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Eighth Chapter...7/26
訪問
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昼食の後、両親に少しだけ出かけると告げて、僕は家を出た。雨が止むまで外出は控えた方がいいと言われたが、どうしても外せない用事だからと返すと、それ以上止めようとはしなかった。心配してくれる気持ちはありがたいけれど、大事なことなのだ。後でいくらでも謝るから、許してほしい。
気のせいかもしれないが、雨の勢いはさっきより弱くなっているように思えた。だが、いつになったら止むのかはさっぱり分からない。天気予報も外れ気味だし、この近辺の空模様は、予報すらあてに出来なかった。
瓶井さんの家は北側の、森の近くに建っている。もう少し山に近ければ、街を見渡せたかもしれない場所だ。彼女は地主なので、そうしたければ高い場所に新しい家を建てられそうだが、長年暮らしている今の家を取り壊す気にはならないのだろう。
そう言えば、山の中腹に八木さんの観測所があるけれど、あの場所に建っているということは、瓶井さんの許可をもらっているということだ。彼女も八木さんの仕事には肯定的ということか。地震の研究は街の防災にも繋がるし、昔から地震に悩まされてきたのだから、当然と言えば当然のことだな。
「……よし」
最近よく歩いているせいか、足が疲れてきたが、やっと瓶井さんの家に着く。僕の家も、街の中では大きい部類に入るけれど、この家はやはり格が違う。武家屋敷、とまで言うのは大げさかもしれないが、年老いた女性が一人で住むには広すぎる家には違いなかった。ここだけでなく、山や近隣一帯の土地すら彼女のものなのだから、凄いの一言しか出てこない。
玄関には、インターホンのような現代的なものはない。どうすればいいか迷った挙句、僕は引き戸を遠慮がちに叩いてみた。しばらくして、中からトントンと足音が聞こえ、下駄を履く音がした後に扉が開かれた。
「よう来なさったね。お入り」
出てきた瓶井さんに招かれて、僕は家の中に入る。十足以上は靴の置けそうな三和土だが、そのスペースが埋まることは永遠になさそうだ。傘立ても、端の方に申し訳なさそうに収まっている。
和室に案内され、用意されていた座布団の上に腰を下ろす。するとすぐに、瓶井さんは温かいお茶をちゃぶ台の前に置いてくれた。細かな気配りのできる人だ。
「ありがとうございます」
「客人をもてなすのは当然のことさ。……さて、何でも聞きたいことは話そう。とは言っても、子供が聞いて楽しいものじゃあないし、どこまで信じられるか定かじゃない話ではあるがね」
そう言って、瓶井さんもまた、向かいにあった座布団の上に座った。
「……僕がお聞きしたいのは、一つだけ。満生台……いえ、三鬼村に伝わる、鬼の伝承についてです」
「ふん。もっと多くの人が、興味を持ってくれればいいとは思っているんだがね。君だけでも、こうして話をしに来てくれて嬉しいよ」
「興味、なんですかね。どちらかと言えば、畏怖、に近いような感じもします」
「むしろ、その方がいい。伝承と言うのは、つまるところ訓戒のようなものだ。有名な昔話も、子供に対して、こんなことをしては罰が当たる、ということをお話に例えたものが多いからね。軽々しく考えない、というのはとても大切なことだ」
「なるほど……」
何となく、今までの瓶井さんの言動も、その考えに基づくものなのだ。伝承を軽んずるな。畏怖を持たねば、必ず罰が当たる。そんな思いで、瓶井さんは電波塔計画に反対の意思表示をしていたのだろう。
……そして、罰が当たった。
だから、瓶井さんはあの現場に現れたのだ。そして永射さんの死体の前で、告げたのだ。
これが、鬼の所業なのだと。
「三鬼村に伝わる、三匹の鬼の話……それは、一体どういうものなんですか? 本当にいるのですか? 祟りは、あるのですか……?」
「ふ、焦っちゃいけない。……村の長い歴史を語るには、時間が必要だよ。一から、ゆっくり説明していこう」
湯飲みのお茶を一口啜って、瓶井さんは、話し始めた。
気のせいかもしれないが、雨の勢いはさっきより弱くなっているように思えた。だが、いつになったら止むのかはさっぱり分からない。天気予報も外れ気味だし、この近辺の空模様は、予報すらあてに出来なかった。
瓶井さんの家は北側の、森の近くに建っている。もう少し山に近ければ、街を見渡せたかもしれない場所だ。彼女は地主なので、そうしたければ高い場所に新しい家を建てられそうだが、長年暮らしている今の家を取り壊す気にはならないのだろう。
そう言えば、山の中腹に八木さんの観測所があるけれど、あの場所に建っているということは、瓶井さんの許可をもらっているということだ。彼女も八木さんの仕事には肯定的ということか。地震の研究は街の防災にも繋がるし、昔から地震に悩まされてきたのだから、当然と言えば当然のことだな。
「……よし」
最近よく歩いているせいか、足が疲れてきたが、やっと瓶井さんの家に着く。僕の家も、街の中では大きい部類に入るけれど、この家はやはり格が違う。武家屋敷、とまで言うのは大げさかもしれないが、年老いた女性が一人で住むには広すぎる家には違いなかった。ここだけでなく、山や近隣一帯の土地すら彼女のものなのだから、凄いの一言しか出てこない。
玄関には、インターホンのような現代的なものはない。どうすればいいか迷った挙句、僕は引き戸を遠慮がちに叩いてみた。しばらくして、中からトントンと足音が聞こえ、下駄を履く音がした後に扉が開かれた。
「よう来なさったね。お入り」
出てきた瓶井さんに招かれて、僕は家の中に入る。十足以上は靴の置けそうな三和土だが、そのスペースが埋まることは永遠になさそうだ。傘立ても、端の方に申し訳なさそうに収まっている。
和室に案内され、用意されていた座布団の上に腰を下ろす。するとすぐに、瓶井さんは温かいお茶をちゃぶ台の前に置いてくれた。細かな気配りのできる人だ。
「ありがとうございます」
「客人をもてなすのは当然のことさ。……さて、何でも聞きたいことは話そう。とは言っても、子供が聞いて楽しいものじゃあないし、どこまで信じられるか定かじゃない話ではあるがね」
そう言って、瓶井さんもまた、向かいにあった座布団の上に座った。
「……僕がお聞きしたいのは、一つだけ。満生台……いえ、三鬼村に伝わる、鬼の伝承についてです」
「ふん。もっと多くの人が、興味を持ってくれればいいとは思っているんだがね。君だけでも、こうして話をしに来てくれて嬉しいよ」
「興味、なんですかね。どちらかと言えば、畏怖、に近いような感じもします」
「むしろ、その方がいい。伝承と言うのは、つまるところ訓戒のようなものだ。有名な昔話も、子供に対して、こんなことをしては罰が当たる、ということをお話に例えたものが多いからね。軽々しく考えない、というのはとても大切なことだ」
「なるほど……」
何となく、今までの瓶井さんの言動も、その考えに基づくものなのだ。伝承を軽んずるな。畏怖を持たねば、必ず罰が当たる。そんな思いで、瓶井さんは電波塔計画に反対の意思表示をしていたのだろう。
……そして、罰が当たった。
だから、瓶井さんはあの現場に現れたのだ。そして永射さんの死体の前で、告げたのだ。
これが、鬼の所業なのだと。
「三鬼村に伝わる、三匹の鬼の話……それは、一体どういうものなんですか? 本当にいるのですか? 祟りは、あるのですか……?」
「ふ、焦っちゃいけない。……村の長い歴史を語るには、時間が必要だよ。一から、ゆっくり説明していこう」
湯飲みのお茶を一口啜って、瓶井さんは、話し始めた。
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