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一 洗礼(せんれい)
洗礼
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まだ、窓の外は薄暗い。仕事の日よりだいぶ早く起きてしまった。子どもが遠足の日に早く起きてしまうように、半世紀たっても何も変わっていない。
このまま家にいてもじゃまだと言わんばかりの妻の視線を感じて、(いや考えすぎかもしれないが、)早すぎるとは思うが、出発しようか。
目的地の菅原旅館は隣県ではあるが、車で下道を行くと半日かかるような距離だ。早く出たのでそれでも間に合うが、さすがに体力的なことを考えて高速で行くことにする。
その前に、近所の牛丼屋で朝飯にするか。
この店は年に何回か来るところだ。普通の牛丼では何か物足りないので、いつも何かトッピングをつける。今日はキムチ牛丼の気分。紅ショウガと七味をこれでもかとたっぷりかけるのが私のこだわり。辛い物はよっぽどの激辛でない限り割といける口だ。
さーて、腹ごしらえもしたし、今度こそ本当に出発するか。
高速を使って行っても目的地までは三時間かかった。一旦旅館の駐車場まで来てみたものの、時刻はまもなく十時。チェックインは午後四時なのでまだかなり時間がある。
まずは着いたということで旅館の外観を眺めてみる。外観からして異様なオーラを感じる。古びた建物も、塀の隙間からにょきにょきっとはみ出している龍のような松の枝も、いかにも「出そう」な雰囲気だ。
そう、この旅館は「出る」ことで有名なところで、テレビ番組でもよく取り上げられるところだ。タレントが一泊して映像や音を検証するというものだ。といっても幽霊や心霊現象という怖い系のものではなくて、座敷童子、いわゆる子どもの霊で見ることができると良いことがあると言われているものだ。それゆえ人気があり、全国から宿泊者が絶えない。前述の通り、予約は一年待ちというわけである。本当にたまたま予約が取れて今回はラッキーというべきである。
さて、着いた記念というか証拠というかまず写真だけ撮っておくか。スマホのカメラを起動して、さあ撮ろうかとおもった瞬間。
「え!」
カメラがインカメラに切り替わった。切り替えのボタンを押したつもりはないのに・・・。さらに、切り替えボタンを押して戻そうとするが、全く反応しない・・・。
カメラを再起動したところ正常に戻った。
気を取り直して、写真撮影成功。しかし、何かもやっとしたものが残る。撮影するなという力が働いているのか・・・?
さて、チェックインの時間まで六時間、どうしたものか。なんて迷ったふりをしてみるが、私にはこういう時間つぶしには最適な趣味がある。
一人でも大人数でも、近所でも旅先でも、どんな状況でも時間がつぶせるのがパチンコのいいところだ。トータルで考えればマイナスになっていることは間違いないが、他の趣味に比べればお金がかからない趣味だと私は思っている。道具も何もいらない、身体一つあればいいのだから。道具に何万、何十万とかかるゴルフ、釣り、キャンプ、車、云々に比べれば安いものだ。
最近はカーナビにパチンコ屋と入力すると近くの店舗が簡単に見つかるようになった。
「おお、こんなひなびたところにもいっぱいあるじゃないか。」
四件ほど表示されたので、適当なところを目的地に設定する。
カーナビの指示に従って進んで来たつもりだが、目的地まで1kmほどもあるところでナビが終了してしまった。不思議な感じはしたが、そのまま、まっすぐ行けば良かったはずなので進んで行く。しかし、とうに1kmは過ぎたがそれらしき建物は見当たらない。もしかしたら最近つぶれたのかもしれない、と思い直し、別の店舗を目的地に設定する。
しかし、二軒目も三軒目も、さらには最後の四軒目も、ナビがまともに案内してくれずに辿り着くことができない。先ほどのカメラの件といい、電子機器がおかしな動作をすることに少し怖さを感じてきた。
しかし、そのまま車を走らせて行くと、道沿いにパチンコ屋を見つけた。なかなか年季の入っている店構えで、地元の常連さんしか来そうにない。全く勝てる気はしないが、今日は時間つぶしが目的なので入ることにする。
入ってみると、思った通り常連さんとおぼしきおっちゃんたちがちらほらいるだけで、店内は閑散としているし、台も一世代前の旧機種しかないし、これで経営が成り立っているとは思えない。まあ、そんな店の心配をする立場でもないので、ひと昔前によくやった台を選んで座ってみた。
「な、懐かしい。」
久々に前の機種打つといいもんだね。そしてニ、三千円で大当たりを引いてしまった。そのまま出たり、入ったりを繰り返しながら時間を忘れて集中してしまった。
・・・
いやいや時間を忘れてはいけない。もう三時を回っている。そろそろ切り上げよう。
戦果は八千円のプラス、完全に負ける流れだっただけに「勝つんかい。」と思わず苦笑いしてしまった。宿代が一万円余りなのでその大半を稼いでしまった。気づけば昼飯も食ってないな、いつもパチンコに来ると食を忘れて集中してしまう。集中しているとおなかも空かないものだ。
今から昼飯という時間でもないので、旅館に戻る途中のコンビニで肉まんを買ってほおばる。我ながら不健康な食生活だよな。まあそれでもこの歳で病気らしい病気をしたことがない。周りの同世代の友人たちは、やれ高血圧だの、やれ糖尿だの、腰が痛いだのなんだとぼやいているが、私ときたら悪いのは顔くらいのものか。ああ、あと毛がないことも付け加えておこう。
旅館までは無事に戻ることができ、時間もちょうど四時になるところだ。駐車場でSNSチェックをしているとすぐに四時になった。旅館の建物に向かいながら、カメラとカーナビの異常を思い出して、鳥肌が立った。やっぱり何かおかしいよな。
このまま家にいてもじゃまだと言わんばかりの妻の視線を感じて、(いや考えすぎかもしれないが、)早すぎるとは思うが、出発しようか。
目的地の菅原旅館は隣県ではあるが、車で下道を行くと半日かかるような距離だ。早く出たのでそれでも間に合うが、さすがに体力的なことを考えて高速で行くことにする。
その前に、近所の牛丼屋で朝飯にするか。
この店は年に何回か来るところだ。普通の牛丼では何か物足りないので、いつも何かトッピングをつける。今日はキムチ牛丼の気分。紅ショウガと七味をこれでもかとたっぷりかけるのが私のこだわり。辛い物はよっぽどの激辛でない限り割といける口だ。
さーて、腹ごしらえもしたし、今度こそ本当に出発するか。
高速を使って行っても目的地までは三時間かかった。一旦旅館の駐車場まで来てみたものの、時刻はまもなく十時。チェックインは午後四時なのでまだかなり時間がある。
まずは着いたということで旅館の外観を眺めてみる。外観からして異様なオーラを感じる。古びた建物も、塀の隙間からにょきにょきっとはみ出している龍のような松の枝も、いかにも「出そう」な雰囲気だ。
そう、この旅館は「出る」ことで有名なところで、テレビ番組でもよく取り上げられるところだ。タレントが一泊して映像や音を検証するというものだ。といっても幽霊や心霊現象という怖い系のものではなくて、座敷童子、いわゆる子どもの霊で見ることができると良いことがあると言われているものだ。それゆえ人気があり、全国から宿泊者が絶えない。前述の通り、予約は一年待ちというわけである。本当にたまたま予約が取れて今回はラッキーというべきである。
さて、着いた記念というか証拠というかまず写真だけ撮っておくか。スマホのカメラを起動して、さあ撮ろうかとおもった瞬間。
「え!」
カメラがインカメラに切り替わった。切り替えのボタンを押したつもりはないのに・・・。さらに、切り替えボタンを押して戻そうとするが、全く反応しない・・・。
カメラを再起動したところ正常に戻った。
気を取り直して、写真撮影成功。しかし、何かもやっとしたものが残る。撮影するなという力が働いているのか・・・?
さて、チェックインの時間まで六時間、どうしたものか。なんて迷ったふりをしてみるが、私にはこういう時間つぶしには最適な趣味がある。
一人でも大人数でも、近所でも旅先でも、どんな状況でも時間がつぶせるのがパチンコのいいところだ。トータルで考えればマイナスになっていることは間違いないが、他の趣味に比べればお金がかからない趣味だと私は思っている。道具も何もいらない、身体一つあればいいのだから。道具に何万、何十万とかかるゴルフ、釣り、キャンプ、車、云々に比べれば安いものだ。
最近はカーナビにパチンコ屋と入力すると近くの店舗が簡単に見つかるようになった。
「おお、こんなひなびたところにもいっぱいあるじゃないか。」
四件ほど表示されたので、適当なところを目的地に設定する。
カーナビの指示に従って進んで来たつもりだが、目的地まで1kmほどもあるところでナビが終了してしまった。不思議な感じはしたが、そのまま、まっすぐ行けば良かったはずなので進んで行く。しかし、とうに1kmは過ぎたがそれらしき建物は見当たらない。もしかしたら最近つぶれたのかもしれない、と思い直し、別の店舗を目的地に設定する。
しかし、二軒目も三軒目も、さらには最後の四軒目も、ナビがまともに案内してくれずに辿り着くことができない。先ほどのカメラの件といい、電子機器がおかしな動作をすることに少し怖さを感じてきた。
しかし、そのまま車を走らせて行くと、道沿いにパチンコ屋を見つけた。なかなか年季の入っている店構えで、地元の常連さんしか来そうにない。全く勝てる気はしないが、今日は時間つぶしが目的なので入ることにする。
入ってみると、思った通り常連さんとおぼしきおっちゃんたちがちらほらいるだけで、店内は閑散としているし、台も一世代前の旧機種しかないし、これで経営が成り立っているとは思えない。まあ、そんな店の心配をする立場でもないので、ひと昔前によくやった台を選んで座ってみた。
「な、懐かしい。」
久々に前の機種打つといいもんだね。そしてニ、三千円で大当たりを引いてしまった。そのまま出たり、入ったりを繰り返しながら時間を忘れて集中してしまった。
・・・
いやいや時間を忘れてはいけない。もう三時を回っている。そろそろ切り上げよう。
戦果は八千円のプラス、完全に負ける流れだっただけに「勝つんかい。」と思わず苦笑いしてしまった。宿代が一万円余りなのでその大半を稼いでしまった。気づけば昼飯も食ってないな、いつもパチンコに来ると食を忘れて集中してしまう。集中しているとおなかも空かないものだ。
今から昼飯という時間でもないので、旅館に戻る途中のコンビニで肉まんを買ってほおばる。我ながら不健康な食生活だよな。まあそれでもこの歳で病気らしい病気をしたことがない。周りの同世代の友人たちは、やれ高血圧だの、やれ糖尿だの、腰が痛いだのなんだとぼやいているが、私ときたら悪いのは顔くらいのものか。ああ、あと毛がないことも付け加えておこう。
旅館までは無事に戻ることができ、時間もちょうど四時になるところだ。駐車場でSNSチェックをしているとすぐに四時になった。旅館の建物に向かいながら、カメラとカーナビの異常を思い出して、鳥肌が立った。やっぱり何かおかしいよな。
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