隣に座って「もう元気そうで安心した」と伝えた。
「ちょっと寝てただけなのに、時間がびっくりするくらい過ぎてたね」
 なんて笑う。
「今日ひらりは?」
「君が起きたから、今日は幼稚園に送っていったよ」
「ごめんね」
「僕の方こそ、君が庇ってくれなければどうなってたかわからないし」
 あの時のことを思い出す。
 彼女が咄嗟にかばってくれたから、擦り傷程度で済んだのだ。
 僕の命の恩人兼妻と認識を改めないといけない。
「退院したらおいしいもの食べたいね」
「いいよ、好きなもの食べよう」
 彼女の提案に賛成をして、入院中に何食べたいか考えといてと伝えた。
 それからひらりを迎えに行くねと言って一旦病室をあとにする。
 
「ママ早くおうちに帰ろうね」
 幼稚園から直接彼女の病室へ連れて行った、ひらりが彼女の隣でそう言った。
「はやく帰るね」
 彼女がそう言うと、ドアをノックされる。
 どうぞと言って入ってきたのは、お医者さんだった。
 医者からお加減はどうですか、何か違和感や痛いところはありませんかと彼女は聞かれ。
 特に何もないです、と流暢に受け答えをしていた。
 彼女の様子を見た後すぐ、お話があるのでと僕だけが呼ばれた。
 廊下で、検査の結果も良好で特に問題となるところはないので、念のためもう少しだけ様子を見てから退院になると告げられる。
 僕は医者の話にホッとした。
 医者の背中を見送ってから病室に戻った。
「先生はなんだって」
「このままなら一週間後には退院できるって」
「ママおうちに帰れるの?」
 ひらりは嬉しそうに僕らに聞いた。
「うん、ママもうすぐ帰れるんだって」
「良かったな、ひらり」
 僕らが順に言うと、ひらりがパパよかったねと言った。
 二人ともその言葉に笑ったが、ひらりはぽかんとしていた。
 僕とひらりは彼女にまた明日と伝えて部屋を後にした。

 その夜彼女の容態は突然急変した。
 僕らが着くと彼女はオペ室で執刀されていた。
 看護師からの説明によると、突然苦しみ始めて意識がなくなったとのことだった。
 それから夜が明けるまで病院に居た、僕に現状を伝えた医者の前で膝を着いて崩れてしまった。
 ひらりは僕に聞いた「ママ帰ってこないの?」
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