男とか女とか

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 東がΩだと知った時、私の中に訪れた感情は衝撃、そして芽生えた感情は恐怖だった。
衝撃は当然として、一体何に恐れを抱いているのか。自分のことなのにわからなかった。
きっと自分の中で勝手に築き上げた“αである東”が崩されてしまうことが怖いのだと思った。
これまでαと思い込んで接したきた東が大きく変わってしまったらと。
でもそれは合っているようで違っていた。

 Ωに対して特に何も思うことなどないはずだった。
けど東がΩと知り、そして今日という日を迎えてわかった。
理々子と東の二人が本能に逆らえず惹かれ合っている様子を見て恐怖の正体が掴めた。
Ωに近寄らなかったのは興味がないからじゃない。
本能に狂わされてしまった自分を想像してしまいそうだから“近寄れない”のだ。
αである東の像が崩れるなんて些細なことに過ぎない。私はΩそのものが怖いのだ。
αとΩが引き合わされれば本能が反応し合うのだと学んだから知っている。
そう頭でわかっていても、実際に経験しなければそれがどういったものなのか本質は知り得ない。
そんな“一例”を間近で見せられた。理々子というαと東というΩによって。
自分が想像もし得ない二人の剥き出しにされた本能はとても脅威的に見えた。
本能はここまで人を変えてしまうのかと改めて恐怖した。
それでも二人と関係を切ろうとは思わなった。
東はΩだけど、恐怖の対象でもあるけど、それでも友人でいたいと思った。

「……ここ、今日は貸し切りにしてあるから落ち着くまでいなよね」
「…………わりぃ」
「…………」

 不遜な態度が多い東にこうも素直に謝られると調子が狂う。
そして失礼とわかっても哀れに思った。
αとΩ、しかも番だろう二者が狭い部屋に揃ったら本能が反応を示さないはずがない。
本能による反応、つまりは発情。

(何気に初めて見ちゃったよね……!)
「見た、よな」
「うぇ?!な、何のことぉー?」
「…………」

 考えを読んだかのようなタイミングで言われ、声が裏返ってしまう。
その反応を見て東はまた無言。気まずさに拍車がかかる。
今日は衝撃の連続であったが、その中でも断トツであるのが東を打った時。
東を正気に戻すために打った時にたまたま目に入ってしまったのだ。股間が。
友人のそれを見て複雑に思わないわけがなかった。
しかもそういったのを見るのも初めてだった。
パニックにならなかったのは、東があまりにも弱々しく見えたから。
何よりあの場で東を庇えるのは自分しかいなかったから。
既にこれまでの東の像がボロボロと崩れてきていたが、それでも友人でありたいと思う気持ちは変わらなかった。

(さすがの東でも恥じらいはあるよね……うん……)

 ずっと気まずげに縮こまっているだろう東を背後に感じつつ、近くのテーブルに部屋の鍵を置いた。
これ以上言葉をかける気にもなれず部屋を出ようとすると東が小さく呟くように言った。

「水城、ありがとう」
「……っうん」

 東からの初めてのお礼だった。
何故か目が熱くなって、振り返らずにそのまま部屋を出た。
生徒のいない静かな廊下を歩く。
いつもと変わりないはずの景色が何故だか違って見える。

(何でかな、)

 三年一組、誰もいない教室についてふと外を見ると夕日が輝いていた。
普段こんな風に改まって見ることなどないのに、今日はその橙がとても綺麗に見えてしょうがなかった。

(ああ、そっか……)

 今日、本当の意味で東と友人になったのだと、そう思った。
私は自分で思っていたより東を大切に思っていたらしい。そして涙脆くもあるらしい。
今日は色んな衝撃が多すぎて、前までの何気ない日常がとても恋しく感じた。
でも今日より先、昨日とは少し違う日常が待っているのだろうと思うと楽しみでもあった。

「私が東を上手くフォローしないとね」

 自分に言い聞かせるように呟いたその言葉を誰かが聞いているとは思いもしなかった。
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