男とか女とか

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 理々子が一組の教室へ駆けている頃、圭は教室ではなく依然トイレにこもったままだった。

(ヤベェ治まんねぇ……クソッ!大体エロすぎんだよ!あんなの反則だろっ)

 本当に慰めたいそこは葛藤するまでもなく自分で触れようとは思わなかった。
男としての矜持、それに理々子だけと決めている。
じっとして治まるのであれば良かったが、そんな軽度なものであれば専用の抑制剤なんて存在しないだろう。
少しでも熱を発散させようと仕方なく前を構っていたわけだが、吐きすほどに理々子に触れられたい欲求が高まるばかりで悪循環に陥っていた。
助けを求めたい相手は今の自分にとって劇薬にしかならない。
発情のせいで感情が思うように生魚できず泣きそうになる。
気を緩めたら漏れそうになる声を必死に抑え再びそこへ手を伸ばそうとした時だった。

「東、お前いつからこんな“下品な匂い”振り撒くようになったわけ?」
(…………嘘だろ)

 自分の事情を知ってなお理解を示してくれる相手が薬を持って来てくれる、なんて都合の良い期待をしていたわけではない。
それと同様こんな最悪な事態も想像していなかった。これは何の罰だろうかと思わずにおれない。

「仕方がないか、そりゃ隠したいよねこんな状況。でも何でだろうな?そこにいるのが東だって判っちゃうんだよ。あ、もしかして俺達“運命の番”だったりし、」
「お前じゃねぇっ!!」
「……へぇ?」

 黙っているべきとわかっていても否定しないという選択肢はなかった。
個室にこもっているのがせめてもの救いか。しかし追い詰められていることに変わりはない。
声の位置からして朝桐はドアの前にいるのだろう。姿こそ見えないが、確実に朝桐も“正常”ではない。
個人差はあれどαはΩの発情時の匂いに惹かれるもの。
普段からαにしては静かなほうの朝桐だが、今の穏やかすぎる声は不気味でしかなかった。

「東さ、知ってるよね。俺さぁβ以上にΩってクソが付くほど嫌いなんだよ」
「…………」
「これは言ったことないから知らないだろうけど俺東に憧れてたんだよ。それがどうよ……お前どうしてくれんの?俺を騙して楽しかったかよ?」

 勝手な期待の押し付け。
しかし理々子に出会う前の自分はαだと信じて疑わず誇りにすら思っていた。
朝桐とつるむようになった切っ掛けも、そういう共通思想があったからだ。
朝桐からしてみれば今の自分は立派な裏切り者でしかないのだろう。
発情状態で通常時より思考が回らないと言っても、こんな危機的状況になれば嫌でも冷静さを取り戻す。

(少し落ち着いた……でも無理だ、力入んねぇ……)
「ねぇ、さっきすぐ否定したね。もしかしなくても“運命の番”に会っちゃった?それで最近おかしかったとか?」
(クソッ既に勘付いてやがる……下手な誤魔化しは煽りにしかなんねぇな)
「無言ってことは正解なんだろ?同学じゃないとしたら一年か二年のα?東って授業終わったらすぐ帰っちゃうから全然気付かなかったよ。放課後は運命のお相手と猿みたいにヤッてんだ?気色悪いな……Ωって何で存在してんだろうな?マジで消えてくんないかなぁっ!!!」
「っ!?」

 急変した朝桐の声と同時にドアがガチャガチャと激しい音を立てる。
普段であれば迎え撃つこともできただろうが、今はまるで力が入らない。

「開けろよ!どうせその体持て余してんだろ?俺が有効活用してやるからよ!!」
(クソッ嫌だ!理々子っ……理々子!!)

 男である自分が男に犯されるかもしれないと怯えるなど屈辱以外の何物でもないがどうすることもできない。
ただ開くなと祈ることしかできなかった。
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