この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―

至堂文斗

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Third Chapter...7/21

鬼たちの影

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「……はあ、あいつがいると疲れるわ」
「でも、いい疲れなんじゃない?」
「冗談言わないの」

 と言いながらも、龍美も満更ではなさそうだ。

「さ、私たちも帰りましょっか。やることはやったしね」
「そうだね。虎牙も心配してくれたし、暗くなる前に帰ろう」

 その心配は、彼なりの言葉で、だけど。
 片付け忘れた物がないかの最終チェックをして、僕と龍美も秘密基地を出た。まだ空は明るいが、この森の中では陽の光もかなり遮られる。もし陽が暮れるまでここにいたとしたらと考えると、結構怖いな。

「ねえ、玄人」
「うん?」

 道の途中で、龍美はふいに僕の名を呼んだ。僕が彼女の方を向くと、

「玄人も、もう満生台に来て一年経つし、知ってるとは思うんだけどさ。……この先にある池のこと」
「池……」

 そう言えば、この山中には割と大きな池があるんだったか。秘密基地に近い場所にあったんだな。
 確か、この森が黒い森って呼ばれてるのと同じように、池にも名前がついていたような気がする。
 そう、確か。

「その池、鬼封じの池とか言われてるらしいのよね」

 ――鬼。

「……鬼、ね」
「うん。何か、気になるのよ」

 龍美は、口元に指を当てながら言う。

「三匹の鬼の伝承は、何となくこの村に広まってるじゃない? だから、自然と知る機会もあったんだけどさ。どうも鬼封じの池っていう名前の理由は、まるで情報が入ってこないじゃない。そっちの伝承だけは皆忘れちゃったっていう可能性もなくはないけど、それはちょっと違和感があるのよねえ……」
「鬼繋がりで、何か関連がありそうな感じもするもんね。池のことを誰も知らないってのは、そういえば変かもしれない」

 知ってて口にしない、ということもあり得るだろうが、だとすればそれが何故なのかも気になってくるし。

「最近のことがあって、鬼について色々調べたいなって思い始めてきちゃって。……だから、あの池も探検してみたいなーと」
「探検?」
「そ。ちょっと危ないかもしれないけどね。こうやって秘密基地で遊ぶくらいだし、そういうことしてみても悪くはないんじゃない?」

 龍美は期待の込められた目で、こちらを見つめてくる。さらっとした口調だが、心中はかなりやってみたいと思っているのだろう。そんな目で見られては、断ることも出来ない。

「僕は全然構わないけど。虎牙とか、満雀ちゃんは行けるかな?」
「虎牙は無理やり引っ張って来るわよ。でも、そうねえ。満雀ちゃんは呼ばない方向でいきましょ。絶対、負担がかかっちゃうから」
「それがいいかな」

 多分、彼女にとっては僕らと遊ぶだけでも、長時間になれば負担があるはずだ。探検に行くんだとすれば、満雀ちゃんには申し訳ないけれど、呼ばないほうがいい。
 後で、冒険譚を教えてあげればいいだろうし。

「んじゃ、ちょうど明日は日曜日だし、早速探索行ってみましょ!」
「え、明日?」

 それはいきなりすぎやしませんか。

「こういうのは早い方が良いのよ」

 と、よく分からないことを言いながら、

「決まったところで、虎牙に連絡しとこ」

 龍美はすぐさまスマホを取り出して、グループチャットにメッセージを投げた。

『明日の昼、三人で鬼封じの池に探検に行くわよ! 拒否権は無し!』

 そして、満足気に数回頷くと、

「うん。これでオッケーね」
「あはは……そうだね」

 その後すぐ、虎牙から『めんどくせえ』と返事が来たが、そこは全く意に介さず、

『今日と同じく、一時集合ね』

 と、虎牙も行くことが前提の発言を返した。そこからは、何も返答はなかった。
 鬼封じの池。もしもその『鬼』が、伝承にある三匹の鬼と一緒の意味だったとしたら。
 その池には、三匹の鬼が封じられているということになるのだけれど。
 果たして、鬼封じの池と言う名前には、どんな理由があるのだろう。
 明日の探検で、その謎が少しでも解明されたりするのかな。
 十分ほどで森を抜け、僕らは街に戻ってくる。龍美とは、しばらく帰り道が一緒だが、今日は龍美が秤屋商店に寄ってから帰るらしく、別れ道ですぐお別れとなった。

「じゃ、明日の昼一時ね! 玄人のことだから心配はしてないけど、遅れないように」
「了解。じゃ、また明日」
「ん。また明日」

 手を振って、僕らはそれぞれの道を歩き出す。空はもうそろそろ、赤みがかってくる頃合いだった。
 長い田園を過ぎ、舗装された道を右に曲がって、学校が見えてくる。そのとき、僕はふいに、見知った人達が一本向かいの道を歩いているのに気付いた。

「……あれは」

 どうもそれは、牛牧高成うしきたかなり さんと、瓶井史かめいふみ さんのようだった。牛牧さんは白衣のまま、瓶井さんは着物を纏い、ゆっくりと歩いている。
 牛牧さんと瓶井さんという組み合わせを見かけるのは珍しい。偶然会ったのかもしれないけれど、帰り道とか一緒だったっけ。何となく気になって、僕は自然に歩きつつ、二人がどんな会話をしているのかと、耳を澄ませてみた。

「……の伝承、ですか……」
「……また村が……なこと……」
「……に、でしたか」
「……そう……鬼です」

 ……また、鬼だ。

「……」

 意識してしまっているから、何度も耳にすると感じるだけだろうか。
 でも、龍美と同じように、やっぱり僕も意識はしてしまう。
 鬼、か。
 瓶井さんが伝え聞くその鬼とは、どんな存在なのだろう。
 そのうち、聞く機会があれば聞いてみたいものだ。
 二人の姿が見えなくなるのを視界の端にとめながら、僕はそんなことをぼんやりと考えた。





 帰宅後、食事の時間にそれとなく、両親に鬼封じの池のことを聞いてみたのだが、やはり父さんも母さんも、その詳細は知らないようだった。他の住人が何も言わないのだし、新参者の真智田家が分かるわけはないか。
 最近、やたらと鬼づいている、というのが気にかかるけれど、明日の探検は一体どうなるのやら。何かが起きてほしいような気もするし、何も起きずに終わってほしいという思いもある。期待と不安のごちゃ混ぜだ。

「……ふう」

 今日も足が疲れた。部屋に戻り、僕はすぐにベッドへ倒れ込む。僕は肌が弱いこともあって、長く歩いた日は足が赤くなったりもするから、労わらなくては。
 今宵の空は、日中と打って変わって曇天だ。月の光は遮られていても、大きな電波塔は、それでも存在感を放っている。
 鬼は、あの電波塔を憎んでいるだろうか。
 ……分かる筈もないけれど。

 それから僕は、少しだけ試験勉強を頑張ってから、就寝した。
 
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