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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】
32.辿れる謎
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会議室までの道中に悪魔の石像は二体ほどあったが、どちらもツノは普通の石だった。
灰色に塗られていて、塗料を剥がしたら金が出てくる……ということはなかった。
会議室前に辿り着いた俺たちは、鍵を使って扉を解錠する。
そして、慎重に気配を伺いながら室内に入った。
「まさに会議室、だな」
というソウヘイの言葉に、全員が賛同する。
部屋の真ん中に置かれた長テーブル、壁際に立つホワイトボード、それにパソコンの画面を映す用なのだろうプロジェクター。典型的な会議室の設えだ。
中に入ってまず目に入ったのは、テーブルの上に置かれたカード状のもの。
ライトで照らして確認してみると、それはどうやらIDカードだった。
「何だろ、このカード……」
「ゲスト用って書いてるみたいですけど……そもそも今まで探索してきて、IDカードが必要なところはなかったですよね」
「そうよね」
ここは一応住宅なわけだし、会社などで導入されているようなカード認証のセキュリティが必要そうには思えない。
もしも認証が必要な場所があるなら、それは余程秘匿せねばならない場所ということになるだろうが……。
あれこれ考えていると、ふいにランが後ろを向き、声を張り上げた。
「あ、これッ!」
「……ん?」
「間違いないわよ! 角が金、だもの」
ランが指差す先には、他の所でも見た悪魔の石像が立っている。
しかし、その片側の角は金色に塗られていた。
「塗料で塗ってるだけか……安っぽいけど、確かに金ではあるな」
「ああ。四つ目の暗号の答えはこれだろう。多分、この像のどこかに……」
一番怪しいのは金色になっている角の部分だ。注意深く見てみると、継ぎ目があることに気付く。
角を掴み、捻ってみる。すると角はクルクルと回り、最後には像から取れ外された。
「こんな構造になってたのか……」
中には空洞があり、そこに丸めた紙が詰められている。まだ暗号は続くようだが、とりあえず『つのがきん』は解明だ。
俺は細い空洞に指を差し入れ、何とか紙を取り出した。そしてそれを全員の前で広げる。
さあ、次の暗号は如何なるものなのか――。
「……な、なんだこれ」
驚愕の声を発したのは俺だったが、気持ちは皆同じだったことだろう。
提示された文字は『みひみえに』。これまでの暗号と違い、単語の一つも浮かび上がってこない意味不明な羅列だ。
「……みひ、みえに……どう読めばいいんでしょう?」
「これも五文字で何かを表してるのかねえ?」
「さてな……」
ニガナやイコイなど、意味をとれそうなものが一つでもあれば全体の連想ができるかもしれないが、これだと連想以前の問題だ。
平仮名で書かれてはいるものの、そもそも日本語という感じがしない。いや、むしろ読めるものという感じすら。
「うーん……」
「どした、ラン?」
「……いや、もう頭がキャパオーバーなだけ」
極限状態での謎解きだ、元気が取り柄のランだって、疲れてしまっても仕方ない頃だろう。口には出さないが、俺だってもうかなり参っている。それはソウヘイやシグレくんも同じはずだ。
「……無理すんな、うん」
「ありがと。でも、これが唯一辿っていける謎なのよねえ……」
行き着く先は分からないが、ランの言う通り追いかけやすい謎はこれしかない。後は所々に鍵が隠されていて、探索場所が増えるくらいなのだし。
まあ、それも誘導されている感はかなりあるわけだが。
「……他にも辿れる謎はあるみたいだぜ」
そう告げたのはソウヘイだった。何事かと振り返ると彼はホワイトボードを指差している。
消し忘れたグラフでも残っているのかと思っていたが、ボードには何やら奇妙な図形が描かれているようだった。
「これは……」
底辺は長方形、その真ん中から縦棒が伸び、頂点は円になっている。その円から上部五方向に、短い直線が伸びている絵だった。
デフォルメされているが、何かを示していることは間違いない。
「何かしら、これ?」
黒のマジックで書かれた図形を、ランは首を傾げながらもしげしげと見つめる。
簡略化された絵ではあるが、直感だけで一つ挙げられるとすれば、アレに似ている気がする。問題は、俺の考えているものが館内に存在するのか、だが。
「ソウヘイ。中庭って調べてるか?」
「お、察しがいいな。俺もそこに答えがあると思ったクチさ」
ということは、俺もソウヘイも同じものを思い浮かべているということだろう。
「中庭……もしかして、噴水ですか?」
「その通りさ、シグレくん。俺は一度中庭を見てるし、確定って言ってもいいんじゃねえかな」
図が示すのは、中庭の噴水。
暗号と同じように、そこにも何らかの手掛かりが隠されているのか。
暗号が皆目見当もつかなくなった以上、まずこちらを調べてみるしかなさそうだ。
「んじゃ、暗号はひとまず置いといて、中庭の噴水に行ってみましょっか」
「ああ、そうしよう」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。良い予感はないが、立ち止まるよりも行動しなければ。
俺たちは一階の中庭を目指し、再び廊下に出て歩き始めた。
灰色に塗られていて、塗料を剥がしたら金が出てくる……ということはなかった。
会議室前に辿り着いた俺たちは、鍵を使って扉を解錠する。
そして、慎重に気配を伺いながら室内に入った。
「まさに会議室、だな」
というソウヘイの言葉に、全員が賛同する。
部屋の真ん中に置かれた長テーブル、壁際に立つホワイトボード、それにパソコンの画面を映す用なのだろうプロジェクター。典型的な会議室の設えだ。
中に入ってまず目に入ったのは、テーブルの上に置かれたカード状のもの。
ライトで照らして確認してみると、それはどうやらIDカードだった。
「何だろ、このカード……」
「ゲスト用って書いてるみたいですけど……そもそも今まで探索してきて、IDカードが必要なところはなかったですよね」
「そうよね」
ここは一応住宅なわけだし、会社などで導入されているようなカード認証のセキュリティが必要そうには思えない。
もしも認証が必要な場所があるなら、それは余程秘匿せねばならない場所ということになるだろうが……。
あれこれ考えていると、ふいにランが後ろを向き、声を張り上げた。
「あ、これッ!」
「……ん?」
「間違いないわよ! 角が金、だもの」
ランが指差す先には、他の所でも見た悪魔の石像が立っている。
しかし、その片側の角は金色に塗られていた。
「塗料で塗ってるだけか……安っぽいけど、確かに金ではあるな」
「ああ。四つ目の暗号の答えはこれだろう。多分、この像のどこかに……」
一番怪しいのは金色になっている角の部分だ。注意深く見てみると、継ぎ目があることに気付く。
角を掴み、捻ってみる。すると角はクルクルと回り、最後には像から取れ外された。
「こんな構造になってたのか……」
中には空洞があり、そこに丸めた紙が詰められている。まだ暗号は続くようだが、とりあえず『つのがきん』は解明だ。
俺は細い空洞に指を差し入れ、何とか紙を取り出した。そしてそれを全員の前で広げる。
さあ、次の暗号は如何なるものなのか――。
「……な、なんだこれ」
驚愕の声を発したのは俺だったが、気持ちは皆同じだったことだろう。
提示された文字は『みひみえに』。これまでの暗号と違い、単語の一つも浮かび上がってこない意味不明な羅列だ。
「……みひ、みえに……どう読めばいいんでしょう?」
「これも五文字で何かを表してるのかねえ?」
「さてな……」
ニガナやイコイなど、意味をとれそうなものが一つでもあれば全体の連想ができるかもしれないが、これだと連想以前の問題だ。
平仮名で書かれてはいるものの、そもそも日本語という感じがしない。いや、むしろ読めるものという感じすら。
「うーん……」
「どした、ラン?」
「……いや、もう頭がキャパオーバーなだけ」
極限状態での謎解きだ、元気が取り柄のランだって、疲れてしまっても仕方ない頃だろう。口には出さないが、俺だってもうかなり参っている。それはソウヘイやシグレくんも同じはずだ。
「……無理すんな、うん」
「ありがと。でも、これが唯一辿っていける謎なのよねえ……」
行き着く先は分からないが、ランの言う通り追いかけやすい謎はこれしかない。後は所々に鍵が隠されていて、探索場所が増えるくらいなのだし。
まあ、それも誘導されている感はかなりあるわけだが。
「……他にも辿れる謎はあるみたいだぜ」
そう告げたのはソウヘイだった。何事かと振り返ると彼はホワイトボードを指差している。
消し忘れたグラフでも残っているのかと思っていたが、ボードには何やら奇妙な図形が描かれているようだった。
「これは……」
底辺は長方形、その真ん中から縦棒が伸び、頂点は円になっている。その円から上部五方向に、短い直線が伸びている絵だった。
デフォルメされているが、何かを示していることは間違いない。
「何かしら、これ?」
黒のマジックで書かれた図形を、ランは首を傾げながらもしげしげと見つめる。
簡略化された絵ではあるが、直感だけで一つ挙げられるとすれば、アレに似ている気がする。問題は、俺の考えているものが館内に存在するのか、だが。
「ソウヘイ。中庭って調べてるか?」
「お、察しがいいな。俺もそこに答えがあると思ったクチさ」
ということは、俺もソウヘイも同じものを思い浮かべているということだろう。
「中庭……もしかして、噴水ですか?」
「その通りさ、シグレくん。俺は一度中庭を見てるし、確定って言ってもいいんじゃねえかな」
図が示すのは、中庭の噴水。
暗号と同じように、そこにも何らかの手掛かりが隠されているのか。
暗号が皆目見当もつかなくなった以上、まずこちらを調べてみるしかなさそうだ。
「んじゃ、暗号はひとまず置いといて、中庭の噴水に行ってみましょっか」
「ああ、そうしよう」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。良い予感はないが、立ち止まるよりも行動しなければ。
俺たちは一階の中庭を目指し、再び廊下に出て歩き始めた。
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