この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―

至堂文斗

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Fifth Chapter...7/23

呪いが蝕む

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 家に帰ってから、やることもないので僕は明日に備えて試験勉強をしていた。途中、スマホをいじって遊んだりしながら。
 他の二人は何をしているのか、グループチャットの発言もない。静かに、のんびりと時間は過ぎていった。
 夕食の席では、明日は何時ごろに家を出るのかとか、そんなことを軽く打ち合わせた。僕らは初めて参加するので、どんなものかは人づての情報しかないのだが、定時にはきっちり始まるらしく、それより早く着くようにしよう、ということになった。
 ……ひょっとしたら、瓶井さんの話を間近で聞けるかもしれないな。少しばかり、不謹慎な考えかもしれないけれど。

「……ふぅ」

 風呂を終え、電気も点けずに部屋のベッドに倒れ込む。何だか最近、疲れやすくなってきている気がした。気苦労が増えたからだろうか。何にも考えずにいられる時間は、確かに減ってきているが。

「まあ、健診でも異常なしって言われてるし。ただの疲れには違いないんだけどさ」

 それに、都会で暮らしていたときに比べれば、全然大したことではない。
 ふと、時計を見る。時刻はもうすぐ、九時になろうかというところだった。
 大きな欠伸を一つして、僕は電気くらい点けようと、立ち上がる。
 ――いや、立ち上がろうとした。
 でも……動かなかった。
 足が、棒のように固まって……動かせなくなっていた。

「……え」

 立ち上がろうとした勢いそのままに、僕は床に倒れ込んでしまう。辛うじて手を前に突き出して、受け身を取ることは出来たが、体中が痛む。
 どうして? 何度も何度も、足を動かそうと力を入れようとする。それでも、足には何の感覚もなく、ぴくりとも動かない。まるで――まるで、そこだけが死んでしまったかのような、そんな。
 体から、血の気が引いた。
 突然の事態に、頭が真っ白になる。
 そして、この体の異常が、足元から徐々に徐々に上ってくるような、そんな恐怖が押し寄せて。
 僕は声にならない声を上げながら、しばらく床を這いずった。
 体が、冷たくなっていく。
 意識が、消えそうになっていく。
 苦しい。吐きそうだ。
 誰か……。
 恐慌は、どれくらいの間続いたのか。果てしない時間にも思えた苦痛。だがそれは、時間にして数分もない僅かな間のことで。

「……」

 暗闇に、僕の荒い息だけが響く。落ち着こうと試みるほど、胸は苦しく、耐えがたくなる。
 更に、刺し貫くような頭痛が、追い打ちをかけた。

「――ッ」

 ああ……また、聞こえるような気がする。
 唸り声が……聞こえてくる、ような。
 そんな……。
 いつのまにか、足は動くようになっていた。だけど、その両足は、すっかり冷え切ってしまっている。白い、血の気が引いた足。多分、僕の顔も今、蒼白になっていることだろう。
 金縛り。そんな単語が、ふいに思い浮かぶ。今の現象を説明できる答えといえば、それくらいしかないけれど。
 でも、どうしてこんなときに、僕は金縛りになんかなってしまったのだろう。
 疲れのせい? 確かに、金縛りは医学的には睡眠麻痺と言われていて、過労や睡眠不足から起きると考えられているが、就寝中でもなく、意識がハッキリしているときに突然起きるなんて、あるのだろうか。
 瞬間的に、疲れのせいで寝惚けてしまっていた? そうであれば、可能性としてなくはないのだろうが……。
 痛む頭で、あれこれ考えていると、急に振動音がして、心臓が止まりそうになった。……スマホの通知だ。
 驚かせないでよ、と冷や汗を拭って、僕はその画面を映した。

『私たち、鬼に呪われたりしてないよね』

 龍美の発言だった。
 飾り気のない、シンプルな文面だった。

「……は?」

 ふざけてるわけじゃ、ないよな。
 でも、じゃあ……。
 僕は急いで返事をする。指が震えているのに気づいたけど、そんなことはどうでもいい。

『どうして?』

 すぐに既読が一つだけ付いて、その数分後、龍美から返事が来た。
 ……それは、文章ではなく、画像ファイルで。
 彼女の部屋で撮られたらしいその写真には、ノートいっぱいに書き殴られた、文字があった。

 『死』……その一文字が。
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