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Fourth Chapter...7/22
廃墟の中で
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建物は、入口以外は完全に埋もれていて、光が一切入らない。廃墟マニアも腰が引けるような、ホラー感たっぷりの場所だ。僕はすぐに懐中電灯を点けて、内部を照らしてみた。
この建物は、壁も床も、どうやらコンクリートで出来ているようだ。数十年以上前の三鬼村に、コンクリート建築の技術があったのだろうか。それも疑問だが、現にこうしてこの建物がある以上、建てられる人がいた、ということだろう。
玄関にあたる部分には、テーブルや椅子の残骸があって、割れた花瓶なども転がっている。割と間取りは広く、待合室や受付といった空間のように思えた。
「おっと」
奥へ進もうとして、虎牙が躓く。どうやらこの中にも、土砂が流れ込んできているようだ。仮に今、大きな地震が起きたりしたら、ここは埋もれてしまうかもしれない。ほぼ有り得ないことだろうが、想像すると恐ろしくなった。
「玄人、ライトしっかり頼むわよ」
「う、うん」
龍美と虎牙は、僕の背中にぴったりつくくらいに近づいている。仕方ない。懐中電灯を持っている手前、僕が先導するしかないよな。
真っ直ぐ進むと、また木の扉があった。軍手をはめた手でノブを握り、ゆっくりと開く。錆びた金具がギイイ、と音を立てるのが耳障りだ。
扉を抜けた先の部屋には、本棚が壁一面に並んでいて、そこにも古びたテーブルと椅子があった。多分、ここは図書室だったようだ。
「図書室って……こんな森の中の建物に、いる?」
「そんなこと言われても」
「……何なのかしら、ここって」
それは、三人の誰にも分かるはずがない。
室内は、土と埃まみれだ。歩くだけで塵が舞い、くしゃみが出てしまう。
口元を手で覆いながら、僕らは本棚に並ぶ本の背表紙を見ていく。
「……駄目。劣化が進み過ぎてて、良く分かんないわ。湿気が多いし、傷みやすかったのね」
「こっちも、文字なんか判別出来ねえものばっかりだぜ」
虎牙はそう言いながら、恐る恐る本を一冊抜き出した。だが、開けばバラバラと紙片が落ちていってしまい、とても読める状態でないのは明らかだった。舞い散る埃に、虎牙は盛大にむせている。
「どの本もそんな状態でしょうねー……」
溜息を吐いて、龍美はテーブルの方に歩いていく。椅子にでも座りたいのかな。正直なところ、僕も疲れと緊張とで、座って一息つきたくなっていた。
「……ん?」
そこで、テーブルに視線を落とした龍美が首を傾げた。何かがテーブルの上にあるらしい。
僕と虎牙は、ゆっくりと彼女の所に向かう。
「この分厚いカバーの本は、まだ何とか読めそうね……」
テーブルには、革表紙の本が、広げられたままで置かれていた。触れれば破れてしまいそうではあるけれど、この本は何とか、その形を保ったままでいた。ただ、開かれたページは劣化が進み、何も分からなくなってしまっている。
龍美が触ると破れてしまいそうなので、ここは僕は慎重に、ページをめくってみることにする。
「慎重によ! 奇跡的に残ってる資料なんだからね!」
大声を出したら破れてしまうと思ったのか、龍美は小声で僕に命じる。僕は僅かに頷いて、そろそろと指を動かし、紙をつまんで捲った。
何とか成功だ。ページはひらひらと捲れ、その先にはちゃんと読むことの出来る文字が現れた。
……しかし。
「これは……」
「どういうことよ……これ」
二人の震えた声が、静寂の部屋に反響した。そして、それは僕の頭の中でも繰り返し吐き出された疑問だった。
これは、何なのだろう?
「名前、名前、これも名前……全部、人の名前だよね?」
開かれたページ。そこには細い筆で、人の名前らしきものが、ただ延々と記されていた。びっしりと、確りとした字体で。
これは、もしかして……。
「当時の村人たちの、名簿……?」
「そうかもしれないわ。でも、こんなところにあるって……」
「……待てよ」
そこで虎牙が、何かを思いついたらしく、口を開いた。
「そもそも三鬼村が、今の満生台と同じ場所にあったとは限らねえじゃねえか。もしも、ここが村の役場みたいなところだったとしたら? 名簿が置かれてあるのも、図書室があるのも変じゃねえぞ」
「あ、確かに……」
その可能性があったかと、龍美は何度か頷く。
けれど、だとしたら森の中に、もう少し人が過ごした名残みたいなものがあったりしないだろうか。……どうなのだろう。
それくらいしか考えつかない。そういう仮定ばかりだが、実際これ以上、分かりっこないのだ。ここにあるもの全て、僕らの理解の範疇を超えている。
「……ッ」
急に、頭に鋭い痛みが走った。気味の悪い感覚。頭の奥深くで、何かが呻いているような、そんな寒気のする……。
「ね、ねえ……もう帰りましょっか? ここが何だったのか、大体見当はついたし」
龍美も頭を押さえながら、弱々しい声でそう提案してくる。ここにきて、恐怖心が好奇心を上回ってしまったようだ。暗い部屋の中ではあるが、どことなく彼女の顔が青ざめているのが分かる。
「……そうする? あんまり奥に行くと、色々危ないかもしれないし。土砂に埋もれてる建物だからね……」
「……ま、いいけどよ」
虎牙も、そっぽを向きながらそう返事をしてくれた。これ以上ここにいると、頭が混乱してしまいそうだ。僕はまだいいけれど、龍美が危ない気がする。
図書室のような部屋を後にして、僕らは玄関口に戻る。最初は気づかなかったが、そこにはもう一つ、別の部屋へ続いているらしい扉があった。
「……」
「気になる?」
扉を見つめる虎牙に、そう訊ねると、彼は、
「まあな。……悪いけど俺は現実主義者でよ。得体の知れないまま、終わらせたくないんだ」
「あはは、その気持ちも分かるよ」
僕も、答えが出ないままという状態はどちらかと言えば嫌いだ。神経質な性格のせいか、ずっともやもやしてしまうから。
「……じゃあ、龍美は外で待っててよ。僕と虎牙で、ちょっと覗きに行ってくる」
心配してそう言ったのだが、それが龍美には逆効果だったようで、
「馬鹿! 置いてかれたらそれこそ怖いじゃない。……あーもう、ついてくわよ。ただししんがりでね」
「へっ、こいつのこんな態度、珍しいな」
「うるさいわよっ」
中々辛辣な言葉だったが、虎牙のおかげで少しだけ、気持ちを持ち直したらしい。口を真一文字に結びながらも、龍美は僕らの後ろについてきた。
この建物は、壁も床も、どうやらコンクリートで出来ているようだ。数十年以上前の三鬼村に、コンクリート建築の技術があったのだろうか。それも疑問だが、現にこうしてこの建物がある以上、建てられる人がいた、ということだろう。
玄関にあたる部分には、テーブルや椅子の残骸があって、割れた花瓶なども転がっている。割と間取りは広く、待合室や受付といった空間のように思えた。
「おっと」
奥へ進もうとして、虎牙が躓く。どうやらこの中にも、土砂が流れ込んできているようだ。仮に今、大きな地震が起きたりしたら、ここは埋もれてしまうかもしれない。ほぼ有り得ないことだろうが、想像すると恐ろしくなった。
「玄人、ライトしっかり頼むわよ」
「う、うん」
龍美と虎牙は、僕の背中にぴったりつくくらいに近づいている。仕方ない。懐中電灯を持っている手前、僕が先導するしかないよな。
真っ直ぐ進むと、また木の扉があった。軍手をはめた手でノブを握り、ゆっくりと開く。錆びた金具がギイイ、と音を立てるのが耳障りだ。
扉を抜けた先の部屋には、本棚が壁一面に並んでいて、そこにも古びたテーブルと椅子があった。多分、ここは図書室だったようだ。
「図書室って……こんな森の中の建物に、いる?」
「そんなこと言われても」
「……何なのかしら、ここって」
それは、三人の誰にも分かるはずがない。
室内は、土と埃まみれだ。歩くだけで塵が舞い、くしゃみが出てしまう。
口元を手で覆いながら、僕らは本棚に並ぶ本の背表紙を見ていく。
「……駄目。劣化が進み過ぎてて、良く分かんないわ。湿気が多いし、傷みやすかったのね」
「こっちも、文字なんか判別出来ねえものばっかりだぜ」
虎牙はそう言いながら、恐る恐る本を一冊抜き出した。だが、開けばバラバラと紙片が落ちていってしまい、とても読める状態でないのは明らかだった。舞い散る埃に、虎牙は盛大にむせている。
「どの本もそんな状態でしょうねー……」
溜息を吐いて、龍美はテーブルの方に歩いていく。椅子にでも座りたいのかな。正直なところ、僕も疲れと緊張とで、座って一息つきたくなっていた。
「……ん?」
そこで、テーブルに視線を落とした龍美が首を傾げた。何かがテーブルの上にあるらしい。
僕と虎牙は、ゆっくりと彼女の所に向かう。
「この分厚いカバーの本は、まだ何とか読めそうね……」
テーブルには、革表紙の本が、広げられたままで置かれていた。触れれば破れてしまいそうではあるけれど、この本は何とか、その形を保ったままでいた。ただ、開かれたページは劣化が進み、何も分からなくなってしまっている。
龍美が触ると破れてしまいそうなので、ここは僕は慎重に、ページをめくってみることにする。
「慎重によ! 奇跡的に残ってる資料なんだからね!」
大声を出したら破れてしまうと思ったのか、龍美は小声で僕に命じる。僕は僅かに頷いて、そろそろと指を動かし、紙をつまんで捲った。
何とか成功だ。ページはひらひらと捲れ、その先にはちゃんと読むことの出来る文字が現れた。
……しかし。
「これは……」
「どういうことよ……これ」
二人の震えた声が、静寂の部屋に反響した。そして、それは僕の頭の中でも繰り返し吐き出された疑問だった。
これは、何なのだろう?
「名前、名前、これも名前……全部、人の名前だよね?」
開かれたページ。そこには細い筆で、人の名前らしきものが、ただ延々と記されていた。びっしりと、確りとした字体で。
これは、もしかして……。
「当時の村人たちの、名簿……?」
「そうかもしれないわ。でも、こんなところにあるって……」
「……待てよ」
そこで虎牙が、何かを思いついたらしく、口を開いた。
「そもそも三鬼村が、今の満生台と同じ場所にあったとは限らねえじゃねえか。もしも、ここが村の役場みたいなところだったとしたら? 名簿が置かれてあるのも、図書室があるのも変じゃねえぞ」
「あ、確かに……」
その可能性があったかと、龍美は何度か頷く。
けれど、だとしたら森の中に、もう少し人が過ごした名残みたいなものがあったりしないだろうか。……どうなのだろう。
それくらいしか考えつかない。そういう仮定ばかりだが、実際これ以上、分かりっこないのだ。ここにあるもの全て、僕らの理解の範疇を超えている。
「……ッ」
急に、頭に鋭い痛みが走った。気味の悪い感覚。頭の奥深くで、何かが呻いているような、そんな寒気のする……。
「ね、ねえ……もう帰りましょっか? ここが何だったのか、大体見当はついたし」
龍美も頭を押さえながら、弱々しい声でそう提案してくる。ここにきて、恐怖心が好奇心を上回ってしまったようだ。暗い部屋の中ではあるが、どことなく彼女の顔が青ざめているのが分かる。
「……そうする? あんまり奥に行くと、色々危ないかもしれないし。土砂に埋もれてる建物だからね……」
「……ま、いいけどよ」
虎牙も、そっぽを向きながらそう返事をしてくれた。これ以上ここにいると、頭が混乱してしまいそうだ。僕はまだいいけれど、龍美が危ない気がする。
図書室のような部屋を後にして、僕らは玄関口に戻る。最初は気づかなかったが、そこにはもう一つ、別の部屋へ続いているらしい扉があった。
「……」
「気になる?」
扉を見つめる虎牙に、そう訊ねると、彼は、
「まあな。……悪いけど俺は現実主義者でよ。得体の知れないまま、終わらせたくないんだ」
「あはは、その気持ちも分かるよ」
僕も、答えが出ないままという状態はどちらかと言えば嫌いだ。神経質な性格のせいか、ずっともやもやしてしまうから。
「……じゃあ、龍美は外で待っててよ。僕と虎牙で、ちょっと覗きに行ってくる」
心配してそう言ったのだが、それが龍美には逆効果だったようで、
「馬鹿! 置いてかれたらそれこそ怖いじゃない。……あーもう、ついてくわよ。ただししんがりでね」
「へっ、こいつのこんな態度、珍しいな」
「うるさいわよっ」
中々辛辣な言葉だったが、虎牙のおかげで少しだけ、気持ちを持ち直したらしい。口を真一文字に結びながらも、龍美は僕らの後ろについてきた。
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