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序章 異能力者転生編

第29話 全てが始まった場所

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アンデットの群れを突破し、二階堂達は敵の本拠地まで辿り着いた。

「…ついにここまで来たわ、オリエリンが居る屋敷、そしてかつて私が住んでいた故郷へ」

息を呑むノアが戦車から降りると、他の三人も地面に降り立った。
横に並ぶ二階堂達の視線の先に、森に囲まれた大きな屋敷が不気味に聳え立つ。

「乗り込む覚悟はいいか?いよいよ最終決戦だ」

二階堂が仲間達に言うと、応えるように鬼灯が口を開く。

「にしし!覚悟ならとっくに出来てるぜ!なんならここから私が、全部燃やし尽くしてやろうか?」

「馬鹿!死霊術網羅書を回収しなくちゃいけないのよ!
 それにオリエリンが浮遊能力を持ってるなら、すぐ逃げられちゃうわ!
 私達は乗り込むしかないの、彼女が居る場所まで迅速にね」

ノアが決意に満ちた眼差しを浮かべると、エットが気弱そうな声を出した。

「あ、あの…僕いつも風を頼りに視界を確保してるんだけど、
 風の無い室内じゃ、あんまり役に立たないっていうか…」

「うーん、そうねぇ…あっ!分かったわ!私に任せなさい!ようは風が起こせればいいのよね?」
 
閃いたノアが自身の翼を大きく広げ、エットへ笑みを浮かべる。

「な、なるほど!分かったよノアちゃん!それなら僕もなんとか戦えるかも!」

「よし、皆準備が出来たみたいだな。今から突入するぞ」

二階堂達が屋敷の扉まで足を進め、木の表面を強く蹴破り、敵陣へと侵入した。
屋敷内のエントランスに踏み込んだ二階堂達は、四方から来るアンデット達と対峙する。

「行くぞお前ら!奴の居る部屋まで直行だ!!!」

四人がアンデットの群れに立ち向かうと、高く跳び上がった鬼灯が群れに向かって火炎を放射する。

「おりゃああああ!!!全員燃えちまえ!!!」

ガーゴイルに変身したノアも、大きな拳をアンデット達に薙ぎ払う。
弓を構えたエットに、アンデットが迫り来ると、ノアが瞬時に彼女の方へ向いた。

「エット!今から風を送ってあげるわ!!」

ノアは大きな翼を豪快に羽ばたかせると、突風をエットの元に送り出す。
エットは風を感じ取り、目の前に迫るアンデットを完全に捉えた。

「っ!そこか!」

弓から放たれた鉄の矢は、目の前のアンデットを貫通し、奥にいた群れの数体に突き刺さった。

「ありがとうノアちゃん!これなら僕も戦えそうだよ!」

敵を次々と撃破する四人は、エントランスを着実に進んでいく。
するとアンデットを殴り飛ばしながら、二階堂があることに気づいた。

「おい皆!奥にある廊下から、コイツらが来てるように見えないか?
 もしかして廊下の向こうに奴がいるんじゃ!?」

「あの廊下の先は…ノワール様の書斎よ!
 オリエリンは、書斎からアンデットを送り込んでいるんだわ!!」

目的地を見定めた四人は、勢いを強めて廊下へと距離を縮める。
アンデット達を薙ぎ払いながら、廊下の奥に進む二階堂達。
そして奥にある扉まで辿り着くと、二階堂達は勢いよく扉を開き、薄暗い書斎へと突入した。

すると影に包まれた部屋の奥から、オリエリンが姿を現す。

「あら、あなた達わざわざここまで来たのね。
 来るって知っていれば歓迎してあげたのに…」

「フン、お前の悪事もここまでだ、オリエリン。
 異世界人のお前が犯した罪は、同じ異世界人の俺が裁いてやる」

「ふぅん、やっぱりあなたも元の世界の住民なのね。
 どうりで妙な異能を持ってると思ったわ、じゃあ異世界人同士、本名で語り合いましょう?
 私の名前は織江凛、あなたの名前は…」

彼女が言葉を言い終える前に、二階堂は構えを取って戦闘態勢に入った。

「貴様の茶番にも、戯言にも、命乞いにも耳を貸す気はない。大人しく倒されてもらうぞ」

敵を睨みつける二階堂に続き、仲間達も臨戦態勢を整える。

「全てが始まったこの場所で、全てに決着をつけてやるわ!!覚悟しなさい!!織江凛!!」

眼光を鋭くしたノアが、翼を靡かせながら、凛へ瞬時に間合いを詰めた。
翼から巻き上がる風を読みとり、エットが矢を正面へ発射する。

「フッ、敵うわけないのに、無駄なことを…」

凛は光線で矢を撃ち落とし、杖をノアに向けると、再度光線を撃ち出した。
間一髪のところでかわすノアだったが、凛は回避後の彼女に対し、魔法を詠唱する。

「エクスプロージョン、愚かな屑を無情に爆破しろ」

次の瞬間、ノアの目の前で激しい爆発が起こり、彼女は正面から衝撃を受け、地面に崩れ落ちた。

「ば、馬鹿な!?奴の使う魔法は光線魔法!!
 使う能力は空中浮遊だけのはずだ!!能力は一人一つまでのはず…!」

「私は魔法使いなのよ?習得してる魔法は全て使用できるわ、たとえば…こんなふうにね」

焦る二階堂を他所に、凛は杖をエットに向け、攻撃してきた敵を排除しようと試みる。

「っ!!避けろエット!!」

二階堂は危機を察知し、エットに向かって飛びかかると、爆破したその場から瞬時に離脱する。
エットから手を離した二階堂は、次に凛が何をするか推測した。

(攻撃をかわした俺達を、織江凛が見逃すはずはない!必ず仕留めに来るはずだ!!
なら近づいてきたところへ、拳を一撃お見舞いして、能力を叩き込んでやる!!)

トドメを刺しに接近してくる凛に対し、二階堂は不意に立ち上がり、顔面に向かって拳を振り放つ。

「くらえぇえええ!!!!」

二階堂の拳が激突し、全力で能力を使用する。
しかし彼が思い切り殴ったのは、織江凛ではなく、彼女が盾にしたアンデットの頭部だった。

「なっ!?」

「分からない?私はアンデットを自在に操ることが出来るのよ?
 自らの盾にすることも思いのままってわけ」

凛は二階堂とエットの元へ爆発魔法を打ち込み、二人に大きなダメージを負わせる。

「ぐああああああああ!!!」

血を流して地面へ倒れる二階堂達に、凛はトドメを刺そうとした。

「はあ、もう終わり?残念」

杖を向けて攻撃しようとする織江凛。
すると彼女の元に一本の火柱が、勢いよく迫ってきた。

瞬時に反応した凛が、宙に浮き火を回避すると、火炎を放った鬼灯へ視線を向けた。

「…どうやら戦えるのは、もうあなただけみたいね?」

「安心しろよ、アタシがお前を倒せばなんの問題もねえ」

鬼灯が空中にいる凛へ火炎を放射すると、凛はアンデットを召喚し、迫り来る炎を防ごうとする。
しかし一直線に飛んできた火柱はアンデットを貫通し、構わず凛へと向かってきた。

「そんなのじゃアタシの火炎は止まらねえ!!アンデットの体は炎に弱えんだ!!」

迫り来る火炎を凛は横に回避するも、今度は彼女の元に灼熱の火球が飛んでくる。

「っ!!これしき爆発魔法で相殺できるわ!!」

凛が火球に杖を向け、爆破魔法を唱えようとする瞬間、背後から鬼灯の声が聞こえてきた。

「後ろだよ、この野郎!!」

鬼灯は凛の背中を蹴り飛ばし、彼女を向かってくる火球へ激突させた。

「グギャアアアアアアア!!!!」

悲痛な叫びを上げ、ボロボロになって地面に墜落する織江凛へ、鬼灯はトドメの一撃を与えようとした。

「これで終わりだ!!織江凛!!!」

両手を構えて火炎の発射態勢を整えた鬼灯。

そんな彼女の後ろから、冷たい感触が静かに現れた。

「惜しかったわね炎の能力者さん、“今のが本物の私なら“あなたは勝ってたのに」

「!?なっ!?」

次の瞬間、鬼灯の肩へ鋭い歯が突き刺さり、彼女に大きな激痛を与えた。

「ぐああああああああ!!!!」

鬼灯の悲鳴が部屋に鳴り響くと、彼女の声で気を失っていた二階堂の意識が戻る。

「っ…!ほ…鬼灯…!」

致命傷を負いながらも、彼女へ手を伸ばす二階堂。
凛は鬼灯から歯を離すと、地面へ捨てるように放った。

「フフフ、中々手応えのある女だったわよ、”ダミーの私“を撃破寸前まで追い込むんですもの。
 ただダミーはあくまでダミー。今まであなた達が攻撃してたのは、
 浮遊魔法を付与し、色んな魔法が撃てる杖を持たせた、私そっくりのダミーアンデットよ」

「な…なに…?」

次の瞬間、意識の朦朧とする二階堂の前に、何体ものダミーアンデットが出現し、
奥から血色の良い本物の織江凛が姿を現すと、戦闘不能になった勇者隊に言葉を送った。

「勿論、能力者の彼女を噛んだのもダミーのアンデットよ。
 そもそも王都で私と出会った時、おかしいと思わなかったの?
 アンデットの群れを率いてる私が、直々に敵陣へ行くわけがない。あの時もダミーに向かわせてたのよ」

「じゃ、じゃあお前は、遠くから自分の手を汚すことなく、
 俺達や王都を下そうとしてたってのかよ!!」

幾人ものダミーアンデットに阻まれながら、二階堂は歯を食いしばる。

「そうよ、アンデットでもない私が直接戦うなんて、リスキーにも程があるしね。
 さて…じゃあトドメにかかっちゃいましょうか、新たなるアンデットよ!立ち上がりなさい!」

するとアンデットに噛まれた鬼灯が、地面からゆっくり立ち上がる。

「っ!!鬼灯!?」

「彼女はもう私の配下よ。強力な異能を持つ彼女と、群れをなす私のダミーアンデット。
 さあ、あなた達勇者隊が逃れる術はもう無いわ」

圧倒的な戦力差を前に、瀕死状態の二階堂は、窮地に立たされた。
すると鬼灯が二階堂達に手を向け、火炎を激らせると、無言で攻撃態勢に入った。

「ぐ…!ほ…鬼灯…!」

「フフフ、惨めね。かつての仲間にトドメを刺されるなんて。
 大丈夫よ、死体が残ってたらアンデットとして蘇らせてあげるわ」

不敵に笑う織江凛に目もくれず、鬼灯は二階堂達へ火球を撃った。

「くっ…!くそ…!」

迫り来る炎を前に、二階堂は死を覚悟した。

しかし火球は三人の手前の地面に着弾し、二階堂達を熱風で壁まで吹き飛ばした。

「っ!?ぐあああああ!!!」

鬼灯から遠ざかった二階堂は、異変を感じ彼女へ視線を移す。

「あ…アタシ…もうダメみたいだ…すまねえな二階堂」

「ほ、鬼灯?何言ってんだ…?」

鬼灯は両手を掲げて、最大火力で火球を作り出す。

「い…今からすることを許してくれ…
 アタシは…コイツらと一緒に自爆する!!」

「っ!?鬼灯!馬鹿なことはやめろ!!そんなことしたらお前は…!」

「もう助からねえんだよアタシは…!アンデットになっちまったんだ!!
 なら意識があるうちに…全部終わらせてやるぜ…!」

鬼灯の火球が最大まで膨れ上がり、部屋全体を高温で支配する。

「や…やめてくれ…!二人で元の世界に帰るって、約束したじゃねえか!!
 ここへ飛ばしてきた“奴”を倒すって!!誓ったじゃねえかよ!!」

壁際で倒れる二階堂に対し、鬼灯は青白い顔で笑顔を見せた。

「にしし…!最後くらい…姉貴分らしいことさせろよな…!
 あの世でお前が“奴”を倒すのを…見てっからよ!!」

鬼灯の手から火球が放たれ、ダミーアンデットに向かって炸裂する。

次の瞬間、部屋の中心に業火が解き放たれ、辺りを凄まじい衝撃が襲った。

「鬼灯!!鬼灯ぃぃいい!!!!!」

激しい熱風に晒されながらも、二階堂は鬼灯の名を叫ぶ。

炎の眩さが辺りから収まると、書斎は地獄のように燃え上がっており、
ダミーアンデットの死体が幾つも地面に転がっていた。

そして二階堂の声に応える鬼灯の声も、上がることは決してなかった。

「そ…そんな…!鬼灯…!」

燃え上がる部屋の中に鬼灯の姿はなく、二階堂の声が寂しく辺りを彷徨う。

すると崩壊し風穴の空いた天井の上から、浮遊する織江凛が姿を現した。

「ふぅ…無茶なことするわね、お陰でダミーアンデットが全滅よ。
 もっとも私は、上空に逃げてて無事だったけど」

余裕そうな笑みを浮かべる織江凛に、二階堂は怒りを激らせて、拳を握りしめる。

「鬼灯が命をかけて戦ったってのに…!お前は…!お前はァァアアアア!!!!!」

二階堂は全身に力を込め、能力で自身を成長させた。
周囲に威圧感が漂い、髪を逆立てた彼は、地面に手をつき立ち上がる。

「へえ、爆発をくらったのに、まだ立ち上がれるのね。
 何か能力を使ったのかしら?」

成長し自己回復力を最大限まで高めた二階堂は、
爆破で受けた傷を治療し、戦闘不能から復帰したのだ。

それでも完治までには至らなかった彼は、朦朧とする意識を、使命感と怒りで持ち堪えていた。

「お前のことは必ず倒す!!託してくれた王女のために!!オークの無念のために!!
 そして身を挺して戦った鬼灯のために!!!俺はここで負けられねえんだ!!!」

二階堂は拳を硬く握り、構えを取って凛を睨みつける。

アンデット騒動を巡る最後の戦いが今、終幕へと差し掛かった。
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