男とか女とか

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「え?東君まだ来てないみたいだけど」
「そう、ですか……」
「東君のことなら朝桐君に……って、朝桐君もいないや」
「理々子じゃん、どうしたの?」
「ごめん水城さん、今急いでるから」
「えぁ、ちょ、理々子!?」

 駆けていった一組に圭の姿は無く安心するどころかより一層不安が積み重なっていく。
よりにもよって朝桐がいないなど嫌な予感しかしない。
水城に協力を頼もうかと一瞬思ったが、悠長に説明をしている間も惜しい。

(駄目、絶対駄目だから。お願いだから誰も圭に触らないで)

 圭が自分以外の誰か、しかもαに触られるなんて冗談じゃない。
脇目も振らず屋上近くのトイレへと駆ける。
焦るあまり曲がり角にいた生徒に気付くのが遅れ肩をぶつけてしまった。
軽く接触した程度だったが、相手が尻餅をついたのを見てしまっては足を止めざるを得ない。
そこで初めて相手を視界に入れ顔をしかめてしまった。
長い前髪のせいで目元は見えないが、赤ら顔で息を荒げ震えている様子を見れば察した。
彼は以前、教えてもらったΩの一人だった。
微かに漂う独特の匂い。しかしそれは圭の匂いと違って私を揺さぶるものは微塵も感じなかった。

「さ、最悪……何だってんだよ。あちこちで発情しやがってクソがっ……早く離れろよ」
「ごめんΩの人だっけ、ねぇ、そうなったの私のせいじゃないでしょ。誰?」
「…………朝桐だ。向こうのトイレ近くで見かけた」
「そう、ありがとう」
「……いいから早く行け」

 彼の言葉に甘えて再び走り出す。嫌な予感が当たってしまった。

(私こんなに速く走れたんだ。間に合えよほんとお願いだから)

 恐らく今までで一番の速度が出ていると断言できる。
目的地に近づくにつれ私を呼ぶように圭の匂いが強くなっていく。
そして迷わずトイレに駆け込み、すぐにドアを開けようとしている朝桐の姿が目に入った。

「どけ」
「はっ、うぐっ!?」

 迷うことなく股間を蹴っていた。そこしかないと体が勝手に動いていた。
案の定、朝桐は激痛に悶え蹲っている。
謝罪なら後でいくらでもしよう。でも圭を怖がらせただろうことだけは許さない。

「ぁ……理々子っ!!」

 呼びかけるまでもなく匂いでわかったのだろう圭がすぐにドアを開け私に飛びついて来た。
ガタイが良いため多少たたらを踏みつつ受け止める。
甘えるように首筋にすり寄ってくる圭にまた理性が揺らぎ始める。

「な、お前っ」

 圭のせいで既に忘れそうになっていた存在の声で我に返る。
目だけ向ければ、股間を押さえた朝桐が驚愕に目を見開いていた。
私は咄嗟に圭の頭を抱え込み朝桐から隠す。

「あの時のβ……」
「“βごとき”を覚えていてくれてどうも。残念だけどβじゃないよ私。後天性って知ってる?」
「!!…………まさか東も、か?」
「そういうこと。ほんと奇跡的だって私も未だに思うよ」
「そんな確率あるわけがっ!!」
「でも実際私と東はこうなった。一応言っておくね?」
「何を、」

 無防備に晒されている圭の項につ、と指を這わせると、声を押し殺しきれなかった圭が咎めるように私の名を呼びながら首筋を甘く噛んだ。
そんな些細な行為でより濃厚となった圭の匂いに、朝桐もまた発情していくのがわかる。
それを冷ややかに見ながら簡潔に釘を刺した。

「圭に触っちゃ駄目だよ?」

 それだけで充分だろう。
発情していたのが嘘のように朝桐は私を呆然と見つめている。

「返事は?」
「……わ、わかった。さわっ触らない……何も、しない」
「ありがとう朝桐君」
「ひっ」

 朝桐がしっかりと頷いたのを見て、感謝の意を込めて笑いかけたら怯えられた。
大変遺憾ではあるが、咎める時間があるなら圭にあてたい。
すっかり私の匂いに酔って震えている圭の顔を朝桐に見せないようトイレから連れ出す。
移動途中、ぶつかったΩの生徒が廊下隅で蹲りながら忙しなく私と圭を交互に見ていた。
人差し指を口元に当て脅しを込めて見つめれば意図はしっかり相手に伝わったようで何度も頷いてくれた。
そんなやり取りをしていると突然目を塞がれる。

「見んな……俺以外見るなよっ」
(ああ~もうっほんと何こいつ)

 もうとっくに圭しか見えてないというのに。
私もまた圭の匂いに我慢が効かなくなりつつあった。
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