この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―

至堂文斗

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Second Chapter...7/20

一日の終わり

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「ただいま」

 家に帰ると、両親がおかえり、とすぐに返してくれる。僕はさっさと洗面所で手洗いうがいをして、自室に鞄を置きに行く。部屋の時計を見ると、もう六時になるところだった。昨日もこれくらいの時間に帰って来たな。
 誘惑に負けたので、ベッドに倒れて、少しだけ今日の疲れを癒す。ともすれば眠ってしまいそうになるけれど、そこは毎度のこと、母さんが眠気を覚ましてくれる。晩御飯よ、という呼び声だ。
 一階へ下り、リビングへ向かう。父さんは席について眼鏡を拭いていて、母さんは料理を手に、キッチンとリビングを行き来していた。僕も自分の席に着く。

「いただきます」

 料理が並び、母さんが席についてから、三人で合掌して食事にとりかかる。
 もう、慣れた営みだ。

「今日は病院、どうだった?」
「そんなのいつもと変わらないよ。健康そのもの」

 満生台へ引っ越してきてもう一年、時間が経つのは早い。僕だけでなく、両親も不安で一杯だっただろうけれど、今ではそんな陰もなく、喜ばしい限りだ。
 父さんは、以前まで勤めていた会社を辞め、IT系の企業に何とか就職して、この家で仕事をしている。永射さんが推進しているテレワークの実行者というわけだ。遅くまで働き、ヘトヘトで帰って来ることの多かった父さんも、今はこうして家族といられる時間が増え、有難いとよく口にしている。あの頃の時間は取り戻せないが、今は充実していると。
 母さんも、専業主婦なのは変わっていないけれど、やっぱり父さんが家にいることで、気持ちも大分違うらしく、笑顔が増えた。いや、それは母さんだけでなく、家族全員なのだけど。
 それから、料理も美味しくなったと思う。特に、オムライスを作る腕はかなり上がったんじゃないだろうか。昔は卵が固くて、チキンライスもケチャップの量がまちまちだったし。
 ……あいつも……、……いや。

「あ、そうだ、母さん」
「うん、どうしたの?」
「明日、お昼過ぎに出かけるから。帰りは多分、今日と同じくらいだと思う」
「あら。また皆で集まるの?」
「そうそう。満雀ちゃんもいるし、遅くはならないよ」
「そうね。あの子、遠くへはいけないでしょうしね」
「今は……ね」

 満雀ちゃんは、この満生台から出ることは難しいのだろう。両親も、それを許可したりはしなさそうだ。
 でも、いつかは満雀ちゃんと、外の世界で遊んだり、観光したりしたいな、と思っている。それは、他の皆も同じ筈だ。

「せっかく四人、仲良くなれたんだし、いつかは一緒に、どこへでも行けるんだって風になりたいもんだよ」

 その言葉に、父さんも母さんも、笑って頷いてくれた。
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