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いろいろ、大変です
しおりを挟むその扉を開けると、視界には白っぽい霞が広がっていた。
「あぁ~あぁ。今日もまた神さま方、大変だったみたいねぇ」
扉を開けたまま固まっていた私の後ろで、今日から同僚になった先輩が中を覗き込みながらため息をつく。
「あぁ、あなたは初めてだったわね。もうこれは慣れてもらうしかないんだけど、会議中はこの場所自体隔離されてるようなものだから神気が停滞しちゃって、こうなっちゃうのよ」
「えっ?じぁこれ、そのままじゃ不味いんじゃ?」
「大丈夫、大丈夫。ここ片付けてる間に散っちゃうから。まぁ、多少は私たちに吸収されるでしょうけど、そのくらいの得役がないとねっ」
「いいんですか?」
「いいの、いいの。ただし、ここで見た事は絶対秘密厳守!!他言無用よ?」
「はい、それはもちろん。契約時にしつこいくらいに念を押されましたから・・・って、えぇっ!!」
「ハイハイ、固まってないで中に入るっ!」
と、私の背中を押しながら一緒に入ってくる。
「は、はいっ、すみません。」
謝りながらも私は、目の前に広がる光景に唖然とせずにいられなかった。
そこには、疲労困憊で虚ろな眼をした、普段なら私たちが絶対にお会いする事はない最高位の神々が、死屍累々と転がっていたのである。
「な、何なんですか、コレは?!」
「ん? だから言ったじゃない、会議の後片付けだって」
「いや、それは確かに聞きましたけど・・・テーブルとか椅子とかの片付けと部屋の清掃作業が主な仕事、って。でもこの状態で、どうやって作業するんです?とてもじゃないですけど、足の踏み場もないじゃないですか」
「だから『主な』仕事はそうよ?ただ、その作業を円滑に行う為の障害物を取り除く作業が先にはいるだけで、後は普通に片付けて行けばいいから・・・て、気にするトコ、そこ?」
「え、だって優先順位は『主な』方ですよね?だったら作業効率を考えると、足場がないのは厳しいかな、と」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、こうしてただ突っ立ってても終わらないから、手を動かして行こうか?」
「あ、はい。すみません。あの、それでこの障害ぶ、もとい、神さま方は、どのようにして避けさせていただいたらいいですか?そのまま触れても失礼に当たらないでしょうか?」
「それは大丈夫よ。貴方も言ってたように、片付けの方に優先順位があるからね。その作業の邪魔になるモノは、如何なるモノであっても排除出来る権限が与えられてるから。この場に限り、だけどね。
でも、気を付けてね?半分意識が飛んでるから、普段なら効いてる理性がない神さまもいらっしゃるから、下手に触れると取り込まれるわよ?」
「すみません、その助言、ちょっと間に合いませんでした・・・助けて下さい、カニバサミ、掛けられちゃいました。脱け出せません。」
「あらぁ~~・・・見事にはまってるわね。ちょうどいいわ、その方、下手に意識があるといつも作業の邪魔をしてくるから、意識がないなら、少しの間そのままいてもらえるかしら?もうすぐ、部下の神さまが引き取りに来られると思うから」
「痛くはないんで、このままいるのはいいんですけど、この姿を見られるのはちょっと・・・」
「ん~でも、貴方にカニバサミ掛けてる神さま、今から来られる神さまに頭上がらないみたいだから、この状況見てもらって、これ以降作業の邪魔をされないよう、言霊で縛ってもらった方がいいと思うわよ?」
「・・・わかりました。そうさせて頂きます。では、取り敢えず、手の届く範囲での作業を再開しますね」
「ええ、お願いね。でも無理しなくて良いからね」
それから程なくして、引き取りに来られた神さまに無事にカニバサミを解いていただき、作業中はカニバサミ他、身体が拘束されるような事にならないよう、言霊で縛ってもらい、ほっとしたところで、ふと、疑問が浮かんだ。
「あの先輩、質問いいですか?」
「いいわよ?私に答えられるコトなら。で・も・・・女性に年齢を聞く、なぁんてコト、しないわよねぇ?後、彼氏の有無だとか、スリーサイズだとか・・・」
「えっ!?ま、まさかそんな、先輩に命知らずな事、しませんよ?」
「そう?ならいいけど、それ以外に私に聞きたいコト、って何かあるの?」
「あ、はい。もしかしたら、皆さんには常識なのかもしれないんですけど・・・なぜ、『迎えに来る』ではなく『引き取りに来る』って言い回しをされてるのかな、って」
「あ、それ?ん~、たいして意味がある訳じゃないんだけど、確かにかなり前は『迎えに来る』って言ってたみたいね。でも、見てわかると思うけど、この状態ってほとんど、ご自分では動けない方ばかりでしょ?で、昔はいちいちお迎えの依頼を出してたみたいなの。でも、すぐに来てくださるのは方は少数で、なかなかお迎えが来なくて、スッゴい邪魔だったんですって。で、当時の担当者が、『さっさと、引き取りに来んかぁ!!』ってキレちゃったらしくて、そこからなぜかこの会議の後のお迎えだけ、『引き取り』って言われるようになったんですって。で、会議の終了は自動で連絡が行くようになって、終了後20分以内に来ないと、ペナルティが課される事になったそうよ」
なんと・・・どんなキレ方をしたんだろうか?気になるところだけど
「それと、も1つ気になってる事が」
「なぁに?」
「今さらかも知れないですし、もしかしたら答えられない事かも知れないですけど、ここで何の会議を?」
「ホント今さらねぇ。ま、一応機密扱いにはなってるんだけど、みんな知ってるから『公然の秘密』って感じかしら?」
「そうだったんですか?すみません、聞きません」
「いいわよ、教えてあ・げ・る♪」
「イヤイヤイヤ、ダメですよ」
「いいのよ、だって貴方にも関係してる事だから」
「へ?私に、ですか?」
「うん。貴方、転生組だったわよね?」
「あ、はい。一応、寿命は全うしてたみたいなんですけど、気が付いたら、神さまと面談(?)みたいな事してました。その時の話からここでお世話になる事が決まったんですが、それが?」
「だからね、その転生先を決める会議をしてるのよ」
「えぇっ!!」
「うふっ、良いわぁ~、その反応♪新鮮♪」
「ううう・・・あの、話、進めます。」
「ええ、いいわよ」
「転生、ってよくラノベなんかでは『神さまのミスで』とか『予定外で』ってのが多いですけど、そうではないんですか?そのお詫びで、っていう」
「実際『予定外』ってのは無くはないみたいなんだけど、全くあり得ない予定ではなく、限り無くゼロに近い未来が選ばれた結果、って言う事みたいだし、『神さまのミス』はあり得ないわよ?
例えそういう風に伝えてたとしても、それこそがこの会議で決められてる内容だから」
「そうなんですか?じゃ、なぜ『ミス』を装うんです?わざわざそんなまどろっこしい事しなくても」
「う~ん・・・私も下っぱだから詳しくは知らないんだけど、そういう事にしておいた方が納得してくれやすい、より心の安定が早く行われるように、その人に合わせて色々な設定付けをされてるみたい。
もちろん、その時に与えられるチートなんかも含めて、どこまでだったら許容範囲かも決められてるみたいよ?
だから、この会議は色々なトコから神さま、女神さま方が出席されてるの。この会議に出ない事には、転生者や転移者の受け入れが出来ないようになってるから、神さま方も必死よ?」
「何でですか?」
「そりゃ、少しでも楽がしたいし、いい条件に持って行きたいからじゃない」
「すみません、意味がわからないです」
「んとねぇ・・・転生者、転移者の能力には神さま方の神気が関わってるの。つまり、自分の力を分け与えてる状態な訳。だから、なるべく少なくで済むなら、その方が楽な場合が多いのよ。あまり神気が減りすぎると、通常業務に差し障りが出てきちゃうからね。
一人二人だったら、そうたいした事はないみたいなんだけど、最近転移や転生に興味を示す人が増えて、最期の審判の時に聞かれる事が多くなってるんですって。
基本的に神さま方は全てを同じように慈しんでおられるから、なるべくなら叶えてあげたい、でも神気には限りがある、って事で会議で許容範囲を定めようってなったみたいね」
「そうだったんですか」
「うん。だからすっごい数を決めるし、受け入れ先との攻防もあるから、この会議が終わった後はいつもこんななのよ」
「神さま方も大変なんですね」
「ま、でもそれが神さま方の歓びでもあるからね♪」
「えっ!?も、もしかして、神さま方って・・・ドエ・・」
「おっと、その先は口にしたらダメよん?それも含めて『公然の秘密』だからね」
「はいっ!私は何も聞いてません!知りません!」
「うん♪いいコねぇ~♪じゃ、残り、ちゃっちゃと片付けちゃいましょ!」
「はい、じゃ、こちらにおられる神さまはこっちの方に寄せちゃいますね」
「お願いね。あ、また取り込まれないように気を付けてね、って・・・遅かったかぁ~」
「・・・すみません、遅かったみたいです」
「仕方ない、また引き取りに来られるまで、そのままでいてね」
「言霊で縛ってもらったはずなのに・・・」
「いい忘れてたけど、それ、神さまごとになるから」
「そうなんですね、わかりました。諦めて、手の届く範囲での作業をしてます」
「早く、慣れるように頑張ってね♪」
「はい、頑張ります。次は、1回で済むようにします!」
「そこは全部かわせるように、じゃないの?」
「・・・そう言う先輩も、カニバサミされてるじゃないですか?」
「うぅぅぅ~~~・・・・
早く、引き取り来てくださぁ~~いっ!!」
こうして、私の仕事の初日は過ぎて行った。
ホント、いろいろ、大変です。
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