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序 経緯(いきさつ)
経緯
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「編集長!あんなに脅しておいて、何もなかったじゃないですか!」
「私なんて、おむつと水と食料、大量に買い込んじゃったんですよ。」
今、私は職場の同僚に囲まれて吊し上げられている。ただし、みんな笑顔だ。
「そんなもん、いずれ必要になるんだからいいべや。」
「まあ、そうなんですけど。」
職場での日常。何もなくて良かった。そう、何もなくて。
私の名前は只野政樹。地方の小さな出版社で編集長をやっている。まあこの職場ではトップということになる。職場の同僚は十数人でみんな仲が良く、家族のような存在だ。
我が出版社では勤続二十年となると五日間のリフレッシュ休暇というものを半強制的に取らされることになっている。つまり前後の土日と合わせると九連休となるのだ。新卒で入社すると四十代半ばでこの休暇を取るのが通常であるが、私の場合は転職組なので還暦を間近にしたこの歳で与えられることになった。この歳で急にそんなに休みをもらっても持て余すだけだし、仕事をしていた方が楽なんだけどなあ。
「編集長。たまにはゆっくり休んで温泉にでも行ってきてくださいよ。仕事は気にしなくて大丈夫です。編集長がいない方がはかどりますから。(笑)」
部下は私に気兼ねなく休暇を取れるようにそう言ってくれるのだが、少し当たっているような気がして軽く傷つく。
そうだな、ずっと家にいても妻に煙たがれるだけだし、一人で旅行にでも行ってくるか。こういう時に妻と一緒に、という発想は起こらなかった。妻とは連れ添って三十何年、子どもも独立し、今では二人暮らしだが、家で顔を合わせても会話らしい会話もない。特に仲が悪いわけでもないが、共通の趣味もないし、お互いに好きなことを好きなようにやっている、それで家庭円満なのが実情だ。
そういえば、前から一度行ってみたかった旅館があるんだった。ああ、でもあそこは予約一年待ちの人気宿だったな。こんなに急に泊まれるはずもないか。と思いつつも、ダメ元で電話だけしてみようか。
「はい、菅原旅館です。」
「あーすみません、確認したいのですが、ここ一週間で空いてる日はありますか?」
「少々お待ちください・・・あっ、ちょうど先ほどキャンセルが出まして、明日だったらご用意できるのですが。」
まさか、何というグッドタイミング。ここで逃すと一生行けないと思い、迷いなく予約をお願いする。
明日とはまた急な話だが、まあ一人だし、準備するものも特にないし、明日のためにさっさと寝るとするか。
「私なんて、おむつと水と食料、大量に買い込んじゃったんですよ。」
今、私は職場の同僚に囲まれて吊し上げられている。ただし、みんな笑顔だ。
「そんなもん、いずれ必要になるんだからいいべや。」
「まあ、そうなんですけど。」
職場での日常。何もなくて良かった。そう、何もなくて。
私の名前は只野政樹。地方の小さな出版社で編集長をやっている。まあこの職場ではトップということになる。職場の同僚は十数人でみんな仲が良く、家族のような存在だ。
我が出版社では勤続二十年となると五日間のリフレッシュ休暇というものを半強制的に取らされることになっている。つまり前後の土日と合わせると九連休となるのだ。新卒で入社すると四十代半ばでこの休暇を取るのが通常であるが、私の場合は転職組なので還暦を間近にしたこの歳で与えられることになった。この歳で急にそんなに休みをもらっても持て余すだけだし、仕事をしていた方が楽なんだけどなあ。
「編集長。たまにはゆっくり休んで温泉にでも行ってきてくださいよ。仕事は気にしなくて大丈夫です。編集長がいない方がはかどりますから。(笑)」
部下は私に気兼ねなく休暇を取れるようにそう言ってくれるのだが、少し当たっているような気がして軽く傷つく。
そうだな、ずっと家にいても妻に煙たがれるだけだし、一人で旅行にでも行ってくるか。こういう時に妻と一緒に、という発想は起こらなかった。妻とは連れ添って三十何年、子どもも独立し、今では二人暮らしだが、家で顔を合わせても会話らしい会話もない。特に仲が悪いわけでもないが、共通の趣味もないし、お互いに好きなことを好きなようにやっている、それで家庭円満なのが実情だ。
そういえば、前から一度行ってみたかった旅館があるんだった。ああ、でもあそこは予約一年待ちの人気宿だったな。こんなに急に泊まれるはずもないか。と思いつつも、ダメ元で電話だけしてみようか。
「はい、菅原旅館です。」
「あーすみません、確認したいのですが、ここ一週間で空いてる日はありますか?」
「少々お待ちください・・・あっ、ちょうど先ほどキャンセルが出まして、明日だったらご用意できるのですが。」
まさか、何というグッドタイミング。ここで逃すと一生行けないと思い、迷いなく予約をお願いする。
明日とはまた急な話だが、まあ一人だし、準備するものも特にないし、明日のためにさっさと寝るとするか。
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