83 / 141
【幻影鏡界 ―Church of GHOST―】
21.第二の屍体
しおりを挟む
一角荘の南側を捜索することになった俺は、さっきまで調べ回っていた物置小屋とは反対側の道を進んでいた。
マキバさんの話では、こちら側には小さな洞窟があるらしい。人が入れるレベルのものかは分からないが、物を隠すのには好都合な場所と言えそうだ。
良からぬものがないことを祈りたいが……。
「……霊空間、ねえ」
暗闇の丘。
スマートフォンのライトを明かりにしながらの探索。
相変わらず風は吹かないが、肌寒さはしっかりと感じる。黒影館では室内でこの空間に閉じ込められたわけだが、今回は丘全体が鎖されるという奇怪な状況だ。
橋が壊されたわけでも崖が崩れたわけでもない。けれども俺たちは、よくあるミステリのようなクローズド・サークルの只中にいる。
「昔は霊なんて、信じちゃいなかったんだけどな」
その他ならぬ俺が、人造魂魄などという非現実の塊みたいな存在だなんて。
それを突きつけられたら、否応なしに認めるしかないのだ。
自身の存在も、この状況も。
「……ん……」
幅の狭くなった道。片側には木々が、もう片側には岩壁が立ち塞がっている。どうやら洞窟はこの岩壁の割れ目に出来ているようだ。まだ人が通れる大きさほどではないが、亀裂のような部分を幾つか通り過ぎていた。
違和感に気付いたのは、道をしばらく進んでから。あるところで、地面に落ちた枝葉の数が増えたからだ。
どうも風雨によって落ちたとは思えない、強引に折られたようなものが幾つか落ちている。一目見ただけでも、それは不自然だった。
……そして。
スマートフォンの光を慎重に奥へと向けたとき、違和感は確信に変わる。
紅葉の色ではない、もっと深く暗い赤色が地面に散りばめられていた。
それは見紛うことなき――血痕。
「マコちゃんッ!」
まるで、ミコちゃんの死がそこに再現されているようだった。
血溜まりの中には、マコちゃんが仰向けで倒れていた。
その表情は信じられないものを見たかのように大きく目が見開かれ。
四肢はやはりあらぬ方向へ折れ曲がった状態で横たわっているのだった……。
「なんでまた……こんなことに……!」
脈を確認するも、当然ながら意味はない。
青褪め、動きを止めた彼女の身体は、そこにもう魂が存在しないことを物語っている。
彼女を救うことはできない。
できるのは、彼女を弔うこと、そして彼女に何があったかを紐解くことくらいだ。
俺は急ぎ一角荘前まで戻り、付近を捜索していたマキバさんに死体の発見を伝えた。それからシグレとも合流し、三人で現場へ向かった。
「……酷い、な」
口元を押さえながら、マキバさんは小さく呟く。シグレは言葉を発することもできず、ただ一歩後ろで涙ぐんでいた。
「君が見つけたときには……もう?」
「ええ……殺されて、間もない感じでした」
これだけの外傷があるのだから、他殺とみて間違いはないと思うのだが。
可能性があるとすれば……この岩壁の上から突き落とされたとか。ただ、今回の場合は有り得そうだが、ミコちゃんの事件は周囲にそこまで高低差のあるものはなかった。
「どうしてマコちゃんは、こんな場所で……犯人に呼び出されたんでしょうか?」
「どうだろうね……」
「……マコちゃんが抜け出したのは、どれくらい前だ?」
「えと、しばらく一角荘の中を探したから……レイジくんたちに会う十分くらい前です」
ここまで来るのに、徒歩で大体十分くらいだろう。周辺の地理に詳しいマキバさんに確認をとると、
「それくらいだね。一角荘を真ん中とすれば、上にある教会へも、下にある小屋やこの辺りへも、だいたい十分ちょっとかかる」
「……なるほど」
「鉢合わせしていれば、止められたんだけどね……」
「それは、仕方ないです」
このような事態になっているとは夢にも思っていなかったのだ。……それに、マコちゃんが正規の道を通った確証があるわけでもない。さっき考えていたように、岩壁の上から転落した可能性もあった。
改めて死体を確認する。腕や足は無造作に投げ出され、露出している肌のあちこちに痣が浮かんでいる。
頭はバックリと割れているのだろう、夥しい量の出血はどうやら頭部から流れ出ているようだ。
瓜二つの死体。
ミコちゃんもマコちゃんも共通した死に方なのには、何か意味があるはずだが。
「……あれ」
「……レイジさん?」
俺が首を傾げるのに、シグレが何だろうとばかりに訊ねてくる。
何が引っかかったのかと言えば、それはマコちゃんの腕から覗いている痣だった。
「やっぱり、この子は……」
打撲痕とは明確に違うと分かる痣。
俺の背中にも存在する、幾何学模様にも見えるような複雑な痣だった。
「……左腕の、服に隠れてた部分。ここに痕がある」
「痕って……聖痕ですか……!?」
「……ああ。魂魄が改造された証、消えない痕。やっぱり……マコちゃんたちも実験の被害者だったんだ」
事故の犠牲者として報道されていたのは、死者三人と行方不明者一人。だが、被験者が表面上何事もなく生還していたなら、報道されるわけもない。
つまり、橘姉妹は知られざる第五、第六の被験者だった……。
マキバさんの話では、こちら側には小さな洞窟があるらしい。人が入れるレベルのものかは分からないが、物を隠すのには好都合な場所と言えそうだ。
良からぬものがないことを祈りたいが……。
「……霊空間、ねえ」
暗闇の丘。
スマートフォンのライトを明かりにしながらの探索。
相変わらず風は吹かないが、肌寒さはしっかりと感じる。黒影館では室内でこの空間に閉じ込められたわけだが、今回は丘全体が鎖されるという奇怪な状況だ。
橋が壊されたわけでも崖が崩れたわけでもない。けれども俺たちは、よくあるミステリのようなクローズド・サークルの只中にいる。
「昔は霊なんて、信じちゃいなかったんだけどな」
その他ならぬ俺が、人造魂魄などという非現実の塊みたいな存在だなんて。
それを突きつけられたら、否応なしに認めるしかないのだ。
自身の存在も、この状況も。
「……ん……」
幅の狭くなった道。片側には木々が、もう片側には岩壁が立ち塞がっている。どうやら洞窟はこの岩壁の割れ目に出来ているようだ。まだ人が通れる大きさほどではないが、亀裂のような部分を幾つか通り過ぎていた。
違和感に気付いたのは、道をしばらく進んでから。あるところで、地面に落ちた枝葉の数が増えたからだ。
どうも風雨によって落ちたとは思えない、強引に折られたようなものが幾つか落ちている。一目見ただけでも、それは不自然だった。
……そして。
スマートフォンの光を慎重に奥へと向けたとき、違和感は確信に変わる。
紅葉の色ではない、もっと深く暗い赤色が地面に散りばめられていた。
それは見紛うことなき――血痕。
「マコちゃんッ!」
まるで、ミコちゃんの死がそこに再現されているようだった。
血溜まりの中には、マコちゃんが仰向けで倒れていた。
その表情は信じられないものを見たかのように大きく目が見開かれ。
四肢はやはりあらぬ方向へ折れ曲がった状態で横たわっているのだった……。
「なんでまた……こんなことに……!」
脈を確認するも、当然ながら意味はない。
青褪め、動きを止めた彼女の身体は、そこにもう魂が存在しないことを物語っている。
彼女を救うことはできない。
できるのは、彼女を弔うこと、そして彼女に何があったかを紐解くことくらいだ。
俺は急ぎ一角荘前まで戻り、付近を捜索していたマキバさんに死体の発見を伝えた。それからシグレとも合流し、三人で現場へ向かった。
「……酷い、な」
口元を押さえながら、マキバさんは小さく呟く。シグレは言葉を発することもできず、ただ一歩後ろで涙ぐんでいた。
「君が見つけたときには……もう?」
「ええ……殺されて、間もない感じでした」
これだけの外傷があるのだから、他殺とみて間違いはないと思うのだが。
可能性があるとすれば……この岩壁の上から突き落とされたとか。ただ、今回の場合は有り得そうだが、ミコちゃんの事件は周囲にそこまで高低差のあるものはなかった。
「どうしてマコちゃんは、こんな場所で……犯人に呼び出されたんでしょうか?」
「どうだろうね……」
「……マコちゃんが抜け出したのは、どれくらい前だ?」
「えと、しばらく一角荘の中を探したから……レイジくんたちに会う十分くらい前です」
ここまで来るのに、徒歩で大体十分くらいだろう。周辺の地理に詳しいマキバさんに確認をとると、
「それくらいだね。一角荘を真ん中とすれば、上にある教会へも、下にある小屋やこの辺りへも、だいたい十分ちょっとかかる」
「……なるほど」
「鉢合わせしていれば、止められたんだけどね……」
「それは、仕方ないです」
このような事態になっているとは夢にも思っていなかったのだ。……それに、マコちゃんが正規の道を通った確証があるわけでもない。さっき考えていたように、岩壁の上から転落した可能性もあった。
改めて死体を確認する。腕や足は無造作に投げ出され、露出している肌のあちこちに痣が浮かんでいる。
頭はバックリと割れているのだろう、夥しい量の出血はどうやら頭部から流れ出ているようだ。
瓜二つの死体。
ミコちゃんもマコちゃんも共通した死に方なのには、何か意味があるはずだが。
「……あれ」
「……レイジさん?」
俺が首を傾げるのに、シグレが何だろうとばかりに訊ねてくる。
何が引っかかったのかと言えば、それはマコちゃんの腕から覗いている痣だった。
「やっぱり、この子は……」
打撲痕とは明確に違うと分かる痣。
俺の背中にも存在する、幾何学模様にも見えるような複雑な痣だった。
「……左腕の、服に隠れてた部分。ここに痕がある」
「痕って……聖痕ですか……!?」
「……ああ。魂魄が改造された証、消えない痕。やっぱり……マコちゃんたちも実験の被害者だったんだ」
事故の犠牲者として報道されていたのは、死者三人と行方不明者一人。だが、被験者が表面上何事もなく生還していたなら、報道されるわけもない。
つまり、橘姉妹は知られざる第五、第六の被験者だった……。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる