転生受付嬢はもう恋なんてしない――なのに最強剣士からの溺愛が止まりません!

人妻あず。

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14話

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 午後になっても、ギルドのざわめきは収まらなかった。
 受付の奥から、冒険者たちのざっくばらんな声が聞こえてくる。
 誰かが笑い、誰かが小声で噂をして、そして誰かが――黙り込む。
 その繰り返しが、胸の奥を落ち着かなくさせた。

 ――ゾルフ・サイモンが死んだ。
 
 張り紙に記された「ゴブリンに襲われ死亡」の文字。
 あの洞窟で見た冷たい死体の顔。
 レイとソーマの、妙に険しい表情。
 全部が一本の線で繋がっていくような気がした。

「リーナ、大丈夫?」
 マリアが心配そうに覗き込んでくる。
 私は笑顔を作って、首を横に振った。
「平気。ちょっとぼーっとしてた」
「病み上がりなんだからさ、ちゃんと休みなよ」
「うん……ありがとう」

 口ではそう言ったけれど、胸の中ではずっと別の音が鳴っていた。
 “何か”が合わない。
 ゾルフは確かに、あの洞窟で死んでいた。
 『モンスターじゃない』そのソーマの言葉が頭をぐるぐると回る。

 (どうして、そんな報告になってるの?)

 私の視線の先で、レンとソーマがギルド長室へ入っていく。
 二人とも、朝からほとんど口をきかない。
 ソーマのいつもの軽口もない。
 レンに至っては、私と目を合わせようとしなかった。

 ――まるで、何かを隠しているみたいに。

 受付の仕事を終えても、心が重かった。
 帰り際、階段の踊り場で誰かの話し声が聞こえて、私は思わず立ち止まった。

「……報告内容は公表分と一致させておけ。余計な混乱は避けたい」
 低く押し殺したような男の声。
 聞き覚えがある。ギルド長の補佐官、ヴェルナーだ。
「しかし、死体の状態が……」
 この声は新人冒険者のロイズだ。
「それ以上は言うな。ギルド長の判断だ」

 心臓がどくん、と跳ねた。
 階段の影から覗くと、ヴェルナーが数枚の報告書を抱えて廊下を去っていく。
 その背中を見つめながら、手のひらがじっとりと汗ばむ。

(……やっぱり、何か隠してる)

 自分の鼓動がやけに大きく響く。
 怖い。けれど、目を逸らしたくなかった。

 その夜。
 宿に戻ると、レンが部屋の前で立っていた。
「まだ起きてたのか」
「レンさんこそ。……ギルドで、何かありました?」
 問いかけると、彼は一瞬だけ目を細めた。
「……レンさん?」

 無表情なのに、どこか落ち着かない様子で。
 手のひらをポケットに突っ込んだまま、目を逸らしている。

「どうかしました?」

「いや……」

 短く答えたきり、彼は黙り込んだ。
 何か言いかけて飲み込んだような、そんな顔。
 いつもの冷静さとは違う。
 言葉を選んでいる――いや、言えないでいる。

「……レン?」

 もう一度呼びかけると、彼は深く息を吐いて、ようやく顔を上げた。
 そして、ためらいがちに言葉を落とす。

「一緒に……暮らさないか?」

「――え?」

 あまりに突然で、持っていたバッグを取り落とした。
 硬い音が廊下に響く。
 私は呆然と彼を見つめたまま、瞬きを忘れていた。

「いや、ちがっ……! そういう意味じゃなくて!」

 レンが真っ赤になって慌てる。
 珍しく、声が上ずっている。
 彼は耳まで赤く染めながら、言葉を探すように続けた。

「その……リーナは、少しギルドと距離を置いたほうがいい。今は、な」

「……どういう意味?」

「言えない。けど、危ないかもしれない」

 彼の声が小さく震えていた。
 いつもの冷静な彼とは違う。
 
「ギルドは……私の居場所なの。ごめんなさい」

 そう言って、そっと扉を閉めた。
 鍵をかけたあとも、しばらくその場を動けなかった。

 扉の向こうで、彼の足音が遠ざかっていく。
 それを聞いていたら、床にしずくがぽたりと落ちた。
 (私泣いてる……?どうして……?)
 悲しいわけでも、嬉しいわけでもない。
 ただ、胸の奥のどこかが――痛かった。


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